2020年10月20日

勝ちも負けも楽しむ。娘にも伝えたいスポーツの楽しさ│寺田明日香の「ママ、ときどきアスリート〜for2020〜」#45

 みなさん、こんにちは! 陸上競技の寺田明日香と申します!

 シーズンイン直前に書いた前回コラムからあっという間に時が経ち、コラムを振り返って見ていると、前書きに「暑い!」と書いていて、今は「寒い!」と言いながらトレーニングしてるじゃん、と1人で突っ込んでしまう今日この頃ですが、時が経つのは本当にあっという間なのだなと改めて実感しています。

 あと1ヶ月半ほどで2020年が終わり、2021年がやってきます。何度も言う通り、今年の日本選手権が6月から10月に延期になることも、現時点で未だオリンピックが終わっていないことは、昨年の今頃はまったく想像していませんでした。

 オリンピック代表選考に関わる2021年の日本選手権まであと約7ヶ月。トレーニング日もママ活日の休日も(1日休みはほとんどないけど……!)、大切に過ごしていきます。

 さて、今回は10月1~3日に延期になり、新潟県で行われた「日本陸上競技選手権大会」(以下、日本選手権)に関する振り返りと、今シーズンを通して娘(果緒、6歳)に伝えたいと思ったことを書いていきたいと思います。

 最後までお付き合いのほど、よろしくお願いいたします!

準備期間の過ごし方

 8月末「Athlete Night Games in FUKUI(以下、ANG)@9.98スタジアム(福井県)」が終わってから、9月18〜20日に行われた「全日本実業団対抗陸上競技選手権大会(埼玉県)」までの期間の練習は、合宿期間ではない通常スケジュールの中では、復帰してから一番の追い込み期間だったのではないかなと思います。

 齋藤大輔トレーナーと、高野大樹コーチの息がぴったりで(しっかり連携を取ってくれていました)、平日の2部練習は午前で追い込み、さらに午後も追い込む、という感じでした。もちろん、疲労回復の日も午前午後で上手く練習量を調整してくれていたように思います。

 そんな日々を過ごしていると、練習から帰ってきて家事をする気力もなく寝室に籠ってしまった日が数日。娘と夫には少々申し訳なかったのですが、そういう日はしっかりと休ませてもらいました。

 「ママしながらアスリートするのって大変でしょう?」と、多くの方に言っていただきますが、大切な試合の前や自分の疲労度が高いときは、特段大変度が一気に高まります。

 私の中で、「ピリピリした空気を出したくない母親としての自分」と、「その試合に集中したい自分」が静かに戦っていたり、やらなければいけないアスリート以外の事が溜まっているのにどうしても疲れていてできなかったり……。

 パフォーマンスの調子が悪いと、そこに焦りも加わってナーバスになりがちなので、グラウンドと家での感情のコントロールは、けっこうな難しさです。ただ、それらのことが私を成長させてくれていることは間違いなくて、鼓舞してくれる応援部隊がいつもいるというのもママアスリートとしての特権ではあります。

“日本記録保持者”として日本選手権へ

 そんなこんなを感じながら、チームあすか日本選手権部隊(今回は娘と夫はお留守番)は、新潟へと向かいました。

 新潟に到着したのは試合2日前。日本選手権はレースが2日間にわたるので(私の出場した女子100mハードルは予選・準決勝が大会1日目、決勝が大会2日目に行われました)、2日前に練習を入れ予選前日は完全オフ日にして動きました。遠征時、家から離れると基本的には選手モードだけになります。選手モードに入ると、自分の感覚や調子がはっきりとわかってしまうため、2日前練習で「調子が良い!」と感じられなった私はナーバスモード全開、スタッフはかなり面倒くさかったと思います(笑)。

 ただ、日本選手権で走る以上は自分の状態がどうであろうと懸命に戦わなくてはなりません。それは一緒に走る選手たちに対してもそうだし、自分に対してもそうなのです。

 そして今年の日本選手権の目標は「きんめだる」、優勝でした。優勝という目標は復帰1年目の昨年と同じですが、昨年の結果は娘が言うところの「どんめだる(銅メダル)」。

 昨年は前年度の持ちタイムもないので完全なるチャレンジャー、今年は“日本記録保持者”として、勝つだろう、と思われていた中での日本選手権でした。今考えると、そういった事も含めて、自分自身に期待をかけ過ぎてしまったところがあったのかなと思ってしまいますが、結果は「ぎんめだる」、2位でした。

スポーツが生み出す大切なこと

 陸上選手として復帰してから約2年、娘も4歳から6歳となり、理解できることが増えてきて、「悔しい」という気持ちもわかるようになりました。

 私が1位で走れなかったとき、娘はポロポロと涙を見せることがありました。今回もきっと泣いちゃうだろうなぁと思い(夫に聞くとやはり「悔しそうに泣いていた」そうです)、選手としての私も「悔しい」と思っていましたが、一方で母親としての私は、勝ち負けを経験する中での「悔しい」をはっきりと感じられるスポーツの素晴らしさと、勝ち負けにこだわらないスポーツの楽しさを伝えなければいけないと感じました。

 トップ選手として結果を求められるのはごく当たり前のことですが、私には母親という多くの選手が持っていない側面があるので、スポーツでつながる人脈だったり、スポーツによって触れる地方や他国の文化だったり、目標のために毎日さまざまな事を頑張る大切さだったりをわかってもらうことが重要なのだと思いました。

 来年のオリンピックは、娘だけではなく多くの方々にスポーツが持つさまざまな側面を経験してもらえたらと切に願っています。

 そして、来年の日本選手権は、「きんめだる」を目指します!

[プロフィール]
寺田明日香(てらだ・あすか)
1990年1月14日生まれ。北海道札幌市出身。血液型はO型。ディズニーとカリカリ梅が好き。会いたい人は、大谷翔平と星野源。小学校4年生から陸上競技を始め、小学校5・6年時ともに全国小学生陸上100mで2位。高校1年から本格的にハードルを始め、2005~2007年にはインターハイ女子100mハードルで史上初の3連覇。3年時には100m、4×100mリレーと合わせて同じく史上初となる3冠を達成。2008年、社会人1年目で初出場の日本選手権女子100mハードルで優勝。以降3連覇を果たす。2009年世界陸上ベルリン大会出場、アジア選手権では銀メダルを獲得。同年記録した13秒05は同年の世界ジュニアランク1位だった。2010年にはアジア大会で5位に入賞するが、相次ぐケガ・病気で2013年に現役を引退。翌年から早稲田大学人間科学部に入学。その後、結婚・出産を経て女性アスリートの先駆者となるべく、「ママアスリート」として、2016年夏に「7人制ラグビー」に競技転向する形で現役復帰した。同年12月の日本ラグビー協会によるトライアウトに合格。2017年1月からは日本代表練習生として活動した。2018年12月にラグビー選手としての引退と陸上競技への復帰を表明。2019年シーズンから競技会に出場し、6月に日本選手権女子100mハードルで9年ぶりの表彰台となる3位に入り、7月には100mでも自己記録を更新。8月には19年前に金沢イボンヌ氏が記録していた日本記録13秒00に並ぶと、9月1日に「富士北麓ワールドトライアル2019」で史上初めて13秒の壁を突破し、12秒97の日本新記録を樹立。カタール・ドーハで開催された「世界陸上」に出場。再び陸上競技選手として、2020年東京オリンピックを目指す。

◎所属企業:株式会社パソナグループ

◎主な記録:100mハードル日本記録保持者(12秒97)/100mハードルU20日本記録保持者(13秒05=2009年世界ジュニアランキング1位)/100mハードル日本高校歴代2位(13秒39)/100m:11秒63

【今後の主なスケジュール】
●2020世界室内選手権
2021年3月19日(金)~21日(日)会場:中国・南京
https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1416/

【関連URL】

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<Text & Photo:寺田明日香/レースPhoto:編集部/Edit:松田政紀(アート・サプライ)>