筋トレすると睡眠の質が上がる?柳沢正史教授らの研究で判明した「運動と睡眠」の意外な関係
「運動して体を疲れさせれば、ぐっすり眠れる」。そんなイメージを持っている人は多いかもしれません。
しかし、睡眠研究の第一人者で、先日ラスカー賞を受賞した柳沢正史教授らの研究によると、どうやら単純に「疲れるほどよく眠れる」というわけではないようです。
アリナミン製薬は、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)、S’UIMINと共同で進めている「疲れと睡眠の関係、および抗疲労成分の効果」に関する研究成果を発表。
その結果、高強度の筋トレを行った日には睡眠の質が良好になる一方、高強度の有酸素運動では、逆に睡眠の質が低下する傾向が確認されました。
運動の「種類」によって、眠りへの影響が異なる可能性があるのです。

「疲れすぎると眠れない」は本当なのか
今回の共同研究のテーマのひとつが、「疲れすぎて眠れない、は本当か?」という疑問です。
一般的には、体が疲れると眠くなると考えられています。一方で、激しい運動や仕事をした日の夜に「クタクタなのになぜか眠れない」と感じた経験がある人もいるでしょう。
ところが、「疲れ」と「睡眠」の関係には未解明な部分が多く、そのメカニズムは十分に解明されていません。
そこでアリナミン製薬は2024年9月から、筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)および、脳波測定デバイスを用いた睡眠測定サービスを提供するS’UIMINと、3年間の共同研究を開始しました。
第一段階では、「運動様式・強度の違いが、疲労と睡眠にどのような影響を与えるのか」を検証。本人が感じる睡眠の状態だけでなく、脳波測定デバイスによる客観的なデータも取得しました。
高強度の筋トレをした日は「睡眠の質」が良好に
研究で興味深い結果が出たのが、筋トレです。
高強度のレジスタンス運動を行った日は、主観的にも客観的にも疲労度が高くなった一方、睡眠の質は良好になることが明らかになりました。
今回行われた高強度のレジスタンス運動は、1RM(1回だけ挙げられる最大重量)の80%相当の負荷を設定。上半身2種目、下半身2種目の計4種目のマシンウエイトトレーニングを60分間行うというものです。
つまり、かなりしっかりと筋肉に負荷をかけるトレーニングです。
「疲れすぎると眠れなくなる」というイメージとは反対に、筋トレによる強い疲労では、睡眠の質が良好になる結果が示されました。
高強度の有酸素運動では、逆に睡眠の質が低下する傾向
一方、異なる結果となったのが有酸素運動です。
最大心拍数の80%相当の負荷で、自転車エルゴメーターによるトレーニングを60分間実施。その結果、高強度の筋トレと同様に疲労度は高くなったものの、主観的・客観的な睡眠の質はいずれも低下する傾向が示されました。
同じ「激しい運動」でも、筋トレと有酸素運動では睡眠への影響が異なったのです。
研究結果から、運動による疲労に限れば、高強度の有酸素運動では「疲れすぎると眠れない」という現象が確認された一方、レジスタンス運動では確認されませんでした。
なお、筋トレ、有酸素運動ともに「中強度」で行った場合には、疲労度にも睡眠の質にも変化は見られなかったとしています。
「運動すれば眠れる」とは限らない。種類と強度がポイントに
今回の研究から見えてきたのは、「運動して疲れれば、そのぶんよく眠れる」という単純な関係ではないことです。
ポイントになるのは、どんな運動を、どのくらいの強度で行ったのか。
高強度の筋トレでは睡眠の質が良好になった一方、高強度の有酸素運動では低下する傾向が見られました。
ただし、今回の結果だけから「よく眠るためには筋トレをすればいい」「夜は有酸素運動を避けるべき」とまで言い切れるものではありません。運動と睡眠の関係を理解するうえで、運動様式や強度による違いが示された研究結果として捉える必要があります。
次は「疲労を軽減すると睡眠も改善するのか」を検証
研究はこれで終わりではありません。
プロジェクトの第二段階では、抗疲労成分「フルスルチアミン」によって疲労を軽減することが、睡眠の質にも影響するのかを検証します。
具体的には、今回の研究で疲労度が高く、睡眠の質が低下する傾向が確認された「高強度の有酸素運動」を行った日にフルスルチアミンを服用。抗疲労効果と睡眠の質改善効果を臨床試験によって調べる計画です。
「疲れているのに眠れない」という身近な悩みの裏側には、どんな仕組みがあるのか。
運動と疲労、そして睡眠。この3つの関係が今後さらに明らかになれば、トレーニング後のリカバリー方法を考えるうえでも興味深い知見となりそうです。

プロフィール
<筑波大学 国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS) 機構長、 株式会社S’UIMIN 取締役 CSO会長 柳沢 正史>
1960 年東京生まれ。筑波大学大学院修了、医学博士。米国科学アカデミー正会員。大学院在学中であった 1988 年に血管制御因子エンドセリンを、 1998 年に睡眠・覚醒を制御するオレキシンを発見。31歳で渡米し、24年間にわたりテキサス大学とハワードヒューズ医学研究所で研究室を主宰。2012年、文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS)を設立。2017年、株式会社S'UIMINを起業し、2022年より代表取締役。紫綬褒章(2016年)、朝日賞、慶應医学賞(2018年)、文化功労者(2019年)、ブレークスルー賞(2023年)、クラリベイト引用栄誉賞(2023年)など多数受賞。
<筑波大学 体育系教授、国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS) 主任研究者 大藏 倫博>
兵庫県尼崎市生まれ。筑波大学大学院修了、博士(体育科学)。2003年に米国ルイジアナ州立大学ペニントンバイオメディカルリサーチセンターの研究員を経て、2004年筑波大学講師、2010年同准教授、2020年より体育系教授。2021年より国際統合睡眠医科学研究機構(IIIS) 主任研究者。専門は健康増進学、運動疫学、体力測定・評価、肥満・高齢者の健康支援、転倒予防など。スポーツ庁健康スポーツ課技術審査委員会委員、日本体育測定評価学会常任理事、日本健康支援学会理事、日本体力医学会評議員などを務める。
<Edit:MELOS編集部>








