“エレベーターを使わずに、階段を上りなさい”。ブルース・リーから学ぶトレーニング哲学 (1/2)
今から約20年前、1999年にアメリカの大手雑誌『タイム』が「20世紀で最も重要な100人」のリストを発表しました。政治家、革命指導者、人権活動家、学者、会社経営者、音楽家、芸術家、スポーツ選手など幅広い分野から選出された100人の中には、映画スターであり武術家でもあるブルース・リーの名前もありました。欧米人が多数を占める中、ブルース・リーは毛沢東やホー・チ・ミンといった歴史的な政治家と肩を並べ、アジアから選ばれた数少ない人物の1人でした。ちなみに日本人からは唯一、ソニーの共同創業者の盛田昭夫氏が選ばれています。
ブルース・リーの名を世界に轟かせ、現在でも最高のアクション映画のひとつに数えられる『Enter The Dragon』(邦題:燃えよドラゴン)が1973年に公開されたとき、ブルース・リーはすでに亡くなっていました(享年32歳)。そうした伝説もあいまって、ブルース・リーが世界に与えた衝撃の大きさには計り知れないものがあり、現在でもその影響力は衰えていません。
ブルース・リーといえば、映画で見せた極限まで鍛えられた肉体がもっとも有名ですが、武術家や哲学者の一面もあります。「考えるな、感じるんだ」や「水のようになれ」など数多くの有名な名言を残しており、耳にしたことのある方は多いでしょう。
ブルース・リーの生前に書かれ、死後出版された唯一の著書『Tao of Jeet Kun Do/日本語訳名:秘伝截拳道への道』(著者: ブルース・リー/出版社:コンコルド東通 ベストブック社)には、武術書であるだけではなく、ウェイトトレーニングや持久力系トレーニングに関しても多くの記述があります。そこには現在でも充分に通用するトレーニング理論を見出すことができ、約半世紀も前に書かれたとは信じられないほどです。
読めば読むほどブルース・リーの先進性に驚かざるを得ない同書から、トレーニングに関する名言をいくつかピックアップしてご紹介します。なお、翻訳はすべて筆者によるものです。
ブルース・リーの名言 トレーニング編
「トレーニングはスポーツにおいてもっとも軽視される段階のひとつだ。よくあるように、技術の習得に多くの時間をかけすぎると、個人の成長にかける時間が少なくなってしまう」
「トレーニングは精神的および身体的なコンディショニングであり、神経と筋肉の両方にかかる強度な反応に備えるためのものだ。精神力、パワー、耐久力、そして技術のすべての要素を同時に向上させるハーモニーでなくてはいけない」
「トレーニングは強い体を作るための方法だけではなく、いかに怪我を防ぐための知識を得ることでもある。不適切なトレーニングは怪我を誘発する。トレーニングとは怪我の予防法であると同時に、怪我をしてしまった場合の治療法でもある」
ブルース・リーの名言 リラックス編
「優れたアスリートの真価は、全力を出さなくてはいけない局面において、いかに無理なく動けるかどうかにある」
「無駄な筋肉の緊張は動きを妨げるブレーキになってしまい、かえってスピードとパワーを失わせる」
「リラックスとは身体の状態であるが、それをコントロールするのは精神的な状態だ。肉体的な反復練習と同じように、頭の中に浮かぶ考えを意識的にコントロールする絶え間ない努力によってもたらされる」
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