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体と対話して自分に合ったドリンクを選ぶこと。有森裕子に聞く!ランナーのドリンク事情(前編)

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 年々増加する市民ランナーの間で大きな注目を集めている、トップランナーたちのスペシャルドリンク。「同じものを飲んだら、私ももっと早く走れるかも?」。そんな期待もふくらみますが、体に入れるものである以上、きちんとした知識は大切です。
 
 そこで、自分に合ったドリンクの選び方や効果的な摂り方などについて、オリンピック2大会連続メダルの偉業を成し遂げたマラソン界のレジェンド、有森裕子さんに教えてもらいました。

レース中の給水ミスは大きなダメージにつながる

——すごく初歩的なことから伺いますが、マラソン中にドリンクを取ることには、どういった必要性があるのでしょうか?

運動をして汗をかくと、水分以外に塩分や鉄分、ミネラルといった栄養成分も一緒に抜けていってしまいます。マラソンは他のスポーツよりも競技時間が長いので、汗の量も失われる栄養成分も、それに比例して多くなる。マラソン中の給水は、ただ単に水分を補給すれば良いというものではなく、不足した栄養素を補うとともに、脂肪をエネルギーに変えるなどの特別な機能を促すものを摂取する必要があるんです。

——トップランナーがレース中に飲むドリンクのボトルには、どれくらいの量が入っているのですか?

そんなにゴクゴク飲むわけではなくて、せいぜい一口か二口程度なので、多くても150ccくらい。量が多いと持った時に重くて、その分ハンデになっちゃいますしね。また、飲んだ時に「ぬるい」と感じるのが嫌な人は、夏場は氷を入れたり、小さい魔法瓶に入れたりします。でも、あまり冷たいと内臓に負担がかかってしまうので、冷やしすぎには要注意。私はドリンクの温度にはこだわらなかったので、常温になっても大丈夫でしたね。

——やはり給水ポイントでドリンクを取り損ねたりすると、その後の走りに影響しますか?

機能性ドリンクを摂取すれば、レース後半になってもエネルギー切れはしません。それは実際に体感してきました。逆に取らなければ、後でガタンときちゃいますね。
 
給水所でドリンクをうまく取れずに、給水に失敗する選手も時々いますが、それは致命傷になりますよね。特に夏はダメージが大きい。ボトルの取り方は技術的なものもあるけれど、しっかりと取れる位置を自分で確保しないといけません。

——有森さんもドリンクを取れなかった経験はありますか?

私は一度もないです。日頃からあらゆるケースをシミュレーションして、たとえば誰かに手渡してもらうとか、いろいろな練習をやっていますから。そういったミスは、よほどのことがない限りは起こりません。市民ランナーの方々と違って、私たちの場合はそれも含めて“仕事”ですからね。
 
でも、気づいたらレース中に一回も給水を取っていなかったということがあったんですよ。現役ラストランとなった、2007年の東京マラソンなんですけど。その日は、みぞれが降るものすごく寒い日で、途中でコケちゃったりもして。そうこうしているうちに、すっかり取るのを忘れちゃった(笑)。まあ、暑くなければ給水を体にかけて冷やす必要もないし、ペースも遅かったから、喉もそれほど乾かなかったんだと思います。

90年代にトップ選手の間で「バイオ茶」、その後「アミノ酸」がブームに

——昨今は、オリジナルのレシピで作ったスペシャルドリンクを飲んでいる選手が多いようですが、有森さんが現役の頃も時代によって“流行り”などはありましたか?

1980年代までは、まだほとんどの選手が水を飲んでいましたが、1991年の世界陸上をきっかけに、「バイオ茶」が一躍ブームになりました。この大会で日本人初の金メダルを獲得した谷口浩美さんが使っていたのが、地元の宮崎県で生産されているバイオ茶だったんです。それで、みんなが「これは良いに違いない!」となって(笑)。私も、その翌年のバルセロナ五輪はバイオ茶で臨みました。

当時は所属チーム全体でバイオ茶をとり入れていて、練習でもそれしか用意されていなかったし、試合でも使うということで他に選択肢がなかったんですね。私はパフォーマンスを上げるために何かを飲もういった執着はなくて、どちらかと言えば疲労の回復を早めるためとか、そういった面に興味がありました。だからバイオ茶が自分に合うか合わないかは、あまり考えていなかった。何を飲んだって結局、体がしっかりしてなければ意味がない、それより練習の方が大事だろうと思っていたので。

——次のアトランタ大会(1996年)では?

後に大ブームとなるアミノ酸系スポーツドリンクが、1995年に明治さんからいち早く発売されるのですが、その前から「ぜひ使ってみてください」と、うちのチームに持ってこられていましてね。アミノ酸が体に良いことは知っていましたし、実際に試してみて私には合ったので、それ以降はずっと変わらず「VAAM」を使ってきました。
 
実はそれ以前から、アメリカで合宿をしている時に「ビーポーレン」というアミノ酸の原型のような自然食品を、すでに使ったことがありました。ミツバチは集めた花粉を自分の唾液で丸めて体につけて飛んでいるのですが、その塊にアミノ酸が豊富に含まれているんです。持久力の維持や疲労回復、滋養強壮などに効果的なのですが、とにかく苦くてマズイ(笑)。

体と対話しながら、自分に合ったドリンクを選ぶことが大切

——マラソンの大会では、5キロごとに計8カ所の給水所が設けられていますが、ポイントごとにドリンクの中身は変えたりするものですか? 

選手によってさまざまですね。ドリンクの種類自体を変える人もいますが、私は粉末状の同じドリンクで濃度を変えていました。レース後半になるにつれて、濃度を濃くしていくんです。

——そのようにレースでどんなドリンクを使うとかは、チームの監督さん、あるいはトレーナーさんなどと相談して決めるのですか?

トレーナーの知識やアドバイスも多少はいただきますが、言われたこと全部が自分に合うわけではないですよね。日々の練習中に摂取したもの、体にとり入れたものはどうだったのか。必ず、自分自身でフィードバックしないといけない。たとえ同じものでも、その効果や合う合わないは人によって違うので。一番大事なのは自分の体との対話であり、何を使うか決めるのも自分です。試合用のドリンクも、私は当日の天候や気温などを考慮しながら、前日の夜に自分で濃度を調整していました。

《後編はこちら》
・面倒でも自分の日常にある野菜や果物などから栄養を摂る。有森裕子に聞く!ランナーのドリンク事情(後編)

[プロフィール]
有森裕子(ありもり・ゆうこ)

1966年生まれ、岡山県出身。日本体育大学を卒業後、リクルート入社。女子マラソンでオリンピック2大会連続メダルを獲得(1992年バルセロナオリンピックで銀メダル、1996年アトランタオリンピックで銅メダル)。2007年の東京マラソンを最後に、プロマラソンランナーを引退。現在は、日本陸上競技連盟の理事、スペシャルオリンピックス日本の理事長などを務める
【公式Twitter】@animo33

<Text:菅原悦子/Photo:野口岳彦>

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