インタビュー
2018年6月7日

ソフトボールとスケート、迷っていたときに父の言葉が響いた。元スピードスケート日本代表・大菅小百合(後編)│子どもの頃こんな習い事してました #13 (2/2)

――スケートで行くと決めたら、一切、迷いも後悔もなかった?

後悔はありませんでしたが、高校に入って初めての寮生活で、縦の関係がしっかりしていて慣れないうちは大変でしたね。週末のたびに「帰りたい」と電話すると、実家から片道4時間、お父さんとお母さんが車で迎えに来てくれました。週末、少し帰るだけでも気持ちがだいぶ楽になりました。そうやってお父さんお母さんが一生懸命サポートしてくれたので乗り越えられたのだと思います。2年生になるとだいぶ慣れて、そんなに頻繁には帰らなくなりましたが。

――お兄さん、妹さんとの関係はどうでしたか。

妹は私と同じ習い事をして、スケートも同じ種目をしていたので、「真似しているのかな」と思ったこともありますし、妹も私を意識していたように思います。でも、家を離れてからは、家族に同じ競技をしている妹がいるということは安心感につながりました。

お兄ちゃんは中学までスケート、高校で野球をしていました。家を離れてからは手紙、ケータイが普及したらメールで近況報告する程度でしたが、「あの大会、テレビで見たよ」と言ってくれたりするので、ちゃんと陰で応援してくれているんだな、と。小さなときはよくケンカしましたが、きょうだい仲はいいですよ。特にお兄ちゃんとは年子なので友だち感覚ですね。

娘には日常生活のなかで体を鍛えさせています

――今、1歳2ヶ月の娘さんを育てていらっしゃいますが、子どもにはどんな習い事をさせたいですか?

主人(元陸上選手、現在はプロスプリントコーチの秋本真吾さん)とは、「自分たちがやってきたスポーツはやらせたくない」とよく話しています。辛さをわかっているし、あれこれ口を出しちゃうと思うので……。では、何をやらせたいかというと、お金になるスポーツですね(笑)。卓球も夢があるし、テニス、野球、ゴルフ……。まあ、基本的に本人がやりたいことをやらせようと言っています。

スポーツでも勉強でも、ひとつ夢中になれるものをみつけてほしいですね。それと、小さいうちから海外経験もさせたい。私は田舎育ちだし、主人も福島出身なので本音は広々としたところで育てたいんです。でもそれができないので、いつか海外留学させられたら、と思っています。

――小さいうちから体を鍛えようということは?

生活や遊びの動きのなかで身につけていけたら。たとえば、今日、洗濯物を干していたときに、主人が物干し竿に掴まらせてみたらぶらさがって懸垂しようとしていたんですよ。散歩に行くと、坂道や階段が大好きなのでよく登ろうとするので、それも危ないと言わずどんどん登らせています。もともと腕と脚の力があるほうですが、こうして日常の運動でさらに力がついているように思います。

今、知育系の幼児教室には通っているんですが、娘は早いうちから歩けていた割には、「隠したクマはどこにあるかな?」といった問題には答えられなくて。あれ、やっぱり勉強系は苦手かな? と思ったり(笑)。でも、逆にスポーツに期待しすぎてそれがプレッシャーになってもいけないので、本人に何が合っているか見極めていきたいですね。

――スポーツは、身体能力を高めるだけでなく、チームプレーなどで協調性を養わせたいと習わせる親御さんも多いと思います。

確かに、ソフトボールをしていたときは協調性が大切だと感じました。でも私は、それが向いてないと感じることもよくあったんです。ピッチャーをしていたせいもありますが、他の人がミスをすると「なんでミスするんだ?」「そこは取ってくれよ」と思ってしまう。そういう自分を発見したときに、「私には、全部自分の責任になる個人競技のほうが合っているな」とわかりました。それは向いているか向いていないかの違いであって、悪いことではないと思います。協調性は学校生活でも充分養われますし。

私は、向いてないことには時間をかけたくないタイプ。娘に対しても本人が「おもしろくない、行きたくない」と言ったら、ダラダラ続けさせるのではなく、「やめなさい」と言うか、もしくは、「ここまでがんばったらやめていいよ」と目標を設定すると思います。いろんなことにチャレンジするのはいいけれど、向いていないことにがんばる必要はないと思います。

自分が習いたいと思うことが、一番長続きする。親としては、子どもの意志で動けるように自然と導いていけるといいですよね。子どもが興味を持っているものはなにか、よく見てあげることが大切だと思っています。

[プロフィール]
大菅小百合(おおすが・さゆり)
1980年生まれ。北海道出身。2002年ソルトレイクシティオリンピックのスピードスケート女子500m、1000mに出場。トレーニングの一環として行っていた自転車競技・トラックレースにおいても、2003年世界自転車選手権B大会500mタイムトライアルで優勝するなど実績を残し、2004年には同種目でアテネオリンピックに出場。2006年にはトリノオリンピックのスピードスケート女子500mに出場し、3季連続のオリンピック出場を果たした。2011年に現役引退。2014年まで大和ハウススケート部でコーチを務める。元・陸上競技選手で、現在はプロスプリントコーチとして活躍する秋本真吾さんと2014年に入籍。2017年第一子を出産。

<Text:安楽由紀子/Edit:丸山美紀(アート・サプライ)/Photo:玉井幹郎>

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