インタビュー
2019年9月2日

うまくプレーができない……。そう悩んだときに父親がかけた言葉が分岐点になった。サッカー石川直宏(後編)│子どもの頃こんな習い事してました #24 (3/3)

続けることで新しく見える景色がある

――プロサッカー選手を目指してがんばっている子どもがたくさんいます。ただ厳しい世界ですから夢が叶わない子も多い。それでも続けることに意味はあると思いますか。

サッカーは正解がいっぱいある。その選手が判断したプレーが正解なんだと思うし、試合中はそうした判断、決断が繰り返し求められ、それによって勝ったり負けたりがある。それはサッカーだけでなくスポーツ全般そう。スポーツをしている子はその感覚は持っていると思います。

実を言うと、サッカーをしていて純粋に楽しかったのは小学校のときなんですね。「職業にしたい」とか、実際に職業になってしまうと、楽しさよりも「こうしなきゃ」という義務や責任が出て苦しくなることもある。でも、それも続けているからこそ見える世界。

その先をどんどん求めれば求めるほど新しい景色が見えてくる。僕の場合「次の景色が見たい」という思いが、サッカーを続けるモチベーションになっていました。一生懸命努力しているといいことが待っていたり応援してくれる人が増えたり、そのつながりや感謝によって新たな景色が見え、喜びにつながると思います。

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――親御さんはどう接すればいいでしょうか。熱くなってしまう人も多いと思います。

僕が見てきたなかでは、お父さんよりもお母さんのスイッチが入ってしまうケースが多かったですね。サポートしてあげるのはいいんですけど、「どうしてこれができないの?」と言ってしまうと、子どもにしてみれば「お母さんに言われたくないよ」と思うはず。実際にそういうやりとりをたくさん聞いてきました。

もちろん親御さんとしては「うまくなってほしい、一生懸命やってほしい」という思いはあるんでしょうけど、子どもは縮こまって伸び伸びプレーできなくなってしまう。あまり口出ししないほうが、自分で考えて何が大事かを判断する力がつくと思います。

――引退されて1年半ほど経ちました。これからの展望を教えてください。

選手のときは試合に集中していたので、サッカーを客観的に見ることはあまりなかったのですが、今は試合を開催するために協力してくれているさまざまな人とつながりができ、選手のとき以上に感謝の気持ちを感じています。また、サッカーに興味を持っていなかった人が興味を持つようになった瞬間の驚き、喜びを間近で見ることもあり、改めてサッカーの力、その価値をもっと高めて広めていきたいとも思っています。

僕は小さいころから夢、目標を掲げて真っ直ぐにそこに向かってきました。夢や目標がないとぼんやり過ごしてブレてしまうと思っていたんです。でも、年齢とともにいろんな経験をして、はっきりした目標がなくてもいい、逆にいろいろなところにいける喜び、いろいろなところでつながる楽しさがあるとわかった。サッカーという根本は揺らいでいないけれども、それ以上は自分では方向を決めずに身を委ねていたら、新しい夢、目標がみつかるかもしれないですし。

子どもたちには夢、目標を持ってほしいけれど、ないという子も多いですよね。それは今の僕と一緒。自分はこうだと決めつけずに、いろいろなことにチャレンジしてみて、そこで感じたことを積み重ねていけば自分のやりたいことが見えてくるかもしれない。やりたいことがわからないからじっとしているのではなく、わからないからこそいろいろ経験してみるといいと思います。

[プロフィール]
石川直宏(いしかわ・なおひろ)
1981年5月12日生まれ、神奈川県出身。ポジションはMF。5歳から地元・横須賀市のチーム、横須賀シーガルズでサッカーを始める。横浜マリノスジュニアユース、横浜F・マリノスユースを経て2000年Jリーグデビュー。2003~2004年、アテネオリンピックを目指すU-22日本代表とA代表に選出される。2003年Jリーグ優秀選手賞、フェアプレイ個人賞受賞、2009年にはJリーグベストイレブンを受賞。2017年、引退。現在は16年間在籍したFC東京で、「FC東京クラブコミュニケーター」としてクラブの発展に尽力している。

<取材・撮影協力>
サッカーショップKAMO 渋谷店 https://www.sskamo.co.jp

<Text:安楽由紀子/Edit:丸山美紀(アート・サプライ)/Photo:小島マサヒロ>

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