ASD(自閉スペクトラム症)にはタイプがある? 5つの特性傾向 (2/2)
対人スタイルにおける「ASD」のタイプ
ここまで特性の傾向を見てきましたが、ASDの人の対人関係のあり方には、いくつかの“スタイルの違い”が見られることがあります。
もとになっているのは、先ほど紹介したローナ・ウィングの研究です。
ウィングとグールドは1979年の疫学研究で、社会的相互作用に障害のある子どもたちの対人パターンを3つに分類し、ウィングは後年の著作でもうひとつを追加しました。もともとは知的障害を伴う子どもの集団から見出された分類ですが、その後、知的障害のないASD(いわゆる高機能群)にも広く適用されるようになっています。
診断上の分類ではなく、あくまで対人スタイルの傾向を整理するための枠組みです。
孤立型
他者との関わり自体への関心が比較的低く、ひとりで過ごすことを好む傾向があります。話しかけられても反応が薄く、「自分の世界に入っている」ように見えることが多いタイプです。
ただし、身体を使った遊び(くすぐり、追いかけっこなど)には応じることもあり、「人が嫌い」というより「言葉を介したやりとりが難しい」と理解したほうが正確でしょう。
孤立の裏に孤独感や悲しみが隠れていることもあります。無理に関わろうとするよりも、安心できる距離感を尊重することが大切です。
受動型
自分から積極的に関わることは少ないものの、周囲からの働きかけには穏やかに応じることができます。温和で従順、「いい子」と評価されやすいタイプです。
ただし、人に流されやすく、自分の意見や希望を表明することが苦手なため、ストレスを内側に溜め込みやすい面があります。
一見適応しているように見えても、突然の爆発的な怒りや、原因不明の身体症状として表面化することがあります。
積極奇異型
人との関わりへの関心は高いのですが、距離感やタイミングが独特で、一方的な関わり方になりやすい傾向があります。
初対面の相手にいきなり自分の好きな話題を延々と語りかけたり、相手の反応にかかわらず話し続けたりする。「関わりたい」という気持ちは本物なのに、それが相手にうまく届かないもどかしさがあります。
アスペルガー症候群(現在のASDに含まれる)の58名を対象とした調査では、約79%がこのタイプに分類されたという報告もあり、知的能力の高いASDではもっとも多く見られるスタイルです。
尊大型
自分の知識や考えに強い自信を持ち、相手より優位に立とうとする関わり方が見られることがあります。
ただし、「尊大型」という日本語の訳語には少し注意が必要です。ウィングの原典では「過度に形式的・丁寧な対人態度(“stilted”あるいは“over-formal”)」という意味で使われています。
職場では礼儀正しく振る舞えるのに、家庭ではルーティンが崩れると癇癖が出る。初対面ではASDの特性がほとんど見えない。そういう人物像です。「傲慢」というよりは、「形式的なルールでしか人と関われない不器用さ」と捕らえたほうが実態に近いかもしれません。
なお、“stilted”は対人スタイルの特徴であり、先に④で紹介した「衒学的(pedantic)な話し方」とは別の概念です。pedanticが言語表現の特徴を指すのに対し、stiltedは対人関係の構え方を指している。両者はしばしば重なりますが、区別して理解しておくとよいでしょう。
研究上の検証がほとんど行われていない類型であり、他の3タイプに比べてエビデンスは限定的です。
ASDのタイプは固定ではなく変化する
これらのタイプは固定的なものではありません。年齢を重ねるなかで対処法を学んだり、環境が変わって楽になったりすることで、対人スタイルが変わることは十分にありえます。
ひとりの人が複数の特徴をあわせ持つことも珍しくありません。「この人は○○型だ」と固定的に捕らえることは避けたほうがよいでしょう。
知識よりも大事なのは「その人の困りごと」で見ること
これらの傾向はあくまで「理解のための地図」であり、特定の人を「このタイプだ」と当てはめることが目的ではありません。
ASDの特性は、それ単体で現れることはほとんどありません。知的発達の程度、育った環境、本人の性格、他の発達特性との組み合わせなどが絡み合って、その人固有の「困りごと」として現れます。
臨床の現場で私が大切にしているのは、「この子はASDのどのタイプか」ではなく、「この子は今、何に困っていて、どんな場面でその困難が強まるのか」という視点です。
同じ「ASD」でも、感覚過敏で教室にいられない子と、対人関係の誤解が積み重なって疲弊している子では、必要な支援がまったく違います。
ASDについての知識は、誰かを分類するためではなく、「なぜこの人はこういう反応をするのか」を想像するための手がかりとして使いたいものです。
分類は出発点であって、ゴールではない。その先にある一人ひとりの生きづらさに目を向けることが、本人への理解にも、周囲のサポートにも、きっとつながっていくはずです。
監修者プロフィール
不登校/こどもと大人の漢方・心療内科
出雲いいじまクリニック 院長
飯島慶郎(いいじま・よしろう)
■公式サイト https://sites.google.com/view/izumo-iijima-clinic
■著書情報
『不登校は病気?〜医師の診断が子供と家族を救う〜』
著者:飯島慶郎(いいじまよしろう)/イラスト:わさび
出版社:みらいパブリッシング(健康・医療のフロントラインシリーズ)
発売日:2026年1月27日
判型:四六判・224ページ・ソフトカバー
価格:1,870円(税込)
ISBN:978-4-434-37267-4
心療内科医、臨床心理士、総合診療医、内科医、漢方医、産業医など、マルチドクターとして活動。得意とする分野は「心身症・不定愁訴」に対する漢方薬・向精神薬・心理療法・ケースワークを統合した総合的対人援助。心身の軽微な不調を入口にクライアントの「人生そのもの」を癒やすことを実践。近年は特に不登校診療に特化し、多くのこどもたちを改善に導いている。
<Text:外薗 拓 Edit:編集部>









