• Facebook
  • Twitter

日本で唯一のチーランニング公式インストラクターに聞く“走力レベルアップ”のポイント

  • LINEで送る
  • はてなブックマーク

 重力を味方につけ、脚を使わず走るというチーランニング。以前MELOSでは、そのメソッドについて概要をご紹介しました。このチーランニング、アメリカではスポーツジムなどに書籍が置かれるほど知られているものの、日本ではまだメジャーとは言えません。そこで今回は、日本で唯一の公式インストラクターである中島貴裕さんにお話を伺いました。 

 中島さんは東京都内を中心に、定期的にワークショップも開催されているとのこと。なぜチーランニングを知り、何に惹かれたのか。そして中島さんの考える走力アップのポイントなどをご紹介しましょう。 

チーランニングとの出会いで一気に記録更新

 初めて中島さんがマラソンを走ったのは、2006年に開催された『長野マラソン』。当時、職場の仲間と参加したものの、いきなり厳しい洗礼を受けたようです。 

「もともと登山やスキーで靭帯や半月板などの故障歴があり、走るのに向いた身体とは言えませんでした。しかし当時、マラソンは気合いと根性でなんとかなる……と思っていたんです。しかし現実は違いましたね。なんとか歩きながら完走こそ果たしたものの、その後の食事を全て戻してしまうほどのダメージ。正直、そのときは、自分にマラソンは無理なのではないかと感じました」 

 その後、周囲は練習するごとに速くなっていく中で、中島さん自身は時に練習すらできなくなる状態。そんな中、視点を切り替えてチャレンジしたのがトライアスロンだったと言います。

「トライアスロンはランニングだけでなく、水泳と自転車を合わせた3種目で競いますよね。それなら、なんとか勝負できるのではないかと思ったんです。そこで、まず力を入れたのが水泳。でも継続してトレーニングしている人には敵わないもので、プールで子どもに追い抜かれるんですよ。これが悔しくて『何かないか!?』と調べたところ、出会ったのがTOTAL IMMERSION SWIMMING(TIスイム)でした。インターネットで動画を観て、実際に習いに行ったのですが、とにかくすごいの一言。感動して、私自身がコーチにまでなってしまったんですよ。しかしそこで、思いもよらない出会いがありました。TIスイムのコーチから、『ランニングにはチーランニングっていうものがある』と教えてもらったんです」

 脚を使わずに走るチーランニングなら、自分でも走れるのではないか。そう感じた中島さんは、すぐに国内で1冊だけ出版されていた監訳本を読んだそうです。しかし理屈を知ったところで、そのメソッドを本当に理解することはできない。そこでアメリカからDVDを取り寄せて動画で学び、少しずつチーランニングを理解していきました。

「自分なりに本とDVDから理解を深め、チーランニングを実践していったんです。そしたら驚くことに、走っても痛みなど出なくなったんですよ。とても感動的でしたね。やがてチーランニングの素晴らしさは確信に代わり、ちゃんと先生から習いたいという思いが生まれました」

 しかし残念ながら、当時日本にはチーランニングのメソッドがありませんでした。そこで中島さんはアメリカへ行ってワークショップを受けることに。さらに感動は高まり、他の人にも教えたいという思いから勉強に取り組むことで、2010年に公式インストラクターとして認定されたのです。

「記録で言うと分かりやすいんですが、まず初めて走った長野マラソンは、完走タイムが5時間15分ほどでした。そして、チーランニングを習ってから2回目のフルマラソンに挑戦したのですが、そこでは3時間30分で完走。タイムにも、その成果が如実に現れました」 

 この経験から、中島さんは日本で唯一のインストラクターとして、チーランニングを教える立場で活動を始めたのでした。

インストラクターとしての取り組みとこれからの目標 

 インストラクターとして認定を受けた直後は、毎週日曜の朝に『サンデーモーニングラン』を行い、そこで走り方のレッスンを行っていたとのこと。そんな中、2011年に初めて東京都内でのワークショップ依頼があり、現在は1〜2ヶ月に1回程度の頻度でワークショップを開催していると言います。 

「ワークショップに訪れる方は、走力アップを目指している方が多いですね。中には目標レースが決まっていて、そこに向けたトレーニングとして受ける方もいます。以前、社員同士の連携を高めるためにマラソンに取り組んでいるという企業から、60kmのウルトラマラソンに挑戦するという女性がいらっしゃいました。社長がチーランニングを知っていて、ワークショップを受けるように言われたそうです。結果、見事に完走されましたよ」

 特に中島さんは、初心者にこそチーランニングを知ってほしいと言います。特に走り方については、中学生あたりからしっかり学ぶと良いとのこと。そうすることで、走ることは苦しいものではなく楽なのだと知ってもらい、苦手意識はなくなるはずだと話します。 

「現在は私1人しか日本にインストラクターがいません。ですから、教えると言ってもその頻度・範囲は限られてしまいます。もっと日本でも広めていくために、マスターインストラクターとして“教える人を教える”立場を目指していきたいですね。また、少し企画を進めているものもあるのですが、企業とのコラボレーションなどにも取り組んでいきたいと思っています」 

 現在ワークショップは東京都内が中心。しかしインストラクターが国内に増えれば、自然と全国各地にチーランニングを学べる場が広がっていくことでしょう。 

中島さんの考える、走るために必要なこととは? 

 チーランニングでは走力アップについて、『SDFピラミッド』という考え方があるとのこと。まず土台となるForm(=フォーム/走り方)を学ぶことでDistance(距離)が伸びていき、自然とSpeed(スピード)が伴ってくるのだと言います。 

「日本では月間走行距離を目安にするランナーが多いのですが、必ずしも距離は走力アップの基準としてアテになるものではないと思っています。実際、例えば週1〜2回しか走らないのに、レースではしっかり記録を出しているランナーは少なくありません。よく『走らないと体力が低下する』なんて言いますが、例えば水泳や自転車、登山などだって、体力という面なら維持はできるんですよ。ですから、まず大切なのは“走り方”を身に付けること。脚だけでなく、腕振りを含めた各身体パーツの正しい使い方を知ってこそ、本当のランニングなのだということを意識してほしいですね」

 中島さんによれば、身体の使い方についてはヨガや太極拳などから入るのもオススメとのこと。あるいは裸足ランニングなども、“正しい身体の使い方”を知る上では有効と教えてくれました。しかしランニングを習う環境で見ると、日本には課題も多いと言います。 

「日本では、過去に実績のあるアスリートがコーチを務めるケースが多いですよね。実際、やはりそういう人に習えば速くなるという心理があるのだと思います。しかし輝かしい実績のある選手が、必ずしも正しく教えられるとは限りません。だって、その選手もまた誰かに教わってきたわけですから。例えばアメリカで水泳を習う場合、中にはカナヅチで泳げないのに、人気のあるコーチがいます。その理由は、その人の理論がしっかりしているから。誰かにランニングを習うのであれば、実績にとらわれず、『理論を知っているか否か』という視点からコーチを選んでほしいですね」 

 確かにランニングスクールなどを見ると、コーチの記録・実績を全面に出したものが多く見受けられます。しかし本当にその選手のようになりたいと考えるなら、習うべきはその選手を育てたコーチ……ということになるのでしょう。私もランニングトレーナーとして教える立場となることがありますが、非常に納得感のあるお話でした。さらに中島さんは、走るために何が必要なのかについて、こう語ります。

「走るうえで最も大切なことは、何よりランニングを楽しむことです。そのためには、他人との比較は不要です。せっかくなら、楽しむために練習するという視点で取り組んでほしいですね。誰だって、心から楽しいと感じることなら、トコトンできるものですから」 

 もちろんトレーニング後にはケアも大切。レース前なら軽く心拍数を上げておくと良いですし、そうしたテクニックは走力アップの視点から学ぶべきことと言えるでしょう。しかし、まずはランニングを楽しいと感じてもらうこと。そのうえで身体の使い方を身に付け、距離やスピードへとステップアップしていくことが重要だと言います。こうした考え方は、新鮮に感じるランナーも多いのではないでしょうか。

 速く、長く……そして楽しく走る。チーランニングが日本でどのように広がっていくのか、お話を伺っていて非常に楽しみに感じました。そのメソッドに興味を持たれた方は、まず中島さんのワークショップでチーランニングを体験してみてください。

[プロフィール]
中島貴裕(なかじま・たかひろ)
1972年生まれ、新潟県出身。2006年に初めてフルマラソンを経験。その後、トライアスロン競技を通じてTIスイムと出会う。当時のスイムコーチを通じてチーランニングの存在を知り、アメリカでのワークショップを経て公式インストラクターとして認定を受ける。チーランニングの公式インストラクターは、現在日本で唯一人。東京都内を中心にワークショップを開催している
【HP】http://takahironakajimaster.wixsite.com/g-works

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表
【HP】http://www.run-writer.com

<Text & Photo:三河賢文>

  • LINEで送る
  • はてなブックマーク

ランキング
Ranking

  • 最新

オススメ記事
Special

注目キーワード