インタビュー
2019年1月27日

天狗倶楽部(TNG)にとって「イタイ」「暑苦しい」は褒め言葉。『いだてん』チーフ演出・井上剛が振り返る (3/4)

東京の街にも注目してほしい

――第1回で、東京の街並みをミニチュアで表現した意図は?

確かにCGでも表現できます。ただ、日本橋という場所は、戦後の日本を読み解く上でキーポイントになる。そこで、シン・ゴジラをやった尾上克郎さんに「つるんとしたCGではなく、手作り感のあるアナログな形で見せたい」と相談しました。あまちゃんではジオラマを使いましたし、言われてみたら、私はそういうのが好きなのかも知れません(笑)。今回のタイトルバックでは、ミニチュアの隅田川を、阿部サダヲさん(田畑政治役)が泳いでいますし。

浅草の凌雲閣(浅草十二階)の表現には、模型を嵌め込んで撮影したシーンもあります。ちなみに、地上の様子はワープステーション江戸(茨城県つくばみらい市)でも撮影しています。ドラマでは、そうした東京の街にも注目してもらえたらうれしいですね。

話は反れますが、古地図では隅田川を下にして、上部に富士山を臨む構図で書かれているものも多いんです。それが昭和のある時代まで来ると、北を上に据えた現代の地図が主流になります。つまりそれまでの日本人は、皇居(江戸城)を手前にした地図で東京を眺めていた。ドラマでも、古地図が登場しますので気付いてもらえたら。

今後、世界地図も出てきます。第1回では、星野源さんの演じる平沢和重さんがIOCミュンヘン総会でスピーチを行いますね。当時の日本は50年の歳月をかけて、何とかして世界を東京に呼びたかった。でも欧米の人からしたら“too far”な国だった。それが、当時の世界地図からも読み解けます。模型と地図は、今後の話にも登場する予定です。

 
 
 
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第1回のあのシーン、役所広司さんのアイディアでした

――嘉納治五郎役の役所広司さんのお芝居で、印象的だったことは?

たくさんあります。数限りないですね。役所さんのお芝居の凄まじさ。今後、嘉納さんは回を重ねるごとに登場シーンが増えていきます。個人的には、こんなリーダーがいたら楽しいだろうな、と思いました。いわば大河ドラマの殿様のポジション。そこが魅力的に見えるように、役所さんと相談しながら演出を決めています。

嘉納治五郎さんは、とてつもないエリート階級の人だった。それでいて自身、時間を惜しまず勉強されていた。ちびた鉛筆と紙で、常に何かメモしていたそうです。そこで小道具が用意したところ、役所さんも気に入ってくださった。第1回では「ライトマン、適任者」とメモするシーンがありますが、あれも役所さんのアイデアでした。

――嘉納さんには、失敗するシーンもある。お酒で身体を壊して入院したり。

スケールの大きな嘉納さんですが、お茶目なところもあるんですね。その周りでは、どんなことが起こるんだろう? 宮藤さんと一緒に想像を膨らませながら撮っています。演出上の提案は、役所さんが柔軟に、演技に落とし込んでくださる。実際、どんな人柄だったのだろう? 愛される人だったのかな? 役所さんも、そのあたりを意識して演技されています。

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