2020年10月6日

【ランニングでケガ】足首・膝・股関節・腰・肩が痛い…。その原因と解決法を専門家に聞いた

 「健康やダイエットのために、ジョギングやランニングを始めたものの、足腰に痛みが出てしまって、やる気はあるのに走れない、続けられない……」、そんな悩みを抱えている方は多いようです。

 こうしたランニング自体に起因する体の痛み。足首痛、ひざ痛、股関節痛、腰痛、肩痛などは、どんなメカニズムで発症するのでしょうか? どんな点をチェックすれば痛みが出ないようになるのでしょうか? 日本リハビリテーション専門学校で教鞭をとる理学療法士で、昨年、チェコのプラハで最新の「リハビリトレーニング理論」を学び、日本で2人目のDNS療法士として認定された黒木光さんに解説いただきます。

本来の動かし方と違うことをすると痛みが発生する

 人間には基本となる身体の動かし方があるのですが、スポーツやランニングなど負荷のかかる運動を行なったとき、本来とは違う筋肉・関節の使い方をしてしまうことが、しばしば起こります。それが長い間に習慣化し、身体の一部に負荷がかかり続けてしまう場合、炎症が起きたり、痛みが発生したりします。これが、運動による痛みです。

 したがって、運動をして痛みが出ないようにするには、“身体本来の動かし方を自覚的に身につける”。これが大前提ということになるわけですが、そこでまず、自分が普段どのような姿勢でいるかを知る必要があります。以下のチェック方法を使って自分の姿勢を確認してください。

姿勢を知るための自己チェックの方法

A:骨盤の位置のチェック】

 下写真の人体模型のように仰向けになり、腰の位置をまっすぐにします。この状態から、片脚ずつ、脚をあげ、その時に腰や腹部の動きを確認します。両脚を浮かせて保持しても、腰が反ったりせず、まっすぐに安定していれば、問題ありません。

B:股関節、大腿部、ヒザまわり】

 まっすぐに立った状態から、片脚だけ一歩前に出て止まります。そのときのヒザのお皿の向きと、足の人差し指(第二趾)の向きが同じ方向を向いているかどうか(下写真を参照)。ヒザのお皿が内側や外側に向いていると、腰部と股関節の周りに、局所的な負担がかかっている可能性があります。また、少し負荷の高い運動になりますが、片脚スクワットをして、同じことを確かめるのもいい方法です。

C:臀部(でんぶ/おしり)の筋肉】

 片脚立ちをした時、立っている脚の側に体幹が傾いてしまったり(写真)、骨盤だけが外側へ大きくスライドしてしまうような場合は、臀部の筋肉がうまく使えない状態、もしくは筋肉が弱くなっている可能性があります。

D:全身の姿勢のチェック】

 鏡に自分の側面を映して、足のくるぶし、ヒザの外側のでっぱりの部分、股関節の大転子、胸郭の中央部、肩の外側のでっぱり(肩峰)、耳たぶが床面から垂直線上に並んでいるかどうか。並んでいれば、正しい姿勢といえます。

 もし正しい姿勢をしていなければ、痛みが発生するかもしれません。もう少し、痛み発生のメカニズムを詳しくみてみましょう。

痛みの原因は骨盤の不安定さ

●「痛み」のメカニズム ケース①:骨盤が前に傾いている場合

 骨盤(背骨と足の骨を接続し連係させる腰の骨)が前傾し、腰が反る姿勢をとりやすい人の場合、大腿部の中央を走る「大腿直筋」という長い筋肉が過剰に使われ、股関節の屈筋群も短縮した状態になっているので、これらの筋は硬直する傾向にあります。また胸腰部の「脊柱起立筋」は収縮して硬く、腹側の「腹直筋」は弱くなりがちです。

 このような立位姿勢における筋活動の変化から、股関節やヒザ、足関節に無理な力がかかるため、動かす際にも各関節で無理な力が加わり、痛みが出ることがあります。また、ヒザが伸びて、身体のうしろ側に体重がかかることで、足の土踏まずのアーチが潰れ、足首のくるぶしに痛みが出ることも考えられます。

●「痛み」のメカニズム ケース②:骨盤が後傾したスウェーバック姿勢の場合

 スウェーバック姿勢とは、椅子に浅く腰掛けて体重を後ろに預け、猫背で座るようなイメージと言えば、分かりやすいかもしれません。立った状態でもこのような姿勢の人は、日本人に比較的多いといわれています。特徴は以下のようになっています。

・頭がからだの前側に出て、顔は正面を向いているため、首の後ろ側の筋が短縮している。
・のどの前側の筋肉があまり使われないので弱くなる。
・背骨は猫背になり、肩が下がっている。
・肩甲骨が前側に、胸を巻くように出てくるので、胸の筋肉、特に「小胸筋」が収縮して硬くなりがち。
・「小胸筋」は肩甲骨を前下方に引っ張っているため、肩や腕は上がりにくく、動かしにくくなっている。

 スウェーバック姿勢が習慣化すると、頭痛、肩こり、肩関節の痛みの原因にもなるんです。この状態でランニングすると、まず頭の重さを首で効率よく支えられないため、首の筋肉や関節に負担がかかり、首周囲に痛みが出るはずです。さらにケース①と同様、効率の良い下肢の曲げ伸ばしと支えが得られないため、股関節やヒザ、くるぶしに痛みが出ることにもつながります。

痛み解消のカギは、腰を安定させること=体幹を鍛える

 ケース①②はいずれも、骨盤、つまり腰部の筋活動のバランスが悪く、動作時にはさらに不安定になるために、首や肩、背中や太ももに過剰な力が入っています。そして腰の部分の力が弱いので、姿勢が崩れ、ランニングでも効率よく身体を前に移動できず、余計な負担が、身体の各部分の痛みにつながっているわけです。

 腰の部分は、例えば胸部の肋骨のように、外側から支える骨が構造上ありません。なので、腰を安定させるには、胸郭の底にある横隔膜(ドーム状の筋)と、腹筋、背筋、そして骨盤の下にある骨盤底筋、これらがそれぞれ均等に働いて、ちょうど上下左右から、円筒形のシリンダーを腰部に作り出すようなイメージで、腹部周囲をホールドすることが重要です。その際に注目されるのは、呼吸法、特に腹式呼吸です。

呼吸法を使って腰の安定を図る=「ブレーシング(Bracing)」

 腹式呼吸は、背筋を伸ばし、鼻からゆっくり息を吸い、おへその下(丹田)に空気をため、お腹全体を膨らませる呼吸法です。下腹を膨らませるイメージといわれますが、お腹を前に出すというよりも、下腹と同時に背中側も意識して、お腹全体を膨らませるというふうに捉えるといいと思います。

 リラックスした状態から息を吸うと、横隔膜が下がり、内臓も下に押され、腰部のところの内圧=腹圧が高まってきます。このとき同時に、腹筋群や背筋を使って、腰部をシリンダー(円筒)状に保持します。呼吸法を使って腰の安定を図るこの方法を、専門的には「ブレーシング」と呼び、体幹を鍛えるコア・トレーニングなどでも、取り上げられています。

▲ブレーシングはおへその下(丹田)に空気をためることがポイント

 スポーツ選手は、運動しながらでも、呼吸と腹圧を使って、腰の安定性が確保できるよう体幹を鍛え、ブレーシングのトレーニングをするわけです。しかし、一般の方が、いきなりそこからスタートするのは難しいかもしれません。最初は、腹式呼吸で横隔膜が下がり、腹圧が高まっていくのを感じるところからはじめ、どの程度の腹圧のかけ方で腰部が安定するかを実感するのが、いいでしょう。

ウォーキングで体幹を意識

 ウォーキングやジョギングなど、あまり大きなパワーを求められず、一定の出力を維持し、持続することにポイントのある運動は、呼吸法を使ったブレーシングで体幹を意識し、腰部をホールドする感覚をつかむのに、適しているともいえます。

▲ウォーキングでは腰部、体幹部分を安定させる

 またウォーキングなどでブレーシングを使い、腰部、体幹部分を安定させることができれば、脚の筋肉は、姿勢が悪い場合にはバランス維持などに割かれていた負担を、身体を前に運ぶという本来の目的のために十分に使うことができます。

 手脚の運動のつながりは「筋膜連鎖」「筋の連鎖」などとも呼ばれますが、手脚の筋肉は身体の中心部の筋肉を通じて、すべて連結しており、足の運動は手の運動につながり、手の運動も逆に足の運動に影響を与えています。腰部の安定は、体幹を中心とした四肢のいい連環を生みだしてくれます。

 頭部から、首、胸部、そして腰部までが、一定の形を維持しつつ、四肢は進行方向に向かって、からだを移動させる推進力を生み出せる状態、これが、ジョギングやランニングなどで、痛みが発生せずにいられる基本の状態といえると思います。呼吸法や体幹の重要性について、ランニングを通じて知っていただければと思います。

まとめ 

 ランニングによる痛みの原因は、基本となる身体の動かし方ができていないために起こるとわかりました。走ったあとに起こる“痛み”を感じたら、自身の身体の動かし方を見直してみてください。

[監修]
黒木光(くろき・ひかる)
学校法人・日本リハビリテーション専門学校・理学療法学科講師。理学療法士。学術修士。2001年国際医療福祉大学卒、大学病院、介護老人保健施設、整形外科クリニックなどで臨床経験を積み、現在は、日本リハビリテーション専門学校で教育に従事している。また同時に小児の発達サポートや、老齢者のためのリハビリテーション支援活動も行なっている。2016年、チェコのプラハスクールにて、日本の理学療法士で2人目となるリハビリトレーニング理論「DNS」(動的神経筋安定化・発達運動学的アプローチ)の全コースを修了し、DNS療法士を取得
日本リハビリテーション専門学校 https://www.nitiriha.com

<Text:岸田キチロー/Photo:神谷渚>