2018年4月16日

二刀流が教えてくれた、野球の醍醐味┃連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#10

 アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。

 今回は、今シーズンから海を渡り、大きな飛躍を遂げている23歳の話題。彼の活躍ぶりと、自身の経験を照らし合わせて、野球の醍醐味について考えてみることに。

あなたならどっちを選ぶ? 野球の魅力について考えた

 すごい活躍ですね、大谷翔平選手。

 そこそこはやるだろうとは思っておりましたが、ここまでとは! ピッチャーとしては初先発からの2連勝、バッターとしては3連続試合ホームラン。このまま小説に書いたら、「うまくいき過ぎ。リアリティがない」と編集者に却下されるんじゃないかな。その上、数多のメジャーリーガーに勝るとも劣らないあの体格、整った正統派のあのルックス、でき過ぎです。初ホームランでサイレント・トリートメントを受けた時のとまどう様子もキュートでした。

 正直なところ、ピッチャーに絞ってやるのかと思っておりました。日本人のバッターなら、イチローをはじめとする技巧派の方が通用しやすいというか、スラッガータイプはむずかしそうと決めつけていたからです。前例ばかりに囚われる、つまんない自分を反省しました。

 子どもの頃の私はもっと自由でした。父の影響で野球が好きになって、少年野球のチームに入っていた時期もあります。阪急ブレーブスの山田久志投手の大ファンでした。あの美しいアンダースローのフォームに憧れていました。背番号は大谷選手と同じ「17」でした。

 今なら、「女の子のチームはないのか。男子に混じっても、大したことはできないな」と諦めちゃうところです。でも、小学生の私は水島新司の『野球狂の詩』を読んで、すっかりその気になり、少年野球のチームを探したのでした。女の子でも何か工夫をすれば男子から三振がいっぱい取れるんじゃないかと考えたのですね。

 まあ、現実はそんなに甘くなく、やっと途中から出してもらった練習試合ではライト8番という役回りでした。あの頃のライト8番は「戦力ではありません」という意味だったはず。ライパチとかなんとか呼ばれてね。ちょっと気持ちが腐りました。大谷選手が指名打者で出場する時の打順はたいてい8番だと、あの頃の私に教えてあげたいです。彼は、今7番にあがりましたけどね。

 『野球狂の詩』の水原勇気のように次々とバッターを仕留める予定だったのに……。用具だけではなくユニフォームまで買ってもらったけれど、すぐに辞めちゃいました。なんてことを思い出したのは、大谷選手の活躍を見て、バッターとピッチャー、それぞれの醍醐味を改めて考えてみたからです。

 読者の皆様に質問! もし仮にプロ野球の選手になったとしたら、あなたはバッターとピッチャー、どちらをやってみたいですか?

 私はやっぱりピッチャーでしょうか。投手が活躍するのは守りの回だけれど、実は守りという攻めをしていると思うのです。一人対九人の攻めというか。私なら、豪速球で三振を奪うというより、変化球で打者の裏をかくようなピッチングが好きです。なんといっても、私の野球の原点は「山田久志」ですから。身体能力だけではなく、技術と頭をフル稼働して打ち取る、そういうピッチャーを私は体験してみたい。

 とはいえ、バッターも捨てがたい。私は、テニスを長くやっておりましたが、どうやら「引っ叩く」のは向いているみたいなのです。向き不向きは別としても、球にジャストミートした快感は、いろんなストレスを吹き飛ばしてくれそうだし。塁に出てからの盗塁ってやつも、野球ならではの醍醐味といえます。自分がもしバッターなら、憧れるのはスラッガーよりイチロータイプです。

 う〜ん、どっちもおもしろそう&やりがいがありそう。どうせ妄想なら、この際、大谷選手のように二刀流にしてみようかしらん。

 そして、もう一つ、私が妄想体験してみたいのがキャッチャー。野球チームにはもちろん監督がいるわけですが、キャッチャーってグランド上での監督的要素がありますよね。場面によっては、将棋指しのようなところもあるし。野村克也監督が現役の頃、バッターが嫌がる世間話をブツブツとしてバッターボックスへの集中力を散らしたそうですが、私そういうのも上手くやる自信ありますよ。

 野球って、個人競技であり団体競技であるところがおもしろい。

 日米のプロ野球が開幕して、序盤戦にはこんな妄想も楽しい時期。私は横浜DeNAベイスターズを応援しています。生まれも育ちも神奈川県なもので。4月16日現在、首位!! 果たして秋口には、泣いているか笑っているか、大谷選手のさらなる活躍とともに楽しみです。

[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。『甘糟りり子の「鎌倉暮らしの鎌倉ごはん」』(ヒトサラマガジン)も連載中。

<Text:甘糟りり子/Photo:Getty Images>