応援される⇔応援する、アスリートの私に娘が教えてくれた発見とは?│寺田明日香の「ママ、ときどきアスリート〜for2020〜」#49
みなさん、こんにちは。陸上競技の寺田明日香と申します!
前回の記事では、オリンピックへの想いや考えを書かせていただき、多くの方に読んでもらえたことをうれしく思っています。賛否両論あるのは当然のことだと思っていますが、たくさんの温かい言葉もいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。
とにかく、今は目の前にあることを1つひとつ大切に過ごそうと思っています。
さて、今回のコラムは、“応援”についてです。
私自身、ありがたいことに本当に多くの人たちに応援していただきながら、ここまでの人生を歩んできました。応援される側にいる方が圧倒的に多かった私が、子どもが生まれたことで応援する側にも回る場面ができ、改めて「応援」について想うことや発見がありました。
今回のコラムでは、それらのことに触れてみたいと思います。最後までお付き合いのほどよろしくお願いいたします!
応援は力にもプレッシャーにもなる魔法の言葉
「応援している」、「がんばれ!」と声をかけられると、なんだかうれしくなっちゃいますよね。何度いわれてもうれしくなる不思議な言葉ですが、自分の置かれている状況によって受け取り方が変わると、重くのしかかる言葉になり得るときもあります。
31歳になった現在の私は、さまざまな意味で図太くなったので(笑)、どんな状況下でそれらの言葉をいただいても重く感じることはなくなりました。しかし、第一次陸上選手期の時は、それらの言葉がプレッシャーへと変化し、自分の世界を狭めてしまっていました。
応援される側は、応援してもらえることに感謝しながらも、応援の大きさと自分の結果が見合っていないときは、無理やり自分への期待値を上げなければいけないのでストレスを感じるようになります。
「じゃぁ応援する側も気を遣わなきゃいけないの?」というところですが、それは受け取る側のメンタリティが変化すればポジティブな力に変わるので、純粋に応援している側は応援しているということを素直に温かく伝えていただくのがよいかと思います。
元陸上選手だった母の想い
ふと思い出すのは、自分の母だけには「応援している」や「がんばれ」といわれなかったことです。
よーく考えてみても、母が私にそれらの言葉をかけた事は、思い出せる範囲では一度もないのではないかと思います。
私の母は元陸上選手で、私が陸上を始めたときは母がコーチでしたが、クラブチームに入ってからはほとんど陸上の話はしませんでした。その距離感が、少しありがたかったなぁと思ったり……。
そんな母でしたが、大きい試合の前になると「あんたの走りを見るのは心臓に悪い」というようになりました。昔は母の気持ちをまったく理解できず、「走るわけでもないのに~」と笑って流していたのですが、娘が目標を持って努力をし始めたとき、母の感じていた想いと“緊張感”を知りました。
いつも応援される側過ぎて、普段から頑張りを見ている誰かの応援するのってこんなに緊張するんだと学ぶ。
— 寺田明日香(てらだあすか) (@terasu114) November 16, 2020
母親が、「あんたのレースある度、緊張して吐き気する」と言っていて気持ちがわからなかったけど、ようやくわかった。吐き気がする😂(笑)
一番近いところで子どもが目標に向かって努力する姿を見てきたからこそ、当事者として「なんとか上手くいってほしい」と努力が実ることを願う気持ちと、「何かあったら」、「残念な想いをしてほしくない」と心配する気持ち。
直接的な応援の言葉をいわないようにしていた母でも、それらの気持ちに付随する緊張感から漏れ出てしまっていた言葉なのだと思っています。
しみじみ感じた応援のありがたさ
母の感じていた緊張感を味わったのが、娘が自分で決めた大きな目標に向かって努力し、本番に挑んだときでした。
自分のレースでは、緊張したとしても自分の調子は把握しているし、ある程度のコントロールができるようになっているため落ち着いて対処することが可能ですが、娘のこととなると状況は変わります。
本人の感じている主観的な調子・不安要素・会場の空気感など、こちらは把握しきれないことが多いし、こちらは何もできない。あとは本人しだい。会場まで見送り別れたあと、自分のレースでは感じたことがないような緊張感に襲われ、なんだが涙が出そうになりました。
「とにかく、頑張ってきたことが発揮できますように、後悔しませんように」。ハッと気がつくと、ため息と同時にそんなことを考えていました。「あんたの走りを見るのは心臓に悪い」。そのとき、母がいっていたのはこれだったのか! と知りました。
娘を応援してみて気がついたことは、近くで応援してくれている人たちも本人以上に緊張したりプレッシャーを感じたりしているということ。そんな事を何度も経験しながら、変わらずに見守り、応援してくれているということ。
応援する側になったからこそ、応援される側としてのありがたみをより感じられるようになったし、応援する側にもパワーが必要だということもわかりました。
まだしばらくは応援される側にいたいなぁと思っていますが、「応援する側のメンタリティ(耐性)も作っておかなければ」と、思った今日この頃でした。
そして言いたいこと、伝えておきたいことは、とにかく、いつも応援ありがとうございます!
[プロフィール]
寺田明日香(てらだ・あすか)
1990年1月14日生まれ。北海道札幌市出身。血液型はO型。ディズニーとカリカリ梅が好き。会いたい人は、大谷翔平と星野源。小学校4年生から陸上競技を始め、小学校5・6年時ともに全国小学生陸上100mで2位。高校1年から本格的にハードルを始め、2005~2007年にはインターハイ女子100mハードルで史上初の3連覇。3年時には100m、4×100mリレーと合わせて同じく史上初となる3冠を達成。2008年、社会人1年目で初出場の日本選手権女子100mハードルで優勝。以降3連覇を果たす。2009年世界陸上ベルリン大会出場、アジア選手権では銀メダルを獲得。同年記録した13秒05は同年の世界ジュニアランク1位だった。2010年にはアジア大会で5位に入賞するが、相次ぐケガ・病気で2013年に現役を引退。翌年から早稲田大学人間科学部に入学。その後、結婚・出産を経て女性アスリートの先駆者となるべく、「ママアスリート」として、2016年夏に「7人制ラグビー」に競技転向する形で現役復帰した。同年12月の日本ラグビー協会によるトライアウトに合格。2017年1月からは日本代表練習生として活動した。2018年12月にラグビー選手としての引退と陸上競技への復帰を表明。2019年シーズンから競技会に出場し、6月に日本選手権女子100mハードルで9年ぶりの表彰台となる3位に入り、7月には100mでも自己記録を更新。8月には19年前に金沢イボンヌ氏が記録していた日本記録13秒00に並ぶと、9月1日に「富士北麓ワールドトライアル2019」で史上初めて13秒の壁を突破し、12秒97の日本新記録を樹立。カタール・ドーハで開催された「世界陸上」に出場。再び陸上競技選手として、2020年東京オリンピックを目指す。
◎所属企業:株式会社パソナグループ
◎主な記録:100mハードル日本記録保持者(12秒97)/100mハードルU20日本記録保持者(13秒05=2009年世界ジュニアランキング1位)/100mハードル日本高校歴代2位(13秒39)/100m:11秒63【今後の主なスケジュール】
●第104回日本陸上競技選手権大会・室内競技/2021日本室内陸上競技大阪大会
2021年3月17日(水)~18日(木) 大阪・大阪城ホール
●第53回織田幹雄記念国際陸上競技大会
2021年4月29日(木) 広島・広域公園
●第24回アジア陸上競技選手権大会
2021年5月20日(木)~23日(日) 中国・杭州
●第105回日本陸上競技選手権大会
2021年6月24日(木)~27日(日) 大阪・ヤンマースタジアム長居
●東京オリンピック
2021年7月30日(金)~8月8日(日)予定
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<Text & Photo:寺田明日香/Edit:松田政紀(アート・サプライ)>