いい加減、ゴルフが下手なことの言い訳にテニスを使うの、やめようと。│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#54
アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。
改めてゴルフときちんと向き合おうと思った、という甘糟さん。その決意に至った理由とは。
ゴルフ、真面目にやります
もうマラソンには出ないけれど散歩を兼ねてジョギングしたり、たまーにサーフィンしたり、誘われればゴルフのラウンドにも行きます。温泉行けば卓球もするしね。でもでも、私の一番好きなスポーツはテニスだと思っておりました。ラケットは数本、ちゃんと仕舞ってあります。もうガットは緩んじゃっているだろうけれど。ラケットバッグは2つ。ガチっぽいのとステラマッカートニーの華やかなやつと、処分せずにとってあります。最後にコートに立ったのは6年も前だというのに。
なーんて意味有りげに書きましたけれど、たいしたことでもないんです。あれは6年前のかなり寒い日のことでした。ストレッチもあんまりしないでコートに入り、打ち合いに参加しました。相手が立て続けにロブ(意識的に高く上げるボール)を返してきたので、「ん〜、もっとパシっと打ちたいんだよなあ、私は」と思い、バックにきた深いロブを両手バックハンドでパシっと気持ちよく決めた……、つもりが打った瞬間に左脚全体にぴきっとした痛みが走り、そのまま倒れこみました。もちろん、テニス続行は無理。足を引きずって病院へ。
診断は「筋肉と筋膜断裂」。10日間、松葉杖でした。寒い中、ちゃんと身体を温めずにテニスして、その上深追いしちゃったのが原因でしょう。
別にトラウマになったわけではないのですが、あれからテニスはしていません。そのうちやろうと思っているうちに、脚力や心拍に自信がなくなってきちゃったのです。テニスは前後左右斜めに走ったり止まったり、かなり激しく動きますから、一度離れてしまうと、中年にはなかなかハードルが高い。いや、意気地のない私だけかな?
今はやっておりませんが、そのうちまたやりたいです、テニス。しかし、サーフィンをやっていてもゴルフをやっていても、心のどこかで「まあ、私の一番のスポーツはテニスだからな」と思ってしまう自分がいる。特にゴルフは、道具を使って小さめのボールを引っ叩くという似た特性から、ゴルフで失敗しても、「テニスの癖が出ちゃったかな?」なんて自分で自分を誤魔化したりしてね。手首の使い方が逆だったりするので。テニスとゴルフ。
でも、この間の全仏オープンをみながら、ふと考えたのです。いい加減、ゴルフが下手なことの言い訳にテニスを使うの、やめようと。テニスに失礼じゃないですか。今さらながら。
たまたま同じタイミングで、ときどき一緒に回る友人からパターを譲り受けました。名門のメンバーにもなっている、相当上手な女性です。彼女いわく、
「私、ドライバーの飛距離で女の人に越されたの、リリちゃんが初めてなんだけど。それなのに、なんなの、このスコア。あんなティーショット打っといて116とか、私が納得できないんだけど」
パターが問題だそうで、彼女が以前に使っていたパターをプレゼントしてくれたのです。彼女の気持ちに応えるためにも、一度ゴルフときちんと向き合おうと思いました。
かつてはラウンドには必ずキャディさんが付いておりました。それもあってスポーツというより、社交のための場という印象でした。クラブもキャディさんに選んでもらったりしてましたよ、私。当然、ボールの行方もキャディさん任せ。
最近はキャディさんをつけることはほとんどありません。自分のことは自分でやる。その方が断然おもしろいです。スポーツをしている感じがします。心拍数が上がらなくても。
そこで、勝手に宣言させてください。ゴルフ、真面目にやります。来月には毎年出ているコンペがあるので、そこでの順位を必ず上げます。って、まあ、前回がビリから3番目ですから、そんなにむずかしいことでもないですけれども。
さあ、打ちっ放しに行ってきまーす。
[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。GQ JAPANで小説『空と海のあわいに』も連載中。近著に『鎌倉の家』(河出書房新社)、『産まなくても、産めなくても』文庫版(講談社)。《新刊のお知らせ》
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<Text:甘糟りり子/Illustration:Getty Images>