もしかして胃下垂?確かめ方や原因、改善方法を解説
「食べたらすぐお腹が出るんだけど、もしかして胃下垂?」
ご飯を食べたあと下腹部がぽっこり出て、まるで妊婦さんのようになる人は、もしかすると胃下垂かもしれません。
この記事では、そもそも胃下垂とは何か、胃下垂の人の胃はどうなっているのか、胃下垂の確かめ方、胃下垂の人が痩せている理由、改善方法などをまとめています。ぜひ参考にしてみてください。
そもそも胃下垂とは?
まず、胃下垂は「いかすい」と読みます。
胃は通常、上腹部のほぼ中央に位置しています。具体的には、肋骨の集まっている一番下あたりからおへその上2~3cmくらいの位置にあります。胃は空腹時には約50ml程度の容量を持ち、食事後には1.2~1.4ℓもの容量に。
それに対し、胃が垂れ下がり伸びている状態のことを「胃下垂」といいます。重度の場合には胃角(胃の折れ曲がる角にあたる部位)が骨盤のあたりまで垂れ下がっているケースもあります。
普段、見た目にはわかりませんが、ごはんを食べた後に下腹部がぽっこりと出ることが特徴です。胃下垂の方は「妊婦さんみたい!」と言われることも多いのではないでしょうか。
自分は胃下垂なのか知りたい!簡単セルフチェック
もしかして自分は胃下垂かも?と思っている方はセルフチェックをしてみましょう。
チェック方法1 仰向けで寝転がる
食後に仰向けで寝転がり、お腹を手で触ってみてください。心臓の下のみぞおちの辺りに、食べ物で膨らんだ胃を感じる場合は正常です。しかし、おへその辺りや骨盤の辺りで胃の膨らみを感じる場合は、胃下垂の可能性があります。
チェック方法2 鏡で見る
食べた後のお腹がどうなっているかを鏡で見てください。胃が正常の位置にある人はみぞおち辺りが膨らみ、食べ過ぎた時に横隔膜が圧迫され、やや息苦しさを感じたりしますが、胃下垂の人は下腹部がポッコリします。
胃下垂を疑う場合、セルフチェックを行うことは一つの手段ですが、これだけで確定診断を行うことはできません。正確な診断には医師による臨床評価が必要です。症状が気になる場合は、専門医に診てもらうことをおすすめします。
本当に胃下垂なのか、を知るには?
胃下垂かどうかを正確に確かめるには、病院で医師に診てもらう必要があります。
病院に行く場合は、かかりつけの内科や消化器内科、消化器外科、消化器内視鏡科などで診てもらうことができます。胃は消化器なので、消化器の専門医に相談するのがよいでしょう。
診断方法は多くの場合、バリウムを飲んで胃X線検査をするか内視鏡検査などを行います。胃下垂かどうかの判断基準は「胃角が骨盤の後上部にある腸骨の左右をつないだ線よりも下がっているか」を基準に診断されることが多いようです。
胃下垂だと思っていたら実は病気だった、なんてこともあります。前とは違う胃の痛みを感じる、血便が出る、体重が減少しているなど、違和感がある場合は病院で一度診てもらいましょう。
胃下垂の原因
胃下垂の原因は、次のような要因によって引き起こされます。
筋肉の弱さ
胃は筋肉で支えられており、筋肉が弱くなると、胃が下垂する可能性が高まります。生まれつき瘦せ型の人や筋肉量が少ない高齢者、妊婦などがなりやすい傾向にあります。
靭帯の緩み
胃を支える靭帯が緩んでしまうと、胃が下に垂れ下がってしまいます。
遺伝的要因
一部の人々は遺伝的に胃下垂になりやすい傾向にあります。
暴飲暴食
暴飲暴食によって胃の内容物が溜まりすぎて、重みに耐えきれずに垂れ下がることがあります。
姿勢
長時間の前かがみの姿勢や座りっぱなしの生活習慣は、胃下垂を促進する可能性があります。
妊娠
妊娠中に子宮が拡大することで胃が圧迫され、胃下垂が起こることがあります。また、腹部の手術や出産を機に胃下垂になるケースも。
腸壁近くの脂肪不足
腸壁まわりに必要な脂肪が不足すると、胃が下がる原因となります。
ストレス
大きなストレスを感じると自律神経のバランスが乱れ、胃の働きを阻害することがあります。
胃下垂の症状は?
胃下垂によって体のどこかに不調が出るケースは少なく、自覚症状がない人がほとんどですが、食後の下腹部の膨れのほかに下記のような症状が出る場合があります。
・お腹の張り
・腹痛
・胃のむかつき
・すぐに満腹感を感じるようになる
胃下垂の症状がひどくなるとどうなる?
胃下垂自体は病気ではありませんが、症状が日常生活に影響を及ぼすほどの場合、「胃アトニー」のような他の疾患が発生している可能性があります。
胃アトニーとは、 胃の筋肉が緩んでしまい、弾力性低下によって蠕動(ぜんどう)運動が弱くなってしまっている状態を指し、専門医による治療が必要です。アトニーはドイツ語で「無力」という意味で、別名「無力胃」とも。胃アトニーの場合は胃下垂を伴っているケースが多くあります。
※蠕動(ぜんどう)とは、筋肉が収縮して起こる、波を打つように動く動作のこと
胃下垂と胃アトニーは、どちらも胃に関連していて似ているように思いますが、厳密には異なるものです。
胃下垂
胃下垂は、胃が骨盤内へ下がっている状態を指します。胃の位置が通常よりも低くなり、胃が縦に長く伸びてしまうことがあります。胃下垂自体は病気ではなく、自覚症状はほとんどありません。
胃アトニー
胃アトニーは、胃の筋肉自体が緩んで運動機能が低下し、蠕動運動が不足している状態を指します。おもな症状は下記のとおりです。
胃もたれ、頻繁なゲップ、吐き気、食欲不振、めまい、頭痛、抜け毛が増える、肌が荒れる、爪が弱くなる
また、消化機能の低下による栄養の吸収不良および体重減少の症状が出る場合も。
治療については、胃下垂は病気ではないため特別な治療は必要ありませんが、胃アトニーの場合には規則正しい生活や栄養価の高い食事、腹筋の増強などの対処が必要がとなります。また、薬を処方されるケースも。
胃下垂の人が痩せているのはなぜ?
胃下垂の人が痩せている理由は、複数の要因が関係しています。
食事量の減少
胃下垂により食欲が低下する場合があります。そのため、食事量が減少し体重が減少する傾向にあります。
食欲不振
胃下垂により食事中に不快感や疼痛が走ることがあり、食欲を減退させる原因となる場合があります。
消化不良
胃下垂により消化機能が低下することがあります。これにより栄養素の吸収が悪化し、体重が減少する可能性があります。
「胃下垂の人は痩せている」というイメージが強いですが、全ての胃下垂の患者が痩せているわけではありません。体重の変動にはさまざまな要因が関与するため、詳しい原因は医師の診断を受けることが重要です。
胃下垂を改善する方法
胃下垂を改善するためには、以下の方法を試してみてください。
食生活の改善
胃下垂を治すには食事療法がメインとなります。食事は水分を一気にとりすぎないようにし、消化のいいものを選びましょう。アルコールは少量にし、飲みすぎには注意してください。
また、一回の食事の量を減らし1日5~6回に分けて食べ、重みで胃を伸ばさないようにしましょう。胃下垂の方は栄養が吸収されにくいので、栄養を多めに採るように心がけてください。
筋力トレーニング
胃下垂の改善には、お腹まわりの筋肉を鍛えることが効果的です。とくに腹直筋下部や腹斜筋、腹横筋を強化することで、胃を正しい位置で支えることができます。以下に、胃下垂改善に役立つトレーニング方法をいくつかご紹介します。
レッグレイズ
仰向けの状態で足を伸ばしたまま、なるべく高い位置まで上げきます。
腹筋に力を入れながら足を下ろし、なるべく床ギリギリまで下げます。
この動きを繰り返します。
ドローイング
背筋を伸ばし、肩を下げ、力まないようにする
お腹に空気をため込むように、大きく息を吸う
息を止めて少しキープ!
膨らませたお腹が凹むように、思いきり息を吐き出す
そのまま20秒キープ!
肋骨が見えるぐらい凹ませましょう。
腹筋ローラー
両サイドについたグリップを両手で握る
おへそを見るように背中を丸めながら、まっすぐ押していく
元の位置までゆっくりと引き戻す
これ以上伸ばせないという地点まで来たら、伸ばしたときと同じスピードを保って元の位置に戻りましょう。
姿勢改善と骨盤の矯正
胃下垂の改善には姿勢が非常に重要です。とくに猫背などの悪い姿勢は、胃を下方に押し下げる原因となり、胃下垂を引き起こすことがあります。背筋を伸ばし正しい姿勢をとることで、胃を正しい位置に保ちます。
日常生活で意識できる姿勢の改善方法としては、以下のようなことが挙げられます。
背筋を伸ばす
背筋を意識して伸ばし、猫背を避けることで、内臓が適切な位置に収まりやすくなります。
骨盤の位置を正す
骨盤が開いたり歪んだりすると内臓が下がりやすくなるため、骨盤の位置を正すことが大切です。
腹式呼吸を取り入れる
腹式呼吸を行うことで、横隔膜を鍛え胃を支える筋肉を強化できます。
これらの姿勢の改善は前述した筋力トレーニングなどと併せて行うことで、より効果的に胃下垂を改善することができます。無理をせず、自分のペースで進めていきましょう。
ちなみに胃下垂対策としてよく挙げられる「逆立ち」には、効果を裏付けるようなデータはありません。
健康な日常を目指して
この記事はあくまでも胃下垂なのかのセルフチェックや胃下垂についての理解に役立てて頂き、「自分が胃下垂なのかしっかり確かめたい」という方は一度医療機関を受診してみてくださいね。
胃下垂の改善には継続的な努力が必要ですが、健康な生活習慣を身につける良い機会と捉えてポジティブに取り組んでいきましょう。正しい知識と適切な対策で、快適な日常を取り戻す手助けになれば幸いです。
参考
医療法人健心会えんどうクリニック
宇都宮クリニックビレッジつちだ内科クリニック
監修者プロフィール
たいや内科クリニック
加藤大也
藤田医科大学 大学院了(博士)
糖尿病専門医、糖尿病研修指導医、糖尿病療養指導医、甲状腺専門医、認定内科医総合内科専門医、産業医