菅原小春×大根仁『いだてん』インタビュー。日本女子スポーツのパイオニア・人見絹枝をいかにして演じたのか (2/5)
――ドラマで菅原さんをもっと見たいと思いました。女優への欲は出てきましたか。
[菅原]おもしろかったです。ダンスは常にはおもしろくはないので(笑)。ダンスはおもしろいんですが、大好きすぎちゃって大嫌いなんです。つらい。お芝居はおもしろがってできるので。だって「自分の畑じゃないし」って、悪い言い方ですが、言えるじゃないですか。リラックスしてできる、余裕があるんですね。抜きがある。ダンスも抜きがないと私、本番が下手になる人で。あ、それは大根さんにも言われましたね。カメラテストのときに「リハが良いから、ちょっと抑えて」って言われました。そうか、私ダンスのような感じで演技していた、と思って。それからは脱力の中で、波がつくれるような感じで演じようと思いました。
[大根]唯一、僕が演出したところは、そこですかね。カメラテストで、いきなりすごいのが出てきそうだったので、ちょっと抑えて、と伝えた。「うわ、テストの方が良かった……」という失敗を何度もしてきているので、そこは経験値ということで(笑)。でも本当に僕がやったことはそれくらいです。
[菅原]女優さんは女優さんだと思うんです、素晴らしいプロフェッショナルの人がいる。私はわたしで、何か共鳴できる、人見さんのような役柄に出会えたとき、これは自分がチャレンジして私の魂を燃やす意味があって、私の身体と心を通して何か伝えられるものがある、と思ったときにやりたいです。
[大根]いや、でもこの回が放送されたら、そういうオファーがいっぱい来そうですよね。いきなり、定時で帰りたいOLの役とかね(笑)。
[菅原]やりたい(笑)。でも意外すぎる(笑)。
「人見さんはとってもチャーミングな人だった」(菅原)
――人見絹枝さんについて調べたことがあれば。また、どんなエピソードが印象に残っていますか。
[菅原]資料を調べるということはしませんでした。人見さんの写真を見たときに、あ、と感じる何かがあるじゃないですか。こういう風に燃やしてきた人なんだな、と。例えばダンサーなら、ただ踊って、ただうまい、という顔じゃないなっていうことがある。それを1枚の写真だけで感じられる、すさまじい人だなと思った。
だから、誰かが調べて本に書きあげたものを自分の情報にしたくないな、と思って。走っている映像のほか、三段跳び、幅跳び、走り幅跳びなどの映像を目にして、その動きからインスピレーションを受けて演じたいと思いました。映像を見ていたら、この人はこういう風になりたくてこう生まれたわけじゃないんだな、と感じるところがあって。
撮影後に岡山に行って、人見絹枝さんの親族の方にお会いしました。人見さんが獲得した銀メダルはもちろん、当時使っていたバッグも見せていただいて。写真を撮るのが好きだったようで、写真と文章で日記みたいなものをつくっているんです。20〜30ページくらいあって、それを見ながら親族の方とお話もして。
――日記はどんな内容でしたか?
[菅原]人見さんはアムステルダムに向かう途中、シンガポールに寄ったりしているんですが、その遠征のときの写真や、チームの写真を使って日記にされていました。それが、とってもチャーミングだった。まず文字がチャーミング。文章でもギャグをかましていたり。女性の中の女性というか、フェミニンで、それが字にも現れていた。一言ひとことから、それを感じました。
▲現役時代の人見絹枝(写真手前) Photo:Getty Images
――寺島しのぶさんとのお芝居で感じたことは?
(※第26回では寺島しのぶさん演じる二階堂トクヨとのシーンがあります)
[菅原]「よく千葉の方に行くんです」と言っていました。「私、実家が海の方なんです」「それじゃ遊びに来て下さい、ふふふふ」なんて会話をしました(笑)。はまぐりが美味しいんですよこの時期は、なんてお話を。
私は(演技が)初めてなので、どういう風にドラマができあがるのか、無知な状態でポカーンと眺めていました。プロの方たちは、こんな風に自分の役になっていって、本番でカメラが回っているときにこんな演技の出し方をするんだな、というのは寺島さんに限らずですが、とても勉強になりました。寺島さんとマンツーマンでやったときは「こういうことか」「こうか」と学ぶことが多くて、インスピレーションも湧きました。
[大根]少し前に、寺島さんに「菅原さんは演技はじめてなので、よろしくお願いします」と挨拶したとき、菅原さんのダンスのファンだったらしく、一緒にお芝居できることを楽しみにしていらして。でも本番に入ったら女優同士じゃないですか、経験の差はあれど。で、初めて見る菅原さんの演技を見て、彼女もちょっと火がついた部分もあったと思います。やっぱり、普通の芝居じゃない、というと偏見があるけれど、僕も撮っていて見たことのないタイプの芝居だったので、あれを受けるのはテクニックだけでは難しい、と判断されたんじゃないですかね。もう少しエモーションというか、本当に魂でぶつからなくてはダメだ、みたいな。寺島さんに、そんな感情があったと思いますね。