ウェルネスフード
2025年12月1日

【熊肉の栄養】クマの肉、食べるとどんな効果があるの?食べるリスクは?

各地でクマの出没や人への被害が相次ぎ、ニュースでも頻繁に取り上げられるようになっています。人里への出現は恐ろしいものですが、一方で「熊肉をジビエとして食べると美味しいの?」という声も増えてきました。

実は、熊肉は古くから食用とされ、高タンパク・低脂肪で栄養価の高い“山の恵み”として知られています。中には「熊鍋はスタミナ食」と語る人も。しかし、野生動物ゆえに寄生虫やウイルスのリスクも存在し、安易に調理できる食材とは言い切れません。

今回は、そんな注目の食材「熊肉」について、その栄養価・食べることで得られる効果、そして知っておきたいリスクやデメリットを解説します。

熊肉ってどんな肉? 食文化と歴史

「熊の肉」と聞くと、ちょっとワイルドすぎると感じるかもしれませんが、実は日本でも古くから熊肉は貴重な食材として食べられてきました。狩猟文化が根づく地域では、熊は“山の恵み”として扱われ、命を大切にいただく文化と深く結びついています。

とくに有名なのが、長野県や秋田県、北海道などの山間部で親しまれてきた「熊鍋」。冬眠前に脂がのった熊肉を味噌や醤油ベースの鍋にして食べる風習があり、滋養強壮に良いとされています。

アイヌ民族の間では、熊は神の化身とされ、儀礼やごちそうの一部として尊重されてきました。熊肉は特別な日に食べるものであり、力をつける“薬膳”のような扱いだったとも言われています。

日本だけでなく、ロシア、カナダ、アラスカ、スウェーデンなどの狩猟文化がある地域でも食べられてきました。煮込みやスモークにして食べるのが一般的。冬を越すための高カロリー・高栄養源として重宝されていたようです。

最近では、ジビエ(野生鳥獣肉)ブームの中で、熊肉も少しずつ注目を集めています。鹿やイノシシより流通は少ないものの、熊肉は希少性が高く、栄養価も豊富な“プレミアムジビエ”として、専門店などで提供されています。

野生の鳥獣肉「ジビエ」はなぜダイエット食材としておすすめなのか

熊肉の主な栄養価と健康効果

熊肉は栄養価が非常に高く、健康や体づくりに役立つ要素を多く含んでいます。

高タンパク・低脂質で「野生の赤身肉」

熊肉の特徴のひとつが、高タンパク・低脂肪な赤身肉であること。部位によって脂の量は異なりますが、冬眠前に脂肪をためた熊は、赤身と脂のバランスがよく、エネルギー源としても優秀です。

  • 筋肉の材料になるたんぱく質が豊富
  • 不飽和脂肪酸も含まれ、悪玉コレステロールを抑える作用も期待できる

鉄分・ビタミンB群もたっぷり

さらに、以下のような微量栄養素も豊富に含まれています。

  • 鉄分(特にヘム鉄):貧血予防や持久力アップに
  • ビタミンB12:神経系のサポート、疲労回復に効果的
  • ビタミンB1・B2:糖質代謝を助け、エネルギー生成を促進

なお、部位・季節・年齢・性別などによって栄養の値は大きく変動します。国内データは少なく、具体的な分析例は海外調査が多いですが、低カロリーで高タンパク質、鉄やビタミン類が多いことは共通しています。

もちろんリスクもある! 熊肉を食べる際の注意点

熊肉は高タンパク・高栄養な「山の恵み」ではありますが、野生動物ならではのリスクも存在します。

寄生虫(旋毛虫/トリヒナ)による健康被害のリスク

熊肉を食べる上でもっとも注意が必要なのが、「旋毛虫(せんもうちゅう/トリヒナ)」という寄生虫の存在です。この虫に感染した肉を加熱不十分で食べると、「トリヒナ症(旋毛虫症)」という感染症を引き起こす可能性があります。

  • 主な症状:発熱、筋肉痛、下痢、むくみ、重症化すれば命にかかわることも
  • 加熱目安:中心温度を75℃以上で1分以上加熱するのが推奨されています

生食やレア調理(低温調理)では感染リスクが残るため、熊肉は必ず十分に加熱してから食べましょう。

細菌やウイルスによるリスクもある

野生動物の肉には、寄生虫だけでなく、大腸菌・サルモネラ菌・E型肝炎ウイルスなどの感染リスクも潜んでいます。これらもやはり生や半生状態で食べると感染の可能性があるため、十分な加熱処理が必須です。

抵抗力が弱っているときや、妊婦・子ども・高齢者などは、食中毒リスクが高くなる可能性があるため注意が必要です。熊肉に限らず、ジビエ全般においては「体調の良いときに、きちんと加熱調理して食べる」ことが基本です。

熊肉は信頼できる専門店や流通ルートで

熊肉はスーパーで売られているような一般食材ではありません。安全に食べるには、以下のような信頼できるルートで入手することが大前提です。

  • ジビエ専門店や認可を受けた狩猟者からの直販
  • 食肉処理施設で適切に処理・検査されたもの
  • ふるさと納税の返礼品や信頼できる通販サイトなど

参考資料
一般社団法人 国産ジビエ認証機構 ジビエの栄養成分に関する資料

農林水産省 ジビエ利用拡大コーナー

Uncovering the Health Benefits of Bear Meat: A Nutritional Analysis(2024年)

監修者プロフィール

なか整形外科京都西院リハビリテーションクリニック
樋口 直彦 先生

なか整形外科樋口 直彦帝京大学医学部卒業後、いくつかの病院で勤務し、院長を経験後、2021年1月に医療法人藍整会 なか整形外科の理事長に就任。バレーボールVリーグ「サントリーサンバーズ」のチームドクターも務める。骨折治療をはじめ関節外科、スポーツ整形外科を専門に治療。

<Edit:編集部>