2021年6月23日

ゴルフ場で見つけた、ジェンダーに対する意識の変化│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#61

 アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。

 今回は、ゴルフ場で遭遇したある出来事について。

世の中たいしたことだけで成り立っているわけではない

 先日、神奈川県内にあるゴルフ場に行ったら、レディース・ティーのティーマークが緑色になっておりました。一瞬、あれ? レディース・ティーがない? と戸惑ったりして。もちろん、以前は赤いティーマークでした。私の知る限り、すべてのゴルフ場がそうだったと思います。それがここでは緑色になっていたのです。

 一緒に回った友人たちと話しているうちに、どうやら昨今のジェンダー意識の向上に配慮してだと気がついたのでした。やるじゃないですか! 保守的なはずの名門ゴルフ場でもこんな変化があるのだなあとうれしくなりました。そのわりにスコアは大したことありませんでしたけれどね。

 忘れ物をしちゃったので、後日ゴルフ場に電話をかけた際に、レディース・ティーが赤から緑になった理由をたずねてみましたところ、きっぱりと肯定しませんでしたが、「最近はいろいろなご意見のお客様も多いので」とのことでした。

 ご存知の方は多いと思いますが、レギュラー・ティーと呼ばれる一般の標準の場合は、白いティーマーク、女性用は赤、シニアは銀や金、上級者用なら青、トーナメントの際は黒がこれまでの「普通」でした。でも、今、その「普通」を見直す時期に来ているのですね。

 私が子どもの頃、ランドセルの色にも暗黙の了解みたいなものがあって、女の子は赤、男の子は黒が「普通」。今みたいに色とりどりの選択肢はなかったのです。私は赤がいやで黒いランドセルを使っておりました。六歳の私が「女の子だからって赤と決めつけられるのはおかしいと思います」みたいな主張があったわけではなく、ファッション的にませていたので赤いランドセルはおしゃれじゃないと感じただけだったのですが。女の子なんだから赤いのにしときなさいといわなかった両親は、今さらながらありがたいです。

 ゴルフのラウンドをする際、私は「ティーマークが赤」だからといって劣等感を抱いたりはしませんが、女性=赤と決めつけてしまうのが古いし、多少めんどう臭くても、そういう細部から変えていくべきです。たいしたことじゃない、という人もいるでしょうけれど、世の中たいしたことだけで成り立っているわけではない。

 正直にいうと、私は少し前まで、男性でピンクを着る人が苦手でした。これもまた差別ですよね。反対側から見れば、逆差別というか。無意識に「男のくせに」ピンクを好むなんて、という偏見があったのです。着るのは自由だけれど、かっこよくは見えない、と内心思っておりました。しかし、ジェンダーに関することを考えたり感じたり、こうして書いたりしているうちに、ピンクを身につけている男性がとても自由に見えてきたのです。古臭い価値観を振りかざしている人より、ずっとファッショナブルだと感じるようになりました。今は、ピンクを着こなしている男性、さらにいえばスカートを身につけている男性をかっこよく思います。

 色と性別を結びつけることはやめるべきです。めんどくさいこといっていると受け止められても、私はそう主張し続けます。

 このゴルフ、仲間内でのコンペでした。コンペといっても、こんな状況ですから順位発表だけして宴会的なものはありません。プレイ中は屋外ですし、いい気分転換になりました。

 昨年の春は密の場面の例としてゴルフの打ちっ放し場の映像がよくニュースで流されていましたっけ。なんだかなつかしい気がしますが、まさか一年たってもこんなにきゅうくつな日々が続いているとは思いませんでした。ましてや、オリンピックが開催されることに恐怖を抱くなんてね。こちらに関しても、私は反対を言い続けるつもりです。例え、強行開催されても、反対です。

[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。GQ JAPANで小説『空と海のあわいに』も連載中。近著に『鎌倉の家』(河出書房新社)、『産まなくても、産めなくても』文庫版(講談社)、『鎌倉だから、おいしい。』(集英社)。

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<Text:甘糟りり子/Photo:Getty Images>