愛着に関する障害?子どものこんな行動、もしかしてSOSサインかも【原因と対処法】 (4/4)
<このページの内容>
どうすれば愛着形成される? 早期からの関わりと「一貫した応答」が重要
愛着形成でもっとも大切なのは、「一貫性」です。
赤ちゃんが泣いたとき、いつも同じ人が、だいたい同じ方法で応えてくれる。この「予測可能性」が、世界への基本的信頼を育てます。
完璧である必要はありません。時には対応が遅れたり、疲れていて十分に応えられないこともあるでしょう。それでも「だいたいいつも、この人は助けてくれる」という経験の積み重ねが重要なのです。

とくに生後0〜3歳の時期は、脳の発達と愛着形成にとって非常に重要な時期とされています。この時期に安定した養育を受けることが、その後の対人関係や情緒の安定の土台となります。
ただし、これは「3歳までに決まってしまう」という意味ではありません。人間の脳には変化する能力があり、適切な環境と支援があれば、何歳からでも愛着の修復は可能です。
「もう手遅れ」ということは決してありません。
愛着に関する障害を持った子どもにどう関わっていけばいい? 家庭・学校でできること
愛着に課題がある子どもへの関わりは、特別なことをする必要はありません。むしろ「シンプル」で「一貫性」のある対応が最も効果的です。
1.叱り方・伝え方を工夫する
愛着に課題がある子どもは、長い説教や抽象的な注意を理解することが苦手です。また、叱られることへの恐怖が強く、パニックになったり防衛的になったりします。
●短く、具体的に伝える
「何度言ったらわかるの!」「どうしていつもこうなの!」という言い方ではなく、「今、〇〇したね。次は△△しようね」と短く、具体的に伝えます。
悪い例:「あなたはいつも人の話を聞かないで勝手なことばかりして、みんなに迷惑をかけて……」
良い例:「今、順番を抜かしたね。次からは並んで待とうね」
●感情的にならず、冷静に
大きな声や怒った表情は、子どもを萎縮させるだけです。できるだけ穏やかなトーンで、低い位置(子どもの目線)から話しかけます。
●行動そのものを叱り、人格は否定しない
「あなたはダメな子」ではなく、「その行動は良くなかったね」と区別します。「〇〇ちゃんは良い子だよ。でも今の叩く行動はよくなかったね」という伝え方です。
●予告と選択肢を提示する
「5分後に片付けの時間だよ」と予告することで、急な切り替えへの不安を減らします。また、「AとBどっちにする?」と選択肢を与えることで、コントロール感を持たせることができます。
●できたことを具体的に褒める
「えらいね」より「静かに待てたね」「優しく貸してあげたね」と具体的に褒めます。何が良かったのかを明確にすることで、その行動が増えていきます。
2.安心体験を積むコミュニケーションを意識する
日常の小さな積み重ねが、子どもの安心感を育てます。
●朝と帰りの挨拶を大切に
「おはよう」「おかえり」「おやすみ」。シンプルな挨拶の繰り返しが、「自分は気にかけられている」というメッセージになります。
忙しくても、目を見て笑顔で声をかける数秒を大切にしましょう。
●スキンシップ(無理強いしない)
抱っこ、頭をなでる、肩をポンと叩くなど、適度な身体接触は安心感を与えます。
ただし、愛着に課題がある子どもの中には、身体接触を極端に嫌がる子もいます。その場合は無理せず、「ハイタッチ」や「隣に座る」など、受け入れられる距離感を探りましょう。
●一日のルーティンを整える
食事、お風呂、就寝の時間をできるだけ一定にします。予測可能な流れがあると、子どもは安心します。「この後何が起こるかわからない」不安が減るのです。
●約束は必ず守る
「後でね」と言ったら必ず実行する、「〇時に迎えに行く」と言ったら時間を守る。大人の言葉が信頼できるものだと経験的に学ぶことで、世界への信頼が育ちます。
どうしても守れない場合は、事前に説明し、謝ります。
●「あなたが大切」を言葉と態度で示す
「あなたがいてくれて嬉しい」「生まれてきてくれてありがとう」。照れくさいかもしれませんが、存在そのものを肯定する言葉を時々伝えましょう。
「良い子だから好き」ではなく「あなただから大切」など、条件付きではない愛情が、自己肯定感の土台になります。
●子どもの「小さなSOS」に気づく
愛着に課題がある子どもは、直接的に助けを求めることが苦手です。代わりに、わざといたずらをしたり、体調不良を訴えたり、間接的なサインを出します。
その背景に「かまってほしい」「不安だ」というメッセージがないか、想像してみましょう。
こんな状況は専門的な支援が必要なときです
家庭や学校での関わりだけでは難しい場合もあります。
以下のような状況が「極端に」「長期間」「複数の場面で」見られ、日常生活に支障がある場合は、専門家への相談を検討しましょう。
こんな状態なら専門機関へ。受診の目安とは
●自傷・他害などの危険な行動がある
自分や他者を傷つける行動が頻繁にある、高いところから飛び降りるなど命に関わる行動をとる場合は、早急な専門的介入が必要です。
●日常生活に著しい支障がある
学校に行けない、友達が一人もできない、家族とのコミュニケーションがほとんど取れないなど、生活の質が大きく損なわれている場合。
●発達の遅れや偏りがある
愛着の問題だけでなく、言葉の遅れ、極端なこだわり、感覚過敏などがある場合、発達障害(自閉スペクトラム症、ADHD など)が重なっている可能性があります。適切な診断と支援が必要です。
愛着の問題と発達障害(とくに自閉スペクトラム症)は症状が重なることがあり、判別が難しいこともあります。
その子に適した関わりが得られない状況が続くと、愛着の問題も発達障害の問題も大きくなってしまいます。
●養育者自身が限界を感じている
「どう接していいかわからない」「毎日が辛い」「子どもが怖い」。養育者の心の健康も重要です。自分を責める前に、専門家のサポートを受けましょう。
●長期間(6か月以上)改善が見られない
家庭や学校で工夫しても、半年以上状況が変わらない、あるいは悪化している場合は、専門的なアセスメントが有効です。
どこへ相談すればいい?
愛着に関する障害への支援は、一つの機関だけでは難しく、複数の専門家が連携する「チーム支援」が効果的です。
●医療機関(児童精神科・小児科)
診断、薬物療法(必要な場合)、心理療法(プレイセラピー、認知行動療法など)を担当します。まずはかかりつけの小児科や、自治体の発達相談窓口に相談してみましょう。
●児童相談所・子ども家庭支援センター
虐待やネグレクトが疑われる場合、家庭全体への支援が必要な場合に関わります。一時保護、里親制度、施設入所などの措置も行います。「相談所に行く=親失格」ではありません。早期の相談が、家族全体を支える第一歩になります。
●学校(担任・スクールカウンセラー・特別支援コーディネーター)
日常的に子どもと接する学校の理解と協力は不可欠です。個別の支援計画を立て、クラス内での配慮を共有します。スクールカウンセラーは、子どもだけでなく保護者の相談にも応じてくれます。
●放課後等デイサービス・療育機関
発達障害を併せ持つ場合、専門的な療育を受けられる施設があります。ソーシャルスキルトレーニングや感覚統合療法など、個々のニーズに合わせたプログラムが用意されています。
●保健師・ソーシャルワーカー
各機関をつなぐコーディネーター役です。「どこに相談したらいいかわからない」ときは、まず自治体の保健センターや子育て支援窓口に連絡してみましょう。
連携のポイント
情報共有の同意を得た上で、各機関が定期的に情報交換します。子どもの様子、支援の進捗、課題などを共有し、一貫した方針で関わることが大切です。
保護者は「各機関の通訳」にならないよう、連携会議に同席したり、情報共有シートを活用したりしましょう。
愛着に関する障害の原因は1つだけではない
愛着に関する障害は、子どもが生き延びるために身につけた、精いっぱいの適応の結果です。「問題行動」の裏には、「助けてほしい」「安心したい」という切実な願いがあります。
この記事でお伝えしたかったのは、以下の3つです。
愛着障害は「親の愛情不足」だけの問題ではない
様々な環境的要因が関わっています。「今できること」に目を向けましょう。
専門的な診断と、日常の小さな関わり、両方が大切
重い症状には専門的支援が必要です。同時に、日々の「短く、具体的な声かけ」「一貫したルーティン」「安心できるスキンシップ」といった小さな積み重ねが、子どもの心を癒していきます。
愛着は何歳からでも修復できる
「もう遅い」ということはありません。適切な環境と関わりがあれば、子どもの脳と心は驚くほど回復する力を持っています。
もしお子さんの行動で気になることがあれば、まずは一人で抱え込まず、学校の先生やかかりつけ医、自治体の相談窓口に話してみてください。専門家の支援を受けることは、「親としての失敗」ではなく、「子どもを守るための勇気ある行動」です。
そして何より、今この瞬間も、お子さんと向き合っているあなた自身を大切にしてください。養育者が心身ともに健康であることが、子どもの安全基地となるための土台です。
小さな一歩から始めましょう。「おはよう」の笑顔、「よく頑張ったね」の言葉、一緒に過ごす10分間。その積み重ねが、子どもの心に確かな安心感を育てていきます。
相談窓口
- 児童相談所全国共通ダイヤル 189(いちはやく)
- 子どもの人権110番 0120-007-110
- 各自治体の子育て支援センター、保健センター
監修者プロフィール
鎌田怜那(かまだ・れいな)
一般社団法人マミリア代表理事。臨床心理士、公認心理師。
【所属学会・協会】
・日本臨床心理士会
・日本公認心理師協会
・日本心理臨床学会
・日本アタッチメント育児協会
公式サイト https://mamilia.jp/
<Text:外薗 拓 Edit:MELOS編集部>

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