愛着に関する障害?子どものこんな行動、もしかしてSOSサインかも【原因と対処法】
「うちの子、どうしてこんなに人を信じられないんだろう」「初めて会った人にもベタベタして心配…」。子どもの人との関わり方に違和感を覚えたとき、それは「愛着」に関するサインかもしれません。
愛着に関する障害は、決して保護者の「愛情不足」だけが原因ではありません。さまざまな背景があり、そして適切な関わりによって、子どもの心は回復していきます。
愛着に関する障害の基本的な知識から、日常でできる具体的な改善策までをお伝えします。監修は、一般社団法人マミリア代表理事で臨床心理士、公認心理師の鎌田怜那さんです。
なおこの記事では、医学的診断としての「愛着障害」(反応性愛着障害・脱抑制型対人交流障害)について解説します。
一般に「愛着障害」という言葉は幅広く使われますが、医療では主に生後9か月〜5歳ごろまでの不適切な養育経験が原因で起こる、対人関係の深刻な困難を指します。
この期間に発症しても、症状が学齢期〜青年期まで続くことがあります。
愛着に関する障害とは? 信頼できる養育者(安全基地)が機能しなかった状態で起こる疾患
愛着とは、赤ちゃんが特定の養育者との間に築く、深い情緒的な絆のことです。
「お腹が空いた」「怖い」と泣いたときに、いつも同じ人が優しく応えてくれる。この繰り返しの中で、子どもは「困ったときには助けてもらえる」「この世界は安全だ」という基本的な信頼感を育んでいきます。
この信頼できる養育者のことを、心理学では「安全基地」と呼びます。

ところが、さまざまな理由でこの安全基地が十分に機能しなかった場合、子どもの対人関係や情緒の発達に影響が出ることがあります。これが「愛着に関する障害」です。
医学的には、愛着に関する障害には主に2つのタイプがあります。
反応性愛着障害(RAD: Reactive Attachment Disorder)
他者に対して過度に警戒し、慰めを求めたり受け入れたりすることが極端に少ないタイプです。傷ついても泣かない、抱っこを拒む、大人に助けを求めないといった様子が特徴的です。
まるで心に厚い殻を作って、誰も入れないようにしているかのように見えることがあります。

脱抑制型対人交流障害(DSED: Disinhibited Social Engagement Disorder)
見知らぬ人に対しても過度になれなれしく接するタイプです。初対面の大人にも警戒心なく近づき、ついて行こうとしたり、過度に身体接触を求めたりします。
一見人懐っこく見えますが、実は「特別な人」という認識が育っていない状態といえます。

これらの診断は、生後9か月から5歳頃までの間に、不適切な養育環境(ネグレクト、虐待、頻繁な養育者の交代など)があったことが前提となります。
つまり、単に「人見知りしない子」や「恥ずかしがり屋」とは明確に異なる、医療的な診断基準がある状態なのです。
ただの性格じゃない!子どもの愛着に関する障害には医学的な診断基準がある
ここで注意したいのは、大人の「愛着スタイル」と子どもの「愛着に関する障害」は別物だということです。
大人の愛着スタイルとは、幼少期の体験をもとに形成された、対人関係のパターンのこと。「不安型」「回避型」「安定型」といった分類があり、恋愛や友人関係での振る舞いに影響します。
これは病気ではなく、性格傾向の一つと考えられています。多くの人が何らかの「愛着のくせ」を持っており、自覚と努力によって変化させることも可能です。
一方、子どもの反応性愛着障害や脱抑制型対人交流障害は、医学的な診断基準を満たす(精神)疾患です。
日常生活や発達に深刻な影響を及ぼし、専門的な介入が必要になることがあります。ただし、これも「一生変わらない」ものではなく、適切な環境と支援によって改善が期待できます。
子どもに見られやすい、愛着に関する障害のサイン
愛着に関する障害のサインは、一つひとつを見ると「よくある子どもの行動」に見えることもあります。しかし、その程度が極端だったり、年齢にそぐわなかったり、複数のサインが重なっていたりする場合は注意が必要です。
人に過度に警戒する、頼れない
反応性愛着障害の傾向がある子どもは、他者との関わりを極端に避けようとします。具体的には以下のような様子が見られます。
- 転んで怪我をしても泣かない、助けを求めない
- 抱っこや身体接触を嫌がる、固まってしまう
- 大人に話しかけられても反応が薄い、目を合わせない
- 困っているはずなのに「大丈夫」と言い続ける
- 遊びに誘われても一人でいることを選ぶ
- 感情表現が乏しく、喜怒哀楽がわかりにくい
これらは「手のかからない良い子」に見えることもありますが、実は「人に頼っても無駄」「期待しても裏切られる」という諦めの表れかもしれません。
本来、子どもは困ったときに大人を頼るものです。その自然な行動が見られないとき、心の中で何かが起きている可能性があります。
見知らぬ人になれなれしい
脱抑制型対人交流障害の傾向がある子どもは、対人関係の境界線が曖昧です。
- 初めて会った大人にもすぐに馴れ馴れしく話しかける
- 見知らぬ人の手を握ったり、膝の上に座ろうとする
- スーパーなどで知らない人についていこうとする
- 特定の養育者への特別な愛着が見られない
- 誰に対しても同じように接する(お母さんも先生も近所の人も区別しない)
- 過度にボディタッチが多い

通常、2〜3歳頃の子どもは「人見知り」をするものです。これは健全な発達の証で、「この人は安全」「この人は知らない」という区別ができているサインです。
ところが愛着に課題がある場合、この区別がつかず、誰に対しても警戒心を持たないことがあります。
一見社交的で可愛らしく見えるため、周囲が問題に気づきにくいのがこのタイプの特徴です。しかし、防犯上のリスクもあり、また本人も深い人間関係を築くことが難しくなる可能性があります。
学校・園で出やすい問題行動は? 衝動・嘘・試し行動など
愛着の課題は、集団生活の中でより顕著に表れることがあります。
衝動的な行動をしてしまう
感情のコントロールが難しく、思い通りにならないとすぐにかんしゃくを起こしたり、友達を叩いたりすることがあります。
これは「安全基地」で感情を受け止めてもらう経験が少なく、自分で気持ちを落ち着かせる方法を学べていないためです。
頻繁に嘘をつく
「自分を守るための嘘」が多いのも特徴です。叱られることへの過度な恐怖から、明らかにわかる嘘でも言い続けることがあります。
また、注目を集めるために話を盛ったり、事実と異なることを言ったりすることもあります。
試し行動をする
「この先生は本当に自分を見捨てないのか」を確かめるために、わざと困らせる行動をとることがあります。ルールを破る、挑発的な言葉を使う、わざと問題を起こすなどです。
これは「見捨てられる前に、自分から関係を壊す」という防衛反応でもあります。
愛着や発達に障害がない子どもも、成長過程で大人を試すような行動をすることは普通です。しかし愛着に関する障害における試し行動は、その頻度・強度・持続期間が極端で、本人や周囲が深刻に困っている状態を指します。
極端な反応をする
小さな注意でパニックになったり、逆にどんなに叱られても平然としていたりと、反応が極端です。感情の調整機能が未発達なため、ちょうど良い反応ができないのです。
これらの行動は、決して「わがまま」や「性格の問題」ではありません。生き延びるために身につけた、子どもなりの対処方法なのです。
なぜ愛着に関する障害になる? 子どもの愛着形成を妨げる要因
愛着に関する障害は、決して保護者の「愛情がない」から起こるわけではありません。様々な環境的要因が複雑に絡み合っています。
愛着形成にもっとも影響を与えるのが、乳幼児期の養育環境です。
ネグレクト(育児放棄)
身体的なケア(食事、清潔、睡眠など)や情緒的なケア(抱っこ、声かけ、あやす など)が不足している状態です。親に悪意がなくても、重度の産後うつ、経済的困窮、孤立した育児などで結果的にネグレクト状態になることがあります。
赤ちゃんが泣いても長時間放置される、基本的な世話がされない環境では、「助けを求めても無駄」という学習が起こってしまいます。
身体的・精神的虐待
暴力や暴言にさらされる環境では、子どもは常に恐怖の中で生活します。
養育者は本来「安全基地」であるはずが、「最も怖い存在」になってしまうのです。この矛盾した状況が、愛着形成を深刻に阻害します。
頻繁な養育者の交代
施設での生活、里親の変更、親の離婚や再婚による環境の変化など、養育者が頻繁に変わる状況も影響します。
せっかく築きかけた関係が途切れる経験を繰り返すと、「人を信じても裏切られる」という学習が起こります。
親の精神疾患や依存症
養育者自身が精神的に不安定だったり、アルコールや薬物の問題を抱えていたりする場合、一貫した養育が難しくなります。
「今日は優しいけれど明日は怖い」という予測不可能な環境では、子どもは安心感を持てません。
どうすれば愛着形成される? 早期からの関わりと「一貫した応答」が重要
愛着形成でもっとも大切なのは、「一貫性」です。
赤ちゃんが泣いたとき、いつも同じ人が、だいたい同じ方法で応えてくれる。この「予測可能性」が、世界への基本的信頼を育てます。
完璧である必要はありません。時には対応が遅れたり、疲れていて十分に応えられないこともあるでしょう。それでも「だいたいいつも、この人は助けてくれる」という経験の積み重ねが重要なのです。

とくに生後0〜3歳の時期は、脳の発達と愛着形成にとって非常に重要な時期とされています。この時期に安定した養育を受けることが、その後の対人関係や情緒の安定の土台となります。
ただし、これは「3歳までに決まってしまう」という意味ではありません。人間の脳には変化する能力があり、適切な環境と支援があれば、何歳からでも愛着の修復は可能です。
「もう手遅れ」ということは決してありません。
愛着に関する障害を持った子どもにどう関わっていけばいい? 家庭・学校でできること
愛着に課題がある子どもへの関わりは、特別なことをする必要はありません。むしろ「シンプル」で「一貫性」のある対応が最も効果的です。
1.叱り方・伝え方を工夫する
愛着に課題がある子どもは、長い説教や抽象的な注意を理解することが苦手です。また、叱られることへの恐怖が強く、パニックになったり防衛的になったりします。
●短く、具体的に伝える
「何度言ったらわかるの!」「どうしていつもこうなの!」という言い方ではなく、「今、〇〇したね。次は△△しようね」と短く、具体的に伝えます。
悪い例:「あなたはいつも人の話を聞かないで勝手なことばかりして、みんなに迷惑をかけて……」
良い例:「今、順番を抜かしたね。次からは並んで待とうね」
●感情的にならず、冷静に
大きな声や怒った表情は、子どもを萎縮させるだけです。できるだけ穏やかなトーンで、低い位置(子どもの目線)から話しかけます。
●行動そのものを叱り、人格は否定しない
「あなたはダメな子」ではなく、「その行動は良くなかったね」と区別します。「〇〇ちゃんは良い子だよ。でも今の叩く行動はよくなかったね」という伝え方です。
●予告と選択肢を提示する
「5分後に片付けの時間だよ」と予告することで、急な切り替えへの不安を減らします。また、「AとBどっちにする?」と選択肢を与えることで、コントロール感を持たせることができます。
●できたことを具体的に褒める
「えらいね」より「静かに待てたね」「優しく貸してあげたね」と具体的に褒めます。何が良かったのかを明確にすることで、その行動が増えていきます。
2.安心体験を積むコミュニケーションを意識する
日常の小さな積み重ねが、子どもの安心感を育てます。
●朝と帰りの挨拶を大切に
「おはよう」「おかえり」「おやすみ」。シンプルな挨拶の繰り返しが、「自分は気にかけられている」というメッセージになります。
忙しくても、目を見て笑顔で声をかける数秒を大切にしましょう。
●スキンシップ(無理強いしない)
抱っこ、頭をなでる、肩をポンと叩くなど、適度な身体接触は安心感を与えます。
ただし、愛着に課題がある子どもの中には、身体接触を極端に嫌がる子もいます。その場合は無理せず、「ハイタッチ」や「隣に座る」など、受け入れられる距離感を探りましょう。
●一日のルーティンを整える
食事、お風呂、就寝の時間をできるだけ一定にします。予測可能な流れがあると、子どもは安心します。「この後何が起こるかわからない」不安が減るのです。
●約束は必ず守る
「後でね」と言ったら必ず実行する、「〇時に迎えに行く」と言ったら時間を守る。大人の言葉が信頼できるものだと経験的に学ぶことで、世界への信頼が育ちます。
どうしても守れない場合は、事前に説明し、謝ります。
●「あなたが大切」を言葉と態度で示す
「あなたがいてくれて嬉しい」「生まれてきてくれてありがとう」。照れくさいかもしれませんが、存在そのものを肯定する言葉を時々伝えましょう。
「良い子だから好き」ではなく「あなただから大切」など、条件付きではない愛情が、自己肯定感の土台になります。
●子どもの「小さなSOS」に気づく
愛着に課題がある子どもは、直接的に助けを求めることが苦手です。代わりに、わざといたずらをしたり、体調不良を訴えたり、間接的なサインを出します。
その背景に「かまってほしい」「不安だ」というメッセージがないか、想像してみましょう。
こんな状況は専門的な支援が必要なときです
家庭や学校での関わりだけでは難しい場合もあります。
以下のような状況が「極端に」「長期間」「複数の場面で」見られ、日常生活に支障がある場合は、専門家への相談を検討しましょう。
こんな状態なら専門機関へ。受診の目安とは
●自傷・他害などの危険な行動がある
自分や他者を傷つける行動が頻繁にある、高いところから飛び降りるなど命に関わる行動をとる場合は、早急な専門的介入が必要です。
●日常生活に著しい支障がある
学校に行けない、友達が一人もできない、家族とのコミュニケーションがほとんど取れないなど、生活の質が大きく損なわれている場合。
●発達の遅れや偏りがある
愛着の問題だけでなく、言葉の遅れ、極端なこだわり、感覚過敏などがある場合、発達障害(自閉スペクトラム症、ADHD など)が重なっている可能性があります。適切な診断と支援が必要です。
愛着の問題と発達障害(とくに自閉スペクトラム症)は症状が重なることがあり、判別が難しいこともあります。
その子に適した関わりが得られない状況が続くと、愛着の問題も発達障害の問題も大きくなってしまいます。
●養育者自身が限界を感じている
「どう接していいかわからない」「毎日が辛い」「子どもが怖い」。養育者の心の健康も重要です。自分を責める前に、専門家のサポートを受けましょう。
●長期間(6か月以上)改善が見られない
家庭や学校で工夫しても、半年以上状況が変わらない、あるいは悪化している場合は、専門的なアセスメントが有効です。
どこへ相談すればいい?
愛着に関する障害への支援は、一つの機関だけでは難しく、複数の専門家が連携する「チーム支援」が効果的です。
●医療機関(児童精神科・小児科)
診断、薬物療法(必要な場合)、心理療法(プレイセラピー、認知行動療法など)を担当します。まずはかかりつけの小児科や、自治体の発達相談窓口に相談してみましょう。
●児童相談所・子ども家庭支援センター
虐待やネグレクトが疑われる場合、家庭全体への支援が必要な場合に関わります。一時保護、里親制度、施設入所などの措置も行います。「相談所に行く=親失格」ではありません。早期の相談が、家族全体を支える第一歩になります。
●学校(担任・スクールカウンセラー・特別支援コーディネーター)
日常的に子どもと接する学校の理解と協力は不可欠です。個別の支援計画を立て、クラス内での配慮を共有します。スクールカウンセラーは、子どもだけでなく保護者の相談にも応じてくれます。
●放課後等デイサービス・療育機関
発達障害を併せ持つ場合、専門的な療育を受けられる施設があります。ソーシャルスキルトレーニングや感覚統合療法など、個々のニーズに合わせたプログラムが用意されています。
●保健師・ソーシャルワーカー
各機関をつなぐコーディネーター役です。「どこに相談したらいいかわからない」ときは、まず自治体の保健センターや子育て支援窓口に連絡してみましょう。
連携のポイント
情報共有の同意を得た上で、各機関が定期的に情報交換します。子どもの様子、支援の進捗、課題などを共有し、一貫した方針で関わることが大切です。
保護者は「各機関の通訳」にならないよう、連携会議に同席したり、情報共有シートを活用したりしましょう。
愛着に関する障害の原因は1つだけではない
愛着に関する障害は、子どもが生き延びるために身につけた、精いっぱいの適応の結果です。「問題行動」の裏には、「助けてほしい」「安心したい」という切実な願いがあります。
この記事でお伝えしたかったのは、以下の3つです。
愛着障害は「親の愛情不足」だけの問題ではない
様々な環境的要因が関わっています。「今できること」に目を向けましょう。
専門的な診断と、日常の小さな関わり、両方が大切
重い症状には専門的支援が必要です。同時に、日々の「短く、具体的な声かけ」「一貫したルーティン」「安心できるスキンシップ」といった小さな積み重ねが、子どもの心を癒していきます。
愛着は何歳からでも修復できる
「もう遅い」ということはありません。適切な環境と関わりがあれば、子どもの脳と心は驚くほど回復する力を持っています。
もしお子さんの行動で気になることがあれば、まずは一人で抱え込まず、学校の先生やかかりつけ医、自治体の相談窓口に話してみてください。専門家の支援を受けることは、「親としての失敗」ではなく、「子どもを守るための勇気ある行動」です。
そして何より、今この瞬間も、お子さんと向き合っているあなた自身を大切にしてください。養育者が心身ともに健康であることが、子どもの安全基地となるための土台です。
小さな一歩から始めましょう。「おはよう」の笑顔、「よく頑張ったね」の言葉、一緒に過ごす10分間。その積み重ねが、子どもの心に確かな安心感を育てていきます。
相談窓口
- 児童相談所全国共通ダイヤル 189(いちはやく)
- 子どもの人権110番 0120-007-110
- 各自治体の子育て支援センター、保健センター
監修者プロフィール
鎌田怜那(かまだ・れいな)
一般社団法人マミリア代表理事。臨床心理士、公認心理師。
【所属学会・協会】
・日本臨床心理士会
・日本公認心理師協会
・日本心理臨床学会
・日本アタッチメント育児協会
公式サイト https://mamilia.jp/
<Text:外薗 拓 Edit:MELOS編集部>
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