夢は獣医、飼育員、ゲームクリエイター。ゲームをしすぎてよく怒られました。陸上・柏原竜二(後編)|子どもの頃こんな習い事してました #26 (2/2)
――習い事も含めて相乗効果があるといいですね。
習い事もどれが生きるかわからない。辞めたあとに「役立っているな」と気づくこともある。たとえば、僕は小学生のころはソフトボールが嫌いでしたが、今になってメディアの方と話しているときに「キャッチャーの配球はこうですよね」などとコメントすることがあって、ベースにソフトボールがあるからだと実感するようになりました。
小学生のころは配球がどうかなんてわからなかったけれど、あれから30年という時を経て人生経験を積んで、ソフトボールの経験と結びついて「この選手はこういう思考なのかもしれない」と推察できるようになった。そういうこともあると思います。
――将来、子どもが生まれたら、どんな習い事をさせたいですか。
子どもができたら習わせたいと思っているのは絵。絵は頭にある情報と手の感覚をどれだけうまくすり合わせられるかだと思うんです。そういう能力も何をするにしても必要だと思うし、発想が豊かになると思う。ただ、基本的には子どもが希望したものを習わせたいですね。親が習わせたいことをさせても身にならない。それに「やめたい」と言ったときに、自分から習いたいと始めた習い事なら「自分でやると言ったよね?」と言えるけど、親が強いた習い事だと何も言えなくなるから。親は子どもが習いたいと思ったことをできるように準備をしてあげられればいいかなと思います。
スポーツができなくなっても、別の目標がみつかるように
――陸上での経験は今の仕事に直接結びついていると思いますが、生き方に結びついているところはありますか。
引退後、陸上をベースにできることの幅が広がったと思います。こうして話す仕事を途切れずいただけるのも、陸上を突き詰めた結果。仕事で会社を経営している方、芸能人の方、アナウンサーの方、ライターの方、いろいろな人にお会いする機会が増えて「こういう考え方もあるんだ」と吸収してまた新しい発信につながっている。そういう意味で幅は広がったと思っています。
――小学生のとき、ソフトボールを嫌々やっていたようですが、長距離走という得意分野があると早いうちにわかってよかったですね。
僕の場合はよかったですね。ただスポーツはケガと隣合わせ。得意なことであっても辞めざるをえなくなることも多い。野球でも小中学生でトミー・ジョン手術を受けている子もいるというニュースがありました。スポーツができなくなっても、その後も人生は続きます。ケガをしないことが一番だけど、万が一続けられなくなったとき、ずっと1つのことしかやっていないと目標を失い、ふさぎこんでしまうこともあるかもしれません。他に好きなことや得意なことがあれば、また次の目標ができる。我々大人が子どもたちの視野を広げてあげるといいと思います。
――今後の活動について教えてください。
夏にオタク友だちに誘われてコミックマーケットに出展して、オタクの方から「三が日は両親と一緒に箱根駅伝を見ています」「今日『コミケに行く』と言ったら、お母さんに『柏原の本を買ってきて』と言われました」などと言っていただき、まだまだスポーツとサブカルチャーがつながる可能性がある、自分ができることはもっとある、と思いました。今後も「会社員でそれする?」と思われるような新しい取り組みにチャレンジしていく予定です。
――会社員という枠にとらわれない活動が理想形ということでしょうか。
そうですね。会社員になって3年、いろいろなことをさせてもらいました。最初は社員のひとりとしてやっていこうという気持ちがありましたし、今でも根本のところではそう思っていますが、会社に来るといまだに社員から「今日、柏原いるんだ」と驚かれてしまう(笑)。それならもう「変わったやつ」のままでいたほうが会社のためにも、自分のためにもいいんじゃないかと思うようになりました。
ありがたいことに会社も容認してくれているので、たとえば「水曜どうでしょう」のディレクターさんと一緒にYouTubeに出ても怒られない(YouTubeチャンネル「藤やんうれしーの水曜どうでそうTV」)。むしろ話題のネタになって、新しいイベントの企画などに広がっていく。「箱根駅伝に出ました」というだけではいつまでも続かない。会社での自分の立ち位置や、世の中から見た柏原を客観的に捉えて、自分が得たものをどうやって発信していくか。僕ひとりだけではできないので、メディアやイベントを主催してくださる方とうまくすり合わせていかないとなりませんし、僕自身しゃべること、伝えることのスキルアップをしていかなければなりません。
しゃべることは実は得意じゃないんですよ。子どもの頃はまったくしゃべらなかったし、今も家に帰ったら静か。こうして記事になって「こういうふうに伝わるんだ」「もっと違う言い方をしたほうがよかったかもしれない」とその都度、Twitterなどで反応を見て調整しています。コミケも直接感想がもらえるので勉強になりましたね。驕ったら誰も協力してくれなくなり消えていく。日々精進です。
[プロフィール]
柏原竜二(かしわばら・りゅうじ)
1989年生まれ、福島県出身。東洋大学時代に世界ジュニア陸上競技選手権大会10000m7位、ユニバーシアード10000m8位など日本代表として活躍。箱根駅伝では4年連続5区区間賞、金栗四三杯を3度受賞し「山の神」と呼ばれた。卒業後、富士通陸上競技部で活動し、2017年引退。現在は同社の企業スポーツ推進室に所属し、スポーツ活動の支援など幅広く活動する。
<Text:安楽由紀子/Edit:丸山美紀(アート・サプライ)/Photo:小島マサヒロ>