「NIKE厚底シューズ」の正体とは?東京五輪でどうなる?世界陸連の新ルールは?これまでの足跡とトップランナーの証言をもとに再考察した (2/3)
箱根駅伝でも厚底シューズが席巻
2019年、お正月の風物詩・箱根駅伝でも厚底シューズが躍動します。「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット」を中心とするNIKEのシューズの着用率は41.3%。区間賞のうち7名(そのうち3区間が区間新記録)が、「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」か「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット」を着用していました。
▲2019年の箱根駅伝で多くのランナーが着用した「EKIDEN PACK」。ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニットは写真一番右
そして記憶に新しい2020年の箱根駅伝。着用率が驚異の84.3%、全区間賞のうち9名(そのうち6区間が区間新記録)の選手が着用。総合優勝を果たした青山学院大学の出場10選手が全員履いていたことから、注目を集めたNIKEの厚底シューズですが、2019年の時点でも高い着用率でした。
2019年4月には、さらなる進化を遂げた厚底「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」が発表されました。「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4%」と比較すると、「ナイキ ズーム X フォーム」が15%増量。前足部は4mm、踵部は1mm厚くなり、安定性を高めるために前足部は幅も広くなっています。悪天候への対応力を高めるべく、アッパーには水分の吸収率が極めて少ない「ヴェイパーウィーブ」を採用。アウトソールも、さまざまな路面に対応できるようにアップデートされました。
▲ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%
中村匠吾のかつてのイメージは「レース用=薄底」だった
この「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」が、2019年9月に開催された東京五輪のマラソン日本代表選考レース、MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)を席巻することに。出場した男子選手30名のうち、16名が「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」を選択。表彰台に上がった3人を含む、トップ10のうち8人が同シューズを着用していました。
▲MGCでの中村匠吾選手
ラストスパートで、後続選手を突き放し、見事に東京五輪のマラソン代表に内定した中村匠吾選手ももちろん「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」を着用していました。「ナイキ ルナスパイダー」シリーズを愛用していた中村選手が、厚底にシフトしたのは、2018年のベルリンマラソンの後。練習に「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット」を取り入れるようになったのだそう。
「レーシングシューズといえば薄底のシューズというイメージがあったので、厚底の登場は衝撃を受けました。2018年のベルリンでは薄底で自己ベストを出していたのですが、脚へのダメージが少ないということで厚底を試してみました。実際に履いてみると厚底の割に軽さがあって、自分自身の足にフィットしている感じがあって、スピードも出しやすかったんです。現在、ヴェイパーフライ ネクスト%は主に強度が高いスピード練習のときに着用しているんですが、翌日の疲労感が少ないんです。もちろん強度が高い練習をしたり、レースを走ればダメージがあるものですが、それが少ないなと感じています」
萩原歩美「エネルギーのロスが少ない」
豊田自動織機所属の萩原歩美選手も「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」のクッション性と推進力の高さに驚いたそうです。
「初めはやっぱりこんな厚いシューズで走れるのかな? と思ったんですが、慣れてくると足とシューズが1つになったような感覚になりました。エネルギーのロスが少ないというか、後半まで脚が残しておけるシューズという印象ですね。後半までフォームを崩すことなく走れる感じがあります。体へのダメージでいうと、強度の高い練習をしても足底筋が張らなくなりました。走っていて楽しいシューズですし、もっと私は強くなれる、もっとトレーニングを頑張ろうと思わせてくれます」
アスリートたちが口を揃えるのが、体へのダメージの少なさです。以前、大迫傑選手を取材させてもらったときも、「ナイキ ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」は、クッション性の高さが魅力だと話してくれました。脚へのダメージが少ないから、レース後半にスピードをあげることができる。強度の高い練習をしてもダメージが残りにくいから、トレーニングの質、量を上げていくことができる。厚底シューズは、選手の脚を守り、選手のトレーニングを手厚くサポートするシューズと言えるのかもしれません。
▲大迫選手(写真:編集部、2019年9月撮影)