ヘルス&メンタル
2023年10月8日

人はなぜ「夢」を見る?夢の仕組みは未だ解明中だが、分かってきたこともある【専門家解説】

人はなぜ寝ている時に夢を見るのでしょうか。夢の仕組みやレム睡眠について、レム睡眠研究の第一人者で、東京大学大学院理学系研究科教授の林悠先生が解説しています。

夢の仕組みはいまだに解明中である

なぜ夢を見るのか、どういう仕組みなのか、ほとんどわかっていません。

ただ、レム睡眠中の人を起こすと、およそ8割の人が「夢を見ていた」と話すことから、レム睡眠は夢を活発に見る睡眠だと言えます。またその時はネガティブな内容が多いです。

レム睡眠は記憶の定着に関係するといわれており、夢には記憶とリンクするストーリーが多々ありますが、記憶に関わる脳の海馬の機能との相関も明らかにされています。

全体像の解明には至っていませんが、現代科学は着実に夢に向かって突き進んでいるようです。

睡眠は「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」に区分される

睡眠は、以下の2つに区分されます。

  • ノンレム睡眠
  • レム睡眠

レム睡眠は、その効果についての検証が難しく、謎が多い睡眠です。レム睡眠は、記憶や感情の制御を担当しており、情報を統合したり、過去の経験とつなげたりするとともに、 “脳のリフレッシュ”をする働きをしているといわれています。

最近の研究ではレム睡眠、ノンレム睡眠は相関関係にあることも推察されています。レム睡眠を意識することが“熟睡=睡眠の質向上”につながるかもしれません。

レム睡眠は年を重ねるごとに減っていく

人のレム睡眠の割合は、新生児期に最も多く、幼少期に大幅に減少します。さらに、思春期以降も加齢とともに少しずつ減少します。

認知症の有病率が年齢と共に上がっていくことを合わせて考えると、レム睡眠は認知症を考える上で、重要な役割を担っている可能性があると言えるでしょう。

もともと、ノンレム睡眠時にアミロイドβなどが老廃物として排出される可能性からノンレム睡眠と認知症リスクとの関連が注目されていました。

ところが最近はレム睡眠の方に、記憶の定着に寄与しているというエビデンスが報告されるようになり、レム睡眠の少なさと認知症発症率に相関性も報告されるようになったのです。※1

【調査】みんなはどんな夢を見てる?

はじめに、どのくらいの頻度で夢を見るのか質問したところ、全体の4割以上の人が週に1回以上の夢を見ていることが判明しました。

次に、最近見た夢の内容について聞いてみると、このようなユニークな回答が多く見られました。

  • 推しや憧れの人、なかなか会えない人に会える夢
  • バンジージャンプなどを体験する夢
  • 「留年」「化け物に追われた」など追い込まれる夢

私たちは、レム睡眠とノンレム睡眠の両方で夢を見ますが、レム睡眠中に見た夢は鮮明で記憶に残りやすいと言われています。もしかするとレム睡眠時に見ている夢なのかもしれません。

※1 Pase et al., Sleep architecture and the risk of incident dementia in the community. Neurology 89(12):1244-1250 (2017)

回答者プロフィール

林 悠 先生

東京大学 大学院理学系研究科生物科学専攻睡眠生理学研究室教授
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構客員教授博士(理学)東京大学卒業後、東京大学大学院理学系研究科修了。理化学研究所脳科学総合研究センター(現・脳神経科学研究センター)研究員、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構助教、准教授を経て、2020年4月より現職。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構教授と兼務。動物の睡眠構築を操作できる独自の技術を活用し、睡眠の作用やメカニズムの解明、認知症や精神疾患などに対する新たな予防治療法の開発をめざす。2017年文部科学大臣表彰 若手科学者賞受賞。

<Edit:編集部/調査結果引用:一般社団法人ウェルネス総合研究所>