インタビュー
2020年7月19日

大迫傑は、なぜ学生支援プロジェクトを始動したのか。五輪延期で得た時間は「僕にとって価値あるものになっている」

 現在、拠点のアメリカ、オレゴン州・ポートランドで練習に励んでいる、東京五輪マラソン日本代表の大迫傑選手。新型コロナウイルスが世界的に流行している中で、現在はどのような状況なのか、SNS上で発足を発表した「Sugar Elite」とはどんなものなのかを、オンラインでの合同取材で語ってくれました。

代表内定、コロナ禍、そして五輪延期

 大迫選手は、今年3月1日に開催された東京マラソンで、2時間5分29秒という記録をマークして、自身が持っていた日本記録をさらに更新。翌週のびわ湖毎日マラソンでこの記録を破る選手が現れなかったため、東京五輪の日本代表に内定しました。

▲東京マラソンで2時間5分29秒の日本新記録をマーク(Photo:Getty Images)

 しかし、代表決定から1か月も経たないうちに、新型コロナウイルスの世界的な流行によって、東京五輪の延期が決定。延期の決定を大迫選手はどのように受け入れたのでしょうか。

「3月末に東京五輪の延期が発表されたとき、僕の中ではかなり切り替えが早くできました。東京マラソンが終わって、本来ならば本番までの期間が短かったところで、逆に時間ができたので、しっかりと準備ができるなと思っています」

 アメリカ、オレゴン州・ポートランドを活動の拠点としている大迫選手。日本以上に、毎日多くのコロナウイルス感染者が出ていると報道されているアメリカにいながらも、それほどストレスなく練習ができているそうです。

「住んでいるところはダウンタウンから少し離れたところなので、よそよそしい雰囲気や、殺伐とした感じはないですし、それほど生活で不自由はありません。ソーシャル・ディスタンシングに気をつけて、屋内ではマスクをし、手洗い、うがいを徹底しています。そんなに僕の生活は変わっていません。新型コロナウイルスの流行前も今も基本的に練習場所と自宅との往復ですし、必要以上の外出は普段からしていません。練習も1人、もしくは少人数なので、そこも変わっていません。自宅にトレッドミルがありますし、コロナウイルスの影響で練習が疎かになったということはありませんでした」

大学生たちに“背中を見せる”「Sugar Elite」。寺田明日香&桐生祥秀との高校生応援プロジェクト

 大迫選手は、東京五輪延期によって、今まで以上に考える時間が増えたそう。その結果の1つが、先日SNS上で発表した「Sugar Elite(シュガー エリート)」の発足。「Sugar Elite」とは、大学の枠を超え、世界で戦うために強さを求める選手が集まるチーム。その第一弾として、全国の大学の中・長距離ランナーを対象に8月17日〜24日までの間、最大10名で短期キャンプを行う予定です。

「強さを求めるには所属に関係なく集まるべきなのではないか、集まるチームがあれば、世界を目指す近道になるのではないかと。僕の力だけで世界と戦うのは難しいというのをアメリカに来て、痛感していて。チーム日本として世界で戦う集団というのは今までになかったし、そういう環境を作りたかったんです」

 
 
 
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大迫傑が大学の枠を超え、世界で戦う為に、強さを求める選手が集まるチーム @sugar.elite 発足致します。 その第一弾として、基準記録(タイム等)を満たしている全国の大学の中長距離選手を対象に私大迫傑と8月17日〜8月24日までの間、最大10名の少人数で短期キャンプを行います。 合宿場所、基準記録、選考基準、参加費用等に関しましては、後日ご案内する「参加申込フォーム」に記載させていただきますので、ご確認下さい。 Sugar Eliteのロゴは @fujiwarahiroshi 様に作って頂きました!このロゴで世界を目指す!!! 藤原様ありがとうございます! #sugarelite #強さに飢えろ

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 東京五輪を控えるこのタイミングでの発足、合宿の実施は、集大成の1つとして考えている大会に向けての取り組みを見せたいという気持ちがあるそうです。

「姿勢を見せる、背中を見せるということが大切だと思っているのですが、それはやはり引退後はできません。延期になった五輪に向けて僕がどんな練習をしていて、どんな姿勢で競技に臨んでいるのかを知ってもらいたいという気持ちがあります。これぐらいの練習をしているのかとか、僕ならもっとこうするのになとか、大学生たちに基準にしてもらえればと思っていますし、姿勢を見せることが今できることだと考えています。1週間の合宿の中で教えられることってそれほど多くはないかもしれませんが、できる限り伝えつつ、姿勢を見せられたらなと思っています」

 もう1つの取り組みが、全国の高校生・次世代アスリートを応援する「高校陸上ウィズ・アスリーツ・プロジェクト」。女子100mハードルの寺田明日香選手、男子短距離の桐生祥秀選手も参加するプロジェクトで、今夏にはオンライン陸上サマースクールの開催を予定しています。

「Sugar Eliteもウィズ・アスリーツ・プロジェクトも、より考える時間が増えた中で、何か新しいことに挑戦したいという思いが出てきた結果で、そういう意味では五輪の延期による今の期間は、僕にとって価値あるものになっていると思います」

 延期になった東京五輪。開催されることを前提に練習に取り組んではいるものの、それをすべてだと考えているわけではないとのこと。自分がやるべきことを淡々とやるだけだと大迫選手は言います。

▲オンラインで取材に応じた大迫選手

「自分の年齢からしても脂が乗ったタイミングで迎えられる大会なので、集大成の1つとして、狙うべき大会だと思っていますし、あることを前提に努力を続けていきます。ですが、新型コロナウイルスの影響があって、来年本当に開催されるかどうかもわかりません。開催はしてほしいですけれど、なければまた次の目標に向かっていくだけです」

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<Text:神津文人/Photo:Getty Images>