ヘルス&メンタル
2025年9月11日

母親と父親からの愛情不足、それぞれどんな影響を与える?男性に表れやすい「問題サイン」とは (1/2)

父親との関係は、男性の心に大きな影響を与えると言われています。とくに、幼い頃に父親からの愛情を感じられなかった、あるいは尊敬できる存在として見ることができなかった場合、その影響は大人になってからもじわじわと表れます。

家庭や仕事、恋愛の中で繰り返すモヤモヤの正体は、もしかすると“父性不足”による心の影かもしれません。子どもの成長発達にくわしい臨床心理士、公認心理師で一般社団法人マミリア代表理事の鎌田怜那さん監修のもと見ていきましょう。

先に「母親からの愛情不足で育った男性の特徴とは」を読む

監修者プロフィール

臨床心理士 鎌田怜那(かまだ・れいな)

一般社団法人マミリア代表理事。臨床心理士、公認心理師。
【所属学会・協会】
・日本臨床心理士会
・日本公認心理師協会
・日本心理臨床学会
・日本アタッチメント育児協会
公式サイト https://mamilia.jp/

子どもにとっての父親の心理的役割とは

子どもにとって、父親の存在は母親とはまた違った「心理的な役割」を持っています。

父親は、母親が担う「無条件の愛情と安心」の役割とは少し異なり、社会とのつながりや自立の感覚を教えてくれる象徴的な存在です。

たとえば、父親の関わりを通じて、子どもはルールや秩序、外の世界との関係性を学びます。父親がどのように感情を表現し、人と接し、自分自身を律しているか。その姿から「社会での自分のあり方」や「男性像」を学ぶのです。

とくに男の子にとっては“将来の自分像”として、女の子にとっては“異性との関係の土台”として、父親は無意識のうちに大きな影響を与えます。

「父親からの愛情不足」で育った女性の特徴とは。“尊敬できないパパ”は恋愛面で影響も

父性不足で育つと、男性の場合、とくに「自己肯定感」と「男性としてのアイデンティティ」で影響が出やすい

男性の場合は「自分はどういう存在か」「どういう男でいたいか」という自己像の形成において、父親との関係が非常に深く関与しており、それが揺らぐとさまざまな面に不安定さが生まれやすいと考えられます。

とくに顕著なのが、「男らしさ」や「リーダーシップ」といった社会的に求められる男性像に対する強いプレッシャーです。

男性にとって父親は、自分が「どんな男になりたいか」を無意識に学ぶ“モデル”のような存在です。その父親から十分な愛情や関心、承認を得られなかった場合、「自分には価値がない」「男としてダメなんじゃないか」という深い自己否定感を抱きやすくなります。

その結果、社会的な場面で自信を持てず、必要以上に他人の評価に依存する、逆に虚勢を張って“強い男”を演じてしまうこともあります。

「自己肯定感が高い人は、他者も自分も大切にできる人」。心理専門家が考える、自己肯定感が高い人・低い人とは

また、感情をうまく表現できない、人に弱みを見せることが怖いと感じる男性も多くいます。それは、幼い頃に感情を受け止めてもらえなかった経験が根っこにあることも少なくありません。

結果として、パートナーシップや友人関係でも、どこか壁を作ってしまう、深い関係を築くのが苦手になる場合があります。

また、父性を引き継げていない感覚から、自分が家庭を築くこと、父親になることに対して不安を感じる人も少なくありません。「尊敬できる父親像」がなかったために、自分が父親になったときどう接すればいいのかわからず、戸惑いや不安を感じやすいという点もあるでしょう。

大人になってからじゃ手遅れなの? 今からできる対処法

まずは「父親不足」であることに気づくこと

なんだかうまくいかない……を繰り返しているのであれば、そのことに気づき、認め、向き合うことが必要になります。

自己肯定感が低いと、まずこれがとっても難しく、偏屈になってしまい、なかなか認めきれません。この状況では、「父親不足」による影響を無意識に受け続け、人間関係や仕事において“うまくいかない感じ”が付きまとうようになります。うまくいかない原因を、周りのせいだと思いがちで自分で自分の言動に責任が取れないのです。

困ったことに、とくに男性は、過去に「父親不足」によって、傷ついてもトラウマを抱えていても「今の自分があるのは、これまでの経験のおかげ」と結論づける傾向にあります。

まずは「父親不足」を認め、向き合えるよう、心を決めましょう。

次に、このことを誰かに話してみましょう

男性にとっては難しいことかもしれません。誰にでも話せる内容ではないので、話せる相手がいない場合はカウンセリングを受けてみましょう。

学生時代〜社会人の間は「父親不足」による影響でトラブルを繰り返したり、孤立したりしながらも、なんとか取り繕うことはできます。しかし、結婚や子どもが生まれたりといった、より親密で人生の大きな変化では誤魔化しが効かなくなります。

それまで“いろいろあったけれど、うまくいっていた”ことが、途端に“うまくいかない感じ”が強くなり、自己肯定感がより低くなっり、逃げ出したくなったり、落ち込みやイライラが激しくなったり……。そうなると、家庭内で自分の力を誇示しようとしたり、家庭外に癒しを求めたりするようになります。

結婚を意識し始めた頃から、カップルカウンセリングを受けるなどして、将来設計などを第三者と一緒に描いてみることをおすすめします。

子どもの頃の愛情不足、大人になった“今”にどう影響する?当事者が語る向き合い方

あとは練習あるのみ

認め、向き合えるようになる=自分の人生に責任を取る、ということ。「父親不足」で自己肯定感が低いと、トラブルを人のせいにしがちですが、“自分のことは自分で責任を取る”ことが、社会人としては不可欠なスキルです。

そのため、自分の問題に向き合えるようになってくると「父親不足」を克服しつつある兆しと捉えることができます。

あとは“責任を取ること”が定着するよう、繰り返し練習が必要です。ボランティアに参加したり、企画・プロジェクトに積極的に参加するなど、いろんな人と関わる機会を増やしてみましょう。

その中で“うまくいかない感じ”に気づいたり、トラブルに直面した時には、あなたが信頼できる人に指示・指導を受けてみましょう。

トライ&エラーを繰り返しながら、社会のお手本と思える人たち(父親的存在)からたくさん吸収し、自己肯定感を育てていきましょう。

父親との葛藤は誰にでもあります。素晴らしい父親であっても何らかの葛藤があり、「父親不足」による葛藤もあります。自分がどんな大人、社会人、親でありたいか……ぜひ客観的に考えてみてください。

自分の「理想像」に気づく方法

あなたがこれまでハマったものは何ですか?

マンガや映画、歴史上の人物。身近な存在であれば、先生やコーチ、上司など、自分の心が惹かれた人物がいたのであれば、それがあなたの理想像です。

あなたにどのような影響を与えたのか、自分に問いかける時間を作ってみてください。紙に書き出すのもおすすめです。

幼少期の傷ついた自分と対話し、癒す「インナーチャイルドワーク」のやり方

あなたの生い立ちは子育てに反映されます

あなたが経験したことを我が子にも経験してほしいでしょうか?

あなたが抱え、目を逸らしてきた痛みや悲しみや怒りなどの感情は、我が子を通して再体験させられます。子育てを通して過去の感情に向き合うことができれば、父親との葛藤を乗り越え、克服していくことができます。家族内で繰り返している負の連鎖を断ち切るのが“今のあなた”である──かっこいいですよね。

しかし、再体験させられている感情が自分のものであると気づかないままだと、子育てとして子どもにその気持ちを押し付けてしまい、子どももあなたと同じような生い立ちを辿るようになってしまいます。

子育ては、自分を見つめ直す機会になります。それは、パートナーである妻も同じです。夫婦では立ち行かなくなる局面も多々出てきます。

でも、それは当然のこと。夫婦だけで頑張ろうとせず、子育ての専門家、心の専門家との定期的なカウンセリングを受けながら、次々に出てくる課題を解決していきましょう。

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老いた父親とどう付き合うか

介護の問題や亡くなった後のことなど、最近では終活を勧める風潮が高まっています。

事前に話し合えるためには、「話し合える関係性」でないと、話し合いのたびに喧嘩になったり、決裂したり。世話してもらっていないのに、世話しないといけない負担感や嫌悪感など、親の老いには、押し殺していた幼な心が刺激されます。

親を変えることはできませんが、あなたが親を克服することで、親にとって納得の最期を迎えてもらえるようサポートができるようになります。

老いた父親に何とも言えない感情を感じたときには、静かに深呼吸をして、支えてくれた人々の顔を思い出しましょう。父親以外の人に支えられ、指導してもらい、培ってきた社会性を糧に「父親不足」を克服した自分を認めることができると、自己肯定感の変化を実感できます。

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