フィットネス
2024年1月26日

ケトルベルトレーニング「スイング」のやり方。頭上まで振り上げるべき?胸や顔まででいい?

 ケトルベルは、新型コロナウイルス感染拡大により、アメリカ国内で需要と供給のバランスが大きく狂った製品のひとつです。ジムが閉鎖され、あるいは再開しても、自宅でトレーニングをする人たちが競ってケトルベルを購入したのです。まるでトイレットペーパーやマスクのように、一時はケトルベルを店頭で見つけることが困難になりました。

 ケトルベルを用いたエクササイズは無数にありますが、もっとも代表的なものは「ケトルベル・スイング」と呼ばれるもの。両手でぶら下げたケトルベルを振り上げる(スイング)するのですが、ケトルベルが到達する最高の高さによって、ロシアン(胸から目の高さ)とアメリカン(頭上)の2種類に分けられます。そして、ケトルベル・スイングのうちロシアンとアメリカンのどちらがいいかについては、フィットネス関係者の間でも長年議論になってきました。

 今回は、ケトルベル・スイングを行う高さや共通フォーム、それぞれの違いについて説明します。

ケトルベル・スイングの共通フォーム

セットアップ動作のやり方

 セットアップでは、両手でケトルベルを握り、両足は肩幅かやや広めに取って、膝と爪先はやや外側に向けます。この両足の位置は、スクワットをするときと同じスタンスです。

 まず膝と股関節を軽く曲げ(最大でも20度くらい、膝は腰より上)、お尻を後ろに突き出すようにします。ハーフ・スクワットと似た動きです。背筋を曲げないように注意してください。

 そして、すばやく膝と股関節を伸ばして立ち上がりながら、その反動を利用してケトルベルを振り上げます。腕はまっすぐに伸ばしたまま(肘を曲げない)です。かかとは常に地面につけたままにします。

連続して行うやり方

 普通、ケトルベルは1回だけではなく、10~20回程度を連続して行います。1回目のスイングの後にケトルベルを下ろしながら、セットアップのときと同じように、膝と股関節を軽く曲げるのです。

 疲労が高まるかケトルベルの重量が重すぎると、フォームが乱れがちになります。過度に前かがみになったり、反対に腰を反らさないようにしましょう。とくに背筋が曲がってしまうと、腰や背中を痛めることがありますので注意してください。

ケトルベル・スイングの高さ、どこまで上げるべき?

 ロシアンの場合、ケトルベルは胸の前か、最高でも目の高さまで振り上げます。

 アメリカンの場合、ケトルベルは頭上まで一気に振り上げて、重心が両足の真上に来たところで一瞬静止させます。

初心者や肩の可動域が狭い人はロシアン(胸から目の高さ)

 どちらの種類を選ぶべきか。その答えは、個人の能力とトレーニングの目的によって異なります。ケトルベル・スイング未経験者や慣れていない人は、まずロシアンから始めてください。その理由のひとつは「安全性」です。見て明らかなように、ロシアンではケトルベルを落とす危険性はずっと低くなります。

 また、肩の可動域に難がある人もロシアンを選択してください。バーベルのスナッチやオーバーヘッド・スクワットもそうですが、両腕を伸ばしたままで頭上まっすぐの位置で静止させるのには、見た目よりはるかに肩の可動域が要求されます。ケトルベル・スイングでは両腕が狭いのでなおさらです。だからこそ、アメリカンで肩の可動域を広げるという考え方もあるでしょう。しかし重量負荷を用いてそれを行うと、ケガの危険が伴います。トレーニングの目的は、1種目につきひとつに絞るのが原則です。

スタミナアップやダイエットならアメリカン(頭上)

 アメリカンではケトルベルの軌道が長くなりますので、同じ重量と回数ならば、当然ながら運動量はロシアンより大きくなります。そのため、スタミナアップやダイエット目的の人はアメリカンの方が適しているかもしれません。また、クロスフィットのようなフィットネス系の競技では、判定がやりやすいという理由でケトルベル・スイングにアメリカンが指定されることが多く見られます。こうした競技に参加する予定がある人は、アメリカンに慣れておく必要があるでしょう。

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ケトルベルで身体の効率的な動かし方を身につける

 どちらの種類のケトルベル・スイングを選択するにしても、共通フォームにもある通り、大切なことは「ケトルベルを振り上げる原動力は腕力ではなく体幹の動きである」ということ。体の中心部(core)の筋肉から動作を始めて、その力を手や足など末端(extremities)の筋肉に伝えるのは、すべてのエクササイズの基本となります(Core-To-Extremityと呼ばれます)。ケトルベル・スイングは、ロシアンとアメリカンの違いにかかわらず、このCore-To-Extremityを身体に覚えこませるのに最適なのです。

[筆者プロフィール]
角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。
【公式Facebook】https://www.facebook.com/WriterKakutani

<Text & Photo:角谷剛/Photo:Getty Images>