
自律神経のバランスと「水分不足」の関係性とは?“正しい飲み方”を医師に聞いた (2/2)
“水を飲むと血圧が上がる”オスモプレッサー反応とは
私たちの体には、水を飲むことで交感神経が刺激され、末梢血管が収縮し、心拍出量が増加して、 一時的に血圧が上がるという生理的な反応があります。
「オスモプレッサー反応」という生理的な仕組みで、水の浸透圧や温度に関係なく、胃に水が入ったという機械的な刺激で誘発されることが研究で報告されています。
起立性低血圧(立ちくらみ)のような、立ち上がった時に血圧が急激に低下し、めまいや失神が起こるような状態において、飲水によるオスモプレッサー反応は、症状の緩和につながる可能性が指摘されています。
セルフチェック! こんな症状は水分不足のサインかも
もし、ご自身の不調が水分不足と関係しているかもしれないと感じたら、以下のサインを参考にしてみてください。
- なんとなく体がだるい、疲れがとれない
- 頭痛や頭重感がある
- 立ち上がったときにクラっとする(めまい・立ちくらみ)
- 集中力が続かない、注意力が散漫になる
- 寝つきが悪い、夜中に目が覚める
尿色・体重の変化でもわかる! セルフモニタリング表
より客観的に体の水分状態を推測する方法として、尿の色や体重の変化を確認する方法があります。
【簡易表】尿の色と体重でセルフチェック
チェック項目 |
水分が足りている傾向 |
水分が不足している傾向 |
尿の色 |
透明に近い薄い黄色 |
濃い黄色、オレンジ色に近い |
朝晩の体重 |
体重の変動が少ない(1%以内) |
朝起きたときの体重が前夜より大幅に減っている(2%以上) |
尿色や体重の変化は、体内の水分状態を把握するための手軽な参考指標です。ただし、ビタミン剤などの薬剤、食事内容、体質によっても色は変わりますし、体重も食事量に左右されます。
これらの指標を過信せず、のどの渇きや体調と合わせて総合的に判断することが大切です。
シーン別で見る、正しい水の飲み方
効果的な水分補給は、量だけでなく「いつ」「何を」飲むかというタイミングと内容の設計が重要です。
たとえば暑い環境では、熱中症予防が最優先です。環境省が公表する「WBGT(暑さ指数)」を参考に、行動を調整しましょう。
WBGT(℃) |
危険度 |
注意すべきこと |
31~ |
危険 |
運動は原則中止。涼しい室内へ。 |
28~31 |
厳重警戒 |
激しい運動は中止。こまめな休憩・水分・塩分補給。 |
25~28 |
警戒 |
積極的に休憩。水分・塩分をこまめに補給。 |
~25 |
注意 |
適宜水分補給。 |
WBGTが「警戒」レベル以上では、汗で失われる塩分(ナトリウムなど)の補給も重要になります。スポーツドリンクや塩分タブレットなどを上手に活用しましょう。
日常生活(起床時/入浴前後/就寝前など)
特別な活動がない日でも、以下のタイミングで飲む習慣をつけると、体の水分を保ちやすくなります。
- 起床後すぐ:睡眠中に失われた水分を補給
- 入浴の前後:汗で失われる水分を補う
- 就寝前:コップ半分程度の少量の水を
- 日中:「のどが渇いた」と感じる前に、こまめに一口ずつ
運動時(開始前・中・後)
スポーツ時は計画的な水分補給が、パフォーマンス維持と安全確保につながります。
- 開始前(30分前):コップ1~2杯(250~500ml)
- 運動中:20~30分おきに、一口~コップ1杯程度(100~250ml)
- 運動後:減った体重を目安に、ゆっくり補給
長時間の運動や多量の発汗時には、水だけでなく糖分と電解質を補給できるスポーツドリンクや、脱水症状が疑われる場合の経口補水液の活用も検討しましょう。
起立性低血圧・持病のある方は要注意!
「立ちくらみ対策としての水分摂取」は個人差が大きい
前述のオスモプレッサー反応により、短時間でコップ1~2杯の水分を摂取すると、一過性に血圧が上昇することがあります。 これにより、起立性低血圧の一部の方で症状の緩和につながる可能性があります。
ただし、この効果には個人差が大きく、すべての人に当てはまるわけではありません。また、あくまで一時的な対処法のひとつです。症状が頻繁に起こる場合は、必ず医療機関を受診してください。
持病のある方や薬を服用中の方は、必ず医師に相談を
心臓や腎臓の疾患、高血圧などで治療中の方、また血圧や自律神経に影響する薬を服用中の方は、水分や塩分の摂取量を自己判断で変えてはいけません。 必ず主治医や薬剤師の指示に従ってください。
こんなときは危険! 医療機関の受診目安
水分不足は、自律神経のバランスに影響を及ぼす一因となる場合がありますが、体調不良や自律神経失調症状の原因は多岐にわたります。
セルフケアで改善しない不調や、以下のような症状がある場合は、他の病気の可能性も考えられるため、速やかに医療機関を受診してください。
- 意識がはっきりしない、呼びかけへの反応が鈍い
- 体がけいれんする
- 強い吐き気で水分が摂れない
- 経験したことのないような激しい頭痛
- 安静にしていても動悸が続く、胸が苦しい
自律神経のバランスをサポートする水分補給の3ステップ
最後に、日々のコンディションを整えるための水分補給のポイントを3つのステップで振り返ります。
【ステップ1】朝、起きたらまずコップ1杯の水を飲む
睡眠中に失われた水分を補給し、体をやさしく目覚めさせる習慣を。
【ステップ2】「のどが渇く前」に、こまめに飲むことを意識する
渇きは水分不足のサイン。その前に補給する先回りのケアを。
【ステップ3】暑い日や運動時は、塩分も忘れずに補給する
汗を多くかく場面では、水分と電解質をセットで補うことが大切。
私たちの心身のバランスは、水分だけでなく、食事、睡眠、ストレスなど、多くの要因が複雑に関わり合って成り立っています。その中でも、水分補給は最も手軽に始められるセルフケアの一つです。
今日のコップ一杯から、ご自身の体をいたわる習慣を見直してみてはいかがでしょうか。
監修者プロフィール
用賀きくち内科 肝臓・内視鏡クリニック院長
菊池真大(きくち まさひろ)先生
慶應義塾大学医学部卒業、東海大学医学部客員准教授、米国ペンシルバニア大学消化器内科元博士研究員、日本アルコールアディクション医学会理事。日本総合内科専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓学会専門医、日本内視鏡学会専門医、日本人間ドック健診専門医、日本病態栄養学会専門医、日本抗加齢医学会専門医
2024年秋、メタボとロコモを同時予防管理する未来志向型クリニックを東京・用賀の地に開業。https://www.youga-naika.com/
<Text:外園拓/Edit:編集部>