フィットネス
2023年5月15日

「遅筋と速筋の割合は生まれつき」ってホント?トレーニングで筋繊維タイプは変わる説、新研究で発表

 筋トレやスポーツ全般に興味がある人なら、「遅筋(赤筋)と速筋(白筋)」という言葉を耳にしたことがあることでしょう。

 筋肉を構成する筋繊維には、持久力に長けた遅筋繊維(タイプI)と瞬発力に長けた速筋繊維(タイプII)があり、速筋繊維はさらに2つに分かれます(タイプIIa とタイプIIx)。スピードで比較すれば、もっとも遅いのがタイプI、もっとも速いのがタイプIIx、中間にあるのがタイプIIa。そして持久力で比較すれば、優劣の順番は逆になります。

 人は誰でも遅筋繊維と速筋繊維の両方を持っています。しかし、どちらがより多いかという組成比率は先天的に決まっていて、それをトレーニングによって変えることはできないということが長い間の定説でした。つまり、遅筋繊維の割合が大きい長距離ランナーは生まれつき長距離ランナーであり、速筋繊維の割合が大きいスプリンターは生まれつきスプリンターだということ。その傾向は変わらないと信じられてきたのです。しかし、これに異を唱える説が発表されています。

遅筋繊維と速筋繊維の組成は遺伝で決まるとした研究が、1976年に登場

 まずは、従来の定説からご紹介しましょう。遅筋繊維と速筋繊維の比率は遺伝子によって決定されていて、それをトレーニングで変化させることはできない。そう唱えた有名な論文(*1)が、1976年に発表されています。

 コミ(Komi, P.V.)博士らの研究では、一卵性(MZ)および二卵性(DZ)の双子、31ペアについて調査を実施。その結果、男女の性別や年齢層を問わず、一卵性双生児は完全に同一の筋繊維組成をしていることを発見しました。このことから、「ヒトの骨格と筋繊維組成は遺伝子の影響によって決定されていて、筋肉群の潜在的能力にも影響を及ぼす」と結論づけています。

遅筋繊維と速筋繊維の組成をトレーニングによって変えることができるとした研究が発表される

 ところが、カリフォルニア州立大学のガルピン(Galpin)研究グループが2018年に発表した論文(*2)が、この長く信じられていた定説に異を唱えました。30年間という長期間に渡って、異なる生活習慣を送ってきた一卵性双生児を調べたところ、同一だったはずの筋繊維組成が異なっていることを発見したのです。

 研究対象になった双子の1人は長距離ランナーで、もう1人はほとんど運動の習慣がありませんでした。この2人の筋繊維組成を調べてみたところ、長距離ランナーは遅筋繊維がそのほとんどを占めていたのに対し、運動の習慣がない方は遅筋繊維と速筋繊維の比率がほほ半分半分だったということです。

刺激を与えることによって筋繊維タイプは変わる

 前述の長距離ランナーの例は、長い間のトレーニングによって何かしらの適応が体内で起こり、速筋繊維から遅筋繊維へ変化したと推測されるわけです。しかし実は、こうした変化が起こることは動物実験では証明されていました。それが、ヒトにも起きるということは興味深い発見でしょう。

まだ研究は不十分ではあるが……

 遅筋繊維から速筋繊維に変化することはあるのか。また、変化を起こすには、どれだけの量と期間のトレーニングが必要なのか。こうした点について、現時点ではまだ分からない部分の方が大きいです。しかし少なくとも、「自分は生まれつき長距離走が苦手だから」(あるいは短距離走が遅いから)と諦めてしまう必要はないのかもしれません。

 遅筋繊維が多いマラソンランナーも、速筋繊維が多いスプリンターも、必ずしも生まれつきそうだったわけではない。実は長年のトレーニングによって、それぞれのスポーツに応じたタイプの体に作り上げていた可能性があるのです。

(※1)Skeletal muscle fibres and muscle enzyme activities in monozygous and dizygous twins of both sexes.Komi PV. et. al. 1976

(※2)Muscle health and performance in monozygotic twins with 30 years of discordant exercise habits.Galpin A. et. al. 2018

[筆者プロフィール]
角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。
【公式Facebook】https://www.facebook.com/WriterKakutani

<Text:角谷剛/Photo:Getty Images>