ヘルス&メンタル
2025年6月26日

「整形を繰り返す」「美容医療がやめられない」——なぜ陥る?整形依存の心理とは。“見た目で評価される世界”からの抜け出し方 (1/3)

美容医療や美容整形が身近になり、気軽に外見を変えられる時代。SNSや広告では“理想の顔”や“細い体”が提示され、多くの人が「もっとキレイにならないと」「もっと細くなりたい」と願っています。

中には、美容整形を繰り返しても「なぜか満たされない」「もっと変えたい」と感じてしまう人が増えているのも事実です。理想の外見になったはずなのに、心はいつも何かを恐れていたり、決して満たされない——その背景には、ルッキズム(外見至上主義)や整形依存などの課題が潜んでいます。

本記事では、美容医療と心療内科の両方に詳しい専門医・古賀愛子先生の意見とともに、整形依存に陥る心理や、ルッキズム社会で揺れる心の問題について掘り下げます。他人軸ではない自分らしい「美しさ」とは何か、一緒に考えていきましょう。

Hana Beauty Clinic・古賀愛子先生

可愛くないと、細くないと……現代は“見た目で評価される”社会なのか

──現代ではSNSやメディアの影響で、見た目への意識がますます強まっていると感じます。平均の基準がぐっと上がったという声も聞きます。そうした“外見至上主義”は、なぜ強くなったと考えられますか? ご意見をお聞かせください。

古賀先生:SNSの影響と美容医療の普及は、“外見至上主義”を強めていると考えられます。

まずはSNSの影響。SNSでは、人目を惹く容姿のほうがバズりやすく、必然的に容姿の良い人物を見る機会が増えます。また、加工アプリで理想的な外見に加工された投稿も多く、非日常レベルの美しさに接することが日常化しています。

SNSでの自己ブランディングは多くの業種で求められるようになり、誰もが“見られる側”になりました。かつては芸能人など一部の職業のみに求められていた外見的な要素が、今や一般人にも求められるようになっており、外見への要求水準が高くなっているのです。

そして美容医療の普及。ここ4~5年で美容クリニックの数は1.4倍以上になりました。激しい市場競争の中、低価格で施術を受けられるクリニックも増えました。こうした美容医療にアクセスしやすくなったことで、外見の平均基準が引き上げられ、美意識が高まったと考えられます。

また、美容クリニックのマーケティング戦略により、“外見至上主義”の風潮が強化されている側面は否めません。

──「こんな人は“外見至上主義”になりやすい」という特徴や傾向はあるのでしょうか。

古賀先生:人は、自分にとって有利な価値基準を取り入れやすいもの。学歴がない人が学歴至上主義にはならないのと同様に、外見至上主義になりやすい人は、外見にコンプレックスがある人よというよりも、少なくとも人並み以上の外見を持ち、外見で何かしら得をした経験がある人でしょう。

また、自己肯定感が低く、趣味や特技など外見以外で熱中できるものがない人ほど外見至上主義に陥りやすいと考えられます。

ほか、スクールカーストや接客業など、学校や職場などで容姿偏重の競争的な環境がある場合も“外見至上主義”を招きやすいと言えます。

顔を直しても直しても満たされない“整形依存”、なぜ陥る?

──「整形依存」という言葉はよく耳にするようになりましたが、医学的にはどのような状態を指すのでしょうか?

古賀先生:医学的には「整形依存」という病名はなく、“外見至上主義”と同様にメディアによって認知されるようになった言葉です。しかしながら、外見の細部に過剰なこだわりを持ち、不必要な整形を繰り返す患者がいることも事実であり、このような状態がいわゆる「整形依存」と呼ばれています。

患者自身が「整形依存」に悩まされているというより、むしろ細かな修正を要求し続ける患者に、ドクター側が疲弊し困っている、というのが「整形依存」の本態であるようにも感じています。

──整形を重ねても満たされない、理想を求め続けてしまう——その背景にはどのような心理があるのでしょうか?

古賀先生:一般的に、人がある行動パターンを強固なものにするのは“報酬系”が関わります。報酬には物理的報酬や心理的報酬など様々な形態があり、ある行動の後に報酬が得られると、再びその行動を繰り返すようになります。

美容整形をくり返す人の場合、美容整形によって「周囲の人から褒められた」など「社会的承認」という報酬(社会的報酬)が得られた体験が関与していることがあります。さらなる報酬を得ようとして、もしくは何らかのストレスで下がってしまった自己肯定感を回復しようとして、美容整形を求めるのです。

もともと成功体験が少なく褒められた経験が少ない人も、負けず嫌いで優等生タイプな人も、どちらも社会的報酬を渇望して「整形依存」にはまる可能性があります。

次:整形依存に陥りやすい人とそうでない人の違い

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