渋谷を情報基地に東京全区、そして日本全土へ。杉山芙沙子が取り組む“スポーツと子育て”の今と未来<Vol.2>
元女子テニスプレーヤー杉山愛さんの母であり一般社団法人次世代SMILE協会の代表を務める杉山芙沙子さんが、2017年4月1日、東京都渋谷区に「渋谷スポーツ共育プラザ&ラボ すぽっと」(以下、すぽっと)をオープンしました。
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スポーツを通じて子どもと親、指導者がともに育っていけるこの施設は、全国初&渋谷区発の試み。杉山さんが開発した子ども向けの『スマイルシップスポーツプログラム』や保護者向けのセミナーを開催すれば、あっという間に予約がいっぱいになる盛況ぶりです。いつか日本全土に「すぽっと」を作っていきたいという杉山さんに、今後の展望を伺いました。
「フィジカルだけが優秀でも一流アスリートが育たないのはなぜ?」という疑問から科学的な研究を始めました
——杉山さんがスポーツを通じて幼児教育をすることになったきっかけは何だったのでしょうか?
私は杉山愛の母としてではなく、コーチとして9年間務める中で、フィジカル的に優れていてもトップアスリートには育たないという現状を見てきました。また一方で、杉山愛をはじめ、石川遼、宮里藍、錦織圭など海外の選手と比べてフィジカル的に恵まれない子が、なぜ世界に通用する選手に育ったのか? と疑問に思ったことがきっかけでした。
それは、もしかしたら幼児期における両親の育て方に大きく影響があるのではないか? と考えたのです。そして杉山愛のコーチを退いたあと、その研究がしたくて2010年4月、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科に入学しました。
——ただの疑問で終わらせずに、学問として突き詰めてしまう行動力が素晴らしいですね!
卒業論文は『トップアスリートの幼児期における両親の教育方針』というテーマで、石川遼、宮里藍、錦織圭などトップアスリートの親にアンケートをとりました。すると、共通項がいくつも出てきました。
それをもとにプログラム化したのが、現在渋谷区にある「すぽっと」で行なっている『スマイルシップスポーツプログラム』になりました。体を動かしつつ考えながらスポーツを楽しむという内容で、日々の生活の中で子どもと接している幼稚園の先生や親たちに覚えてもらい、子どもの成長とともにアントラージュ(子どもを取り巻く人々)も成長できるプログラムにしようと考えました。
『スマイルシップスポーツプログラム』はフィジカルだけでなく、心も育ち、子どもと一緒に親も成長するツール
——『スマイルシップスポーツプログラム』を作るうえで重要視したのはどんなところでしたか?
このプログラムに使うために、日本中にある1000種以上の体育種目を引き出してメニューを作りました。でも、一番大事にしていることは、スポーツの本質である「楽しむ」ことを知ること。それから「考える」こと。たまに「筋肉に覚えさせろ!」とかいう人がいますが、筋肉には覚える機能はありませんから(笑)。トップアスリートは筋肉が動くのを脳が覚えて、再現することができる。また、できる日もできない日も頑張れる「やり抜く力」もある。そこにスポーツの素晴らしさがあって。
そして子どもたちを育てながら、私たち指導者も親も一緒に学べるすごい子育てツールでもあるのだということをみんなに知ってほしいですね。フィジカル的な力、つまり身体的体力はもちろんですけども、心を育てる精神的体力も養える。そこまではみなさんも想像できると思いますが、私は人間力をあげるのには知的体力も必要だと思っています。
——つまり、賢さも必要だと?
賢さというと知能的なIQに特化しがちですけど、そうじゃなくてEQ的な感性の部分とか、精神的な部分ですね。やっぱりきちっとスポーツをやってきた人の予測能力の素晴らしさとか、雰囲気を読むとか、直観力、判断力。たとえば今渡されたボールを、横にパスするか後ろにパスするか、自分1人でドリブルするか。そういう判断力も含めたEQ部分での賢さです。
さらにスポーツをしていると、人を思いやれる能力も身につきます。こういったスポーツのもっとも素晴らしいパーツを忘れていませんか? というところを『スマイルシップスポーツプログラム』を通して発信していきたいです。
日本全国に「すぽっと」を作って、次世代の子どもたちを育てるお手伝いがしたい
——それにしても無料でこんなに充実したプログラムが受けられるなんて、利用者はかなり喜んでいるのではないですか?
そうですね。オープンして約3ヶ月ですが、予約受付をすると即日満席になってしまうし、「こんなのを待ってたの!」とか「渋谷区外に住んでいるけど行ってみたい!」という声も多く聞こえてきて、私もうれしいです。
以前から交流があった渋谷区の長谷部健区長とは『子ども、子育て、スポーツ・ダイバーシティ、本物』などをキーワードに渋谷区から全国発信していけたら素晴らしいですねと話している中で、今回このような機会があり、エントリーさせていただきました。
ここでは「本物」にこだわりながら、子どもたちにスポーツを教えるプチアリーナがあり、みんながブレーンストーミングするようなラボとしての機能もあるんです。現場があって、机上で整理したものをまた現場に戻すことができる。机上の空論ではないスポーツ理論や、人材育成の場所としても「すぽっと」の役割は大きいですね。
——今後の目標は何ですか?
これをひとつのロールモデルとして、地方創生も含めて全国の市町村にまで広げていくのが私のミッションだと思っています。役場だけお金を出すとか民間の知恵と能力だけ出すのではなくて、お互い協力しあって地方でのお金もちゃんと増幅できるようなシステムを作れたら、それはスポーツを通してできるのではないかと。
ただ単にスポーツをボランティアではなくて、アスリートがきちんと本物の知識やパフォーマンスを提供したときの対価として、ビジネスでできることも地方創生につながれると思うので、それもあわせて提案していこうと。スポーツってそのくらい大きな力があると思っています。スポーツは生活を豊かにすることにつながるので。「スポーツは文化なり」っていう言葉、ご存知ですか?
——知らなかったです。
文化っていうのは、生活を豊かにするものだと思うのです。スポーツ、芸術、読書など、生活を豊かにするものは文化だからスポーツも立派な文化だと私は言いたいですね。今やニュースのトップは毎日スポーツの情報でしょう。そこを忘れていませんか? 小さな子だって、おじいちゃんやおばあちゃんも選手の名前を知っているのですから。それは文化ですよ。スポーツを文化として日本全土に広げていくことも私の使命ですね。
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[施設情報]
渋谷スポーツ共育プラザ&ラボ すぽっと
住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷5-27-11 アグリスクエア新宿1F
TEL:03-5341-4177
開館時間:10:00〜18:00
休館日:月曜
公式サイト:http://shibuya-spot.jp
<Text:パンチ広沢+アート・サプライ/Photo:玉井幹郎>