筋トレは思春期以降が望ましい?筋肉の観点から見た“子どもにふさわしい運動”とは
子どもを将来スポーツ選手にしたいと思い、頑張っているお父さんやお母さん。小さい頃から運動させることは賛成なのですが、きちんと適した運動をさせているでしょうか。
子どもと大人は単に体の大きさが異なるというだけでなく、中身も異なります。そのため、子どもには子どもの運動のさせ方があるのです。
今回は筋肉の観点から、子どもにふさわしい運動についてお伝えします。
覚えておきたい筋肉に関する2つの基礎知識
まずは、基礎知識を2つ確認していきましょう。
1)筋肉には「速筋繊維」と「遅筋繊維」がある
人の筋肉は繊維状からなり、筋繊維と呼ばれます。
この筋繊維には、大きく分けて「速筋繊維」と「遅筋繊維」があります。速筋繊維の特徴は、一瞬だけですが、大きな力を発揮するという点です。無酸素運動でよく使われます。
これに対して遅筋繊維の特徴は、小さな力を長時間発揮し続けます。そのため、有酸素運動でよく使われる筋繊維です。
ちなみに、「速筋繊維だけ」「遅筋繊維だけ」で構成されている筋肉は少なく、ほとんどの筋肉は速筋繊維と遅筋繊維が混在して筋肉を形成しています。
2)筋肉が成長する時期について
思春期にグンと身長が伸びることがあるでしょう。この身長の伸びは「思春期発育スパート」と呼ばれるいわゆる第二次性徴期で、ホルモンの分泌と関係しています。
そして身長が伸びるとともに、筋肉がつきやすい体へと変化していくのです。
第二次性徴期以降は速筋繊維も発達するようになります。しかしそれより前は、速筋繊維はあまり発達せずに、おもに遅筋繊維を使って体を動かしています。
つまり思春期より前は、遅筋繊維の発達を促すような有酸素運動系の運動が効果的です。
しかし骨がまだ弱いため、同じ動作を繰り返すような有酸素運動では、同じ骨に繰り返し負担がかかってしまい、よくありません。
そこで、さまざまな動作を自然と行う「運動遊び」がとても有効となるのです。そうすることで遅筋繊維だけでなく、神経の発達にもつながってきます。この神経は、5歳までに9割が完成するといわれています。
子どもと一緒に体を動かして遊んでいた際、大人の方が先に力尽きて動けなくなってしまったという経験はないでしょうか。
また、子どもが「疲れた」と言って一緒に休んでいても、子どもの方が先に復活してまた走り回っているといこともあるかもしれません。
これは、大人は速筋繊維を使いながら動いていますが、子どもは遅筋繊維をおもに働かせて動いているからです。
大人からすると「また遊んで! しっかり練習やトレーニングしなきゃダメだ」と思うような運動遊びでも、子どもにとっては立派な練習・トレーニングになっているのです。
遅筋線維を発達させるには
体勢が変わるような遊びをするとよい
それでは、遅筋繊維を発達させるような運動遊びはどんなものがあるでしょうか。
姿勢に関わる筋肉は、遅筋繊維の割合が多くなっています。そのため、体勢が変わるような遊び(マット遊び・アスレチック・親子遊びなど)は、特に小さい頃に効果的です。
また、これらの遊びは肩や股関節にあるインナーマッスルをよく使います。そして、このインナーマッスルも遅筋繊維の割合が多い筋肉です。
小さい頃から運動遊びをしている子は、インナーマッスルも上手に使えることが多いでしょう。
さまざまな動きや体勢を行える運動遊びをしていないと、第二次性徴期の頃に運動が苦手になってしまう子が出てきます。
その理由は、この時期に手足が急激に伸び、これまでと体の感覚が異なってくるため、一時的に運動ができなくなるからです。
小さい頃に運動遊びをしている子はインナーマッスルを使えて神経も発達しているため、すぐに感覚を修正し、長い手足を利用してよりダイナミックな動きを手に入れることができます。
しかし小さい頃に運動遊びをしてこなかった子は、長くなった手足の感覚をなかなか修正できず、苦手意識が強くなって運動から遠ざかってしまうことも。
そのため、小さい頃の運動遊びが大事なのです。
速筋線維を発達させるには
第二次性徴期以降に筋トレを行うのがよい
速筋繊維を刺激する筋力トレーニングは、第二次性徴期以降が有効です。この頃になると、親が持つトレーニングの知識・経験が活きるようになってきます。
ただし新しい理論がどんどん入ってきているため、つねに知識や情報のアップデートが必要です。
指導者としての経験上、小さい頃から運動遊びをしてきている子は、動きの質がまったく違います。そして、教えられたことの飲み込みも早いようです。
ぜひたくさん運動遊びをさせて、将来の運動能力を高める準備をしてあげてください。
[著者プロフィール]
赤堀達也(あかほり・たつや)
1975年生まれ。静岡県出身。小・中・大学生のバスケットボール指導に携わり、小学生と大学生で全国大会に出場し、中学生でも公立校で県上位の成績をあげ、年代を超えて指導実績を残す。最高戦績は全国準優勝。また新体力テストが市の最低水準の小学校で県大会優勝したり、高校時代に無名選手ばかりの大学で創部4年目に東海1部昇格したりするなど、育成に定評がある。現在は小田原短期大学の教員としてこの指導理論を幼児体育に応用し、子どもの体力低下問題の解決に向けて研究活動している。さらに学校における働き方改革の部活動問題にも取り組み、その解決に向け、部活動の外部コーチをする傍ら、クラブを立ち上げ活動もしている。
<Text:赤堀達也/Photo:Getty Images>