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2018年11月20日

ユニセフ初の試み。新文書「子どもの権利とスポーツの原則」とは?

 近年、国内でもスポーツのコーチと生徒(子ども)の間をめぐる事件が、多数とり沙汰されています。本来、スポーツは子どもたちが楽しむ、成長するためにあるもの。しかし、子どもたちにもっと上達して欲しいという思いは、いつしか暴力に変わることもあります。もちろん、目に見える身体的なものだけでなく、心理的なものだって……。

 11月20日、ユニセフ(国連児童基金)と公益財団法人 日本ユニセフ協会は、スポーツと子どもの課題に特化した、ユニセフ初の文書「子どもの権利とスポーツの原則」(Children’s Rights in Sport Principles)を発表しました。

あらためて考えたい。スポーツと子ども、そして指導者の関係

 冒頭で述べた通り、遊びやスポーツは子どもの心身の成長を促すために非常に有益です。また、スポーツにおいては、子どもがその競技で正しく上達するために、ときにはコーチ(指導者)の存在が必要です。しかし、世界各地でコーチによる暴力的な指導や、心身の発達に配慮しない過度なトレーニングなど、子どもに負の影響を与えるような問題が生じていることも。

 11月20日は「世界子どもの日」。そんなタイミングで発表された今回の原則は、国内外の専門家の協力を得て作成されたものです。スポーツが真に子どもの健全な成長を支え、子どもの権利促進に寄与する社会となるよう、スポーツ団体、指導者、企業、学校、家庭を含め、スポーツに関わるすべての関係者のための行動指針となっています。

子どもが楽しみながらスポーツを学べることが重要

 重要なのは、子どもが楽しみながらスポーツを学べること。特設サイトから一部要点をピックアップすると、たとえば「試合における勝利だけに価値があるという考え(勝利至上主義)は必ずしも子どもの最善の利益にはつながらないこと、また、生涯にわたる子どものスポーツへの参加を促進することにはならないことに留意する」とあります。

 これを聞くと、身に覚えのある指導者の方も多いのではないでしょうか。勝たないと意味がない……本当にそうでしょうか?

暴力や虐待に関する記述も

 暴力や虐待に関する記述も。「スポーツの指導・練習・競技等のあらゆる過程において、あらゆる形態の身体的または精神的な暴力、虐待(性的虐待含む)、過度なトレーニング、ハラスメント(セクシャル・ハラスメント、パワーハラスメント等)、いじめ、指導の放棄、無関心な扱い、不当な扱い……【一部省略】)を禁止する」とあります。

 日本でも「体罰」と「指導」の関係性は、近年頻繁にとり沙汰されています。部活やクラブの指導者は、自分がそうされたからなどの理由で、現在もそういう指導を続けていたりしませんか? そうであれば、当時の指導に問題があったことは明らかですが、同じことを子どもたちに繰り返してはなりません。

ほかにもスポーツと子どもの課題に特化した条文が

 ほかにも「子どもの健康を守る」「子どもの権利を守るためのガバナンス体制を整備する」など、10のテーマに沿って、スポーツと子どもの課題に特化した条文がまとめられています。指導者、保護者の方々は1度チェックしていただきたい内容です。

【子どもの権利とスポーツの原則】

▼スポーツ団体とスポーツに関わる教育機関、スポーツ指導者に期待されること
1:子どもの権利の尊重と推進にコミットする
2:スポーツを通じた子どものバランスのとれた成長に配慮する
3:子どもをスポーツに関係したリスクから保護する
4:子どもの健康を守る
5:子どもの権利を守るためのガバナンス体制を整備する
6:子どもに関わるおとなの理解とエンゲージメント(対話)を推進する

▼スポーツ団体等を支援する企業・組織に期待されること
7:スポーツ団体等への支援の意思決定において子どもの権利を組み込む
8:支援先のスポーツ団体等に対して働きかけを行う

▼成人アスリートに期待されること
9:関係者への働きかけと対話を行う

子どもの保護者に期待されること
10:スポーツを通じた子どもの健全な成長をサポートする

 子どもたちの輝かしい未来、スポーツのさらなる発展のためにこうした文書が整備されたことは、あらためて問題を考える機会になりますね。すでに、多数の団体や企業が、今回の文書を支持する意向を示しています。ユニセフは引き続き、スポーツに関わる団体や企業にこうした取り組みを呼びかけていくとしています。

・特設サイト https://childinsport.jp/

<Text:辻村>