インタビュー
2018年6月7日

ソフトボールとスケート、迷っていたときに父の言葉が響いた。元スピードスケート日本代表・大菅小百合(後編)│子どもの頃こんな習い事してました #13 (1/2)

 スポーツ界の第一線で活躍していたアスリートに、幼少期の習い事について訊く連載。自身の経験を振り返っていただき、当時の習い事がどのようにその後のプレーに活かされたか、今の自分にどう影響しているかを伺います。

 スポーツ万能、中学校ではソフトボールとスケートの両方で活躍していた大菅さん。進路に迷っていたときに親御さんはどのように接していたのでしょうか。

ピアノで培われたリズム感は役に立った

――スケートやソフトボール、走る、泳ぐ、さまざまなスポーツで活躍していましたが、身体全般を鍛えるトレーニング方法があるのでしょうか。

今振り返ってみると、環境が自然と鍛えてくれたのだと思います。空手は、3歳のときは型や組手はできなかったので、いつも体育館の隅で腹筋、背筋、腕立てをやらされていました。友だちとおしゃべりしていたら、お父さんに竹刀で叩かれる。そこで体幹が強くなりました。体幹の強さはどんなスポーツにも役立ちますから。

また、家の目の前が海というのもよかった。今は防波堤になってしまっていますが、私が子どものころは砂浜。お父さんが漁師で、休みの日は釣りについて行ったり、砂浜をダッシュしたり、夏は短い間でしたが泳げたので服を着たまま海に入っておばあちゃんに怒られたり、冬は流氷が着岸するので上に乗って遠くまで行ってみたり。晩ごはんを食べてから寝るまでの間も海に行って、兄や妹と石を投げて遊んだりしていました。

地域ではスケートリンクやプール、体育館が無料で利用できましたし、休みの日は学校のグラウンドも自由に使えたので、お父さんとソフトボールの練習をしに行ったり、家の前の道路もほとんど車が通らないので、兄妹と野球をしたりしていました。体を動かす環境は抜群。自分で言うのはなんですが運動神経はいいほうで体育の成績はずっとよかった。それは、小さいころから遊びの中で常に体を動かしてきたことが大きく影響していると思います。

――ピアノやそろばんなどスポーツ以外の習い事が、競技に役に立ったと思うことはありますか。

小さなころからいろんなことにチャレンジして、自分なりの目標を設定してそれに向かってがんばることは、その後の競技人生にも役立ったと思います。また、ピアノを習ってリズム感がついたこともよかった。リズム感はスポーツに必要。特にスケートはリズム感があるといい動きができるので、楽器やダンスができると必ずプラスになると思います。

それと、ピアノが弾けると好感度が高くなる(笑)。遠征先にピアノがあったのでちょっと弾いてみたら、私のふだんの振る舞いとギャップがあったみたいで、「ええっ、弾けるの!?」とすごく驚かれました。だから今も1曲くらいは忘れずに人前で弾けるように、実家に帰ったときは軽く練習しています。

――小学校のころの将来の夢は「学校の先生」でしたが、スケートの道を選んだのはなぜですか。

高校までずっと学校の先生になりたいと思っていました。進路については、まず中学3年生のときにソフトボールかスケートで迷いました。ソフトボールではピッチャーで全道大会に出場し、足が速いこともあって、札幌の高校に声をかけていただいていたんです。一方、スケートでも強豪校である白樺学園高校と、他の高校からも声をかけてもらっていまして、ソフトボールとスケートどちらにしようか悩んだのですが、スケートの全国大会で優勝したことがきっかけでスケートを選択しました。

高校ではスケートをがんばってスポーツ推薦で大学に進学し、先生になるつもりでいました。高校のスケート部の監督にもそう伝えています。ところが、高校2年生のときに長野オリンピック(1998年)が開催され、清水宏保さんが金メダルを獲ったところを見て、「私もオリンピック出たい」と思うように。それで、大学進学ではなく実業団に進むことに決めたんです。

憧れていた先生に「先生のような先生になりたいと思っていたけど、スケートをがんばります」と報告すると、意外と返事はさっぱりしていまして(笑)、「小百合が思う道に進めばいいよ」と言われました。

片道4時間を車で迎えに来てくれた両親

――進路に悩んでいたときに親御さんはどのようなアドバイスをしましたか。

一言あったのは高校進学のときですね。白樺学園高校と、声をかけていただいたもう一校でかなり悩んでいたんです。白樺はスケート名門校だけれど私立でお金もかかるし、家から遠い。もう一校は公立で家から1時間半くらいの距離。そのとき初めてお父さんが「お金の心配はしなくていい。行きたいところに行きなさい」と言ってくれました。

経済的な面で遠慮していたわけではなかったんですが、ふだんは話を聞いているのか聞いていないのかわからないほど静かなお父さんなので、その一言に重みがあった。それで思い切って、自分の力を伸ばせそうな白樺に決めたんです。

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