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なぜ走る?フルマラソン以上の超長距離を走る「ウルトラランナー」、その興味深い心理とは

 ランニングブームが起き始めてから久しく、もはや普通の人がフルマラソン(42.195キロ)を走るのは驚くべきことではなくなりました。それでもフルマラソン以上の超長距離レースを走るウルトラマラソンとなると、やはり今でも特別なものだと思われているのではないでしょうか。「一生に一度の思い出に」と、こうしたレースに挑戦する人もいます。

 なかには、世間の常識から外れてしまったような“ウルトラランナー”と呼ばれる人種がいます。毎年のように、あるいは年に何回もウルトラマラソンのレースに出場し続ける人たちがいるのです。

 有名なサロマ湖100kmウルトラマラソンを10回以上完走した人には「サロマンブルー」、20回以上完走すると「グランドブルー」という称号が与えられます。その称号を得た、あるは得ようとしている人たちが少なからずこの世に存在する。このことの意味を、どう考えたらよいのでしょうか。

 ウルトラランナーの中には、100キロを走ったら次は100マイル(160キロ)、あるいは24時間連続で走る耐久レース、それでも足りなければ数日間にわたって250キロ以上など、挑戦するハードルを困難なものにしていく人たちもいます。

 こうなると、もはやランニングは「健康にいい」「ダイエットに向いている」というようなレベルからは大きく逸脱しているように思えます。彼らウルトラランナーたちのモチベーションは、はたしてどこにあるのか。そして、それは5キロ~フルマラソンまでを走る、通常のランナーたちとはどのように異なるのか。

 その疑問に、心理学的アプローチから答えようとした研究(*1)があります。

どんな研究だった?

 学術誌「心理学研究及び行動管理」(Psychology Research and Behavior Management)の2018年11月号に発表されたこの研究では、ボランティアで参加した1539人のランナーに対して、走ることへのモチベーションについてオンラインで質問を実施。質問にあたって、研究者らはモチベーションを以下4つのカテゴリーに分けました。

✓ 心理的(生きがい、自尊心)
✓ 記録的(個人的な目標の達成、競争)
✓ 社会的(仲間との帰属意識、他人からの承認)
✓ 身体的(健康、ダイエット)

 回答者はそれぞれについて、重要度を1~7までの数字で評価。そして研究者らは、回答者をウルトラランナー(50キロ以上のレースを走ったことがある人)と通常ランナー(50キロ以下のレースを走ったことがある人)の2つのグループに分けました。

研究の結果は

 2つのグループの間では、回答の傾向に大きな違いがありました。

 ウルトラランナーのグループは、数字に表れにくい項目(仲間意識、生きがい)を最大のモチベーションと回答することが多かったのに対し、通常ランナーのグループでは個人的な目標の達成、競争、健康、ダイエットなどの数量的な結果をモチベーションにする傾向が強いことがわかったのです。

 そして、レースを走った回数が多くなれば多くなるほど、ウルトラランナーは数量的なものや外部的なものへの興味が薄くなる傾向があることもわかりました。

走ることがライフスタイルに大きく影響している

 村上春樹著『東京奇譚集』(著者:村上春樹/出版社:新潮社)に収録されている“偶然の旅人”に、以下のような言葉があります。これは、ウルトラランナーの心情に通じるところがあるかもしれません。

「かたちのあるものと、かたちのないものと、どちらを選ばなくちゃならないとしたら、かたちのないものを選べ」

 ウルトラマラソンを走るためには、長い年月に渡るコミットメントが必要です。単純に走る時間が長くなるのは言うまでもありませんが、それ以外にも生活上のあらゆること(食べること、寝ること、休むことなど)がウルトラマラソンを中心に回ることになります。友人との交際や家族との団らん、残業に次ぐ残業。そうしたことにかける時間をある程度は犠牲にしないと、ウルトラマラソンを走るための身体を作り上げることはできません。

 そして、そのような生活を数週間や数か月単位ではなく、何年も続けている人たちがいることは前述した通りです。ウルトラランナーであるということは、いわばその人のライフスタイルそのものになっているのでしょう。

 だからこそ、そういう人たちには過去の記録も他人とのタイムの比較も、あまり大きな問題にはなりません。あるレースを完走しても、それをゴールとして終わるのではなく、次のレースに続く通過地点に過ぎないわけです。

コロナ禍でも走り続けるウルトラランナー

 あるウルトラランナーの言葉に、「レースは中止できても、ランニングは中止できない」というものがあります。

 新型コロナウイルスは、世界中のありとあらゆるスポーツに影響を与えました。これはマラソンやウルトラマラソンなど、長距離走レースも例外ではありません。予定されていたレースのほとんどが中止となり、目標やモチベーションを失ってしまったと感じるランナーは多いでしょう。

 そうした中でもウルトラランナーは、比較的このような状況にもめげない人が多いようです。エントリーしていたレースが中止されても1人でバックパックを背負い、100キロのような超長距離を走ってしまう人が少なくありません。ソーシャルメディアにあるウルトラランナーのコミュニティでは、そんな投稿が後を絶たないのです。

 もちろん1人で自主的に公道やトレイルを100キロでも200キロ走っても、公式記録には残りません。ゴールしたところで完走メダルやシャツももらえませんし、コース途中で暖かい声援や拍手を受けることもないでしょう。

 「そんなことをして何が楽しいのか」という疑問はもっともですし、ウルトラランナーたちも自分たちが少々変わった人間の集まりであることは自覚しています。だからこそ、同志としての連帯感が高まるのかもしれません。

 上記の研究で、仲間との帰属意識をモチベーションの上位に挙げたウルトラランナーが多く見られました。このことからもわかるように、ランナー同士の仲がとてもいいのも、またウルトラマラソンの特徴のひとつです。

関連記事:「長距離ランナーは楽天的で立ち直りも早い」傾向、心理学調査で明らかに

参考文献:
Motivation in ultra-marathon runners.
Waśkiewicz, Z. et. al. 2018
https://www.dovepress.com/motivation-in-ultra-marathon-runners-peer-reviewed-article-PRBM

[筆者プロフィール]
角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。
公式Facebook

<Text:角谷剛/Photo:Getty Images>

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