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2018年7月26日

痛みを意識して描いている。たぶん漫画家の中で一番殴られてるんじゃないかな。板垣恵介『グラップラー刃牙』(後編)│熱血!スポーツ漫画制作秘話 #4 (2/4)

強さの追求は動物に留まらずッッ!

― 比較対象が凄まじすぎる気もしますが(笑)。幻覚といえば、刃牙で話題になった「リアルシャドー」についておうかがいしたいのですが。

最初に言っておくと、さっきの幻覚体験と「リアルシャドー」はぜんぜん関係なくて、俺がアマチュアボクシングで全日本選手権に出たとき、試合前に会場の隅で選手がみんなシャドーをやっているんだけど。何連覇かしていた青森の小田切っていう選手だけが、ほかと違うシャドーをしている。ほかの選手は、鮮やかなコンビネーションとかをやっているわけじゃない。

なのにその選手はパンチが出るまでスゴク慎重で丁寧なんだ。こんな地味なシャドーでアップになるのかというくらいで。だけど試合が始まったら、あいつだけシャドーと実戦の動きが同じだったんだよ! あいつだけはシャドーのときに、目の前にいたんだろうね、強敵が。

それと中学のときの美術の先生が、親戚の子の腕に「熱い!」って言いながら熱してない火箸をくっつけたら、その子の腕に水泡ができたという話を思い出したんだ。それにパントマイムの要素などが合わさって醸成されてできたのがリアルシャドーなんだよ。これは漫画的にすごくおいしいし、売りになるなと。

― シャドーで体が傷つくだけでもすごいのに、さらには巨大化したカマキリとも戦いましたからね(笑)。

当時やらせたかったんだ(笑)。カマキリとかクワガタが人間の大きさだったらヤバイぞと思って。だってカマキリを捕まえたときのあのすごい力とかね。あの細い体のどこにそんなパワーが。クワガタの顎もね。もう戦闘マシーンですよ、あいつらは。クワガタの力があれば、象も持ち上げられるよ!

― あのシリーズ(範馬刃牙)のときはもう1つ、「蜚蠊(ゴキブリ)ダッシュ」も話題になりました。

あれは目覚めに潰れたゴキブリの夢を見たんだよ。潰れて白い体液にまみれたやつ。イヤな夢見たなぁと思いつつも頭は冴えてて、ふと液体化するところまで脱力すれば初速からトップスピードを出せるんじゃないか……? ゴキブリを師匠として「よろしくお願いします」みたいに頭を下げたらオモシロい。何やってんだバキ? と口コミにもなるぞというところまでイメージできたんだよ。

▲蜚蠊(ゴキブリ)タックル炸裂シーン

― そんな夢を見たあとに、そこまでいろいろ思いつく人はなかなかいないと思います(笑)。

もともとゴキブリが、いきなりトップスピードを出せる、という知識はあったんだよ。それでそこまでの速度を出すためには、どこまで脱力しなきゃいけないんだというのは折に触れ考えていたんだよ。武術でもスポーツでも脱力って大事じゃない。そんなことをずいぶん考えていたから、寝ている間に頭の中で勝手にやってくれていたんだと思う。

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