インタビュー
2018年7月20日

漫画家になってカッコ良く成り上がりたかった。本物の格闘技漫画でね。板垣恵介『グラップラー刃牙』(前編)│熱血!スポーツ漫画制作秘話 #4 (1/4)

 スポーツ漫画の作者にご登場いただき、名シーンが生まれた舞台裏や、あのキャラクターが作られたきっかけなど、制作秘話をお訊きする「熱血!スポーツ漫画制作秘話」。

 第4回は『グラップラー刃牙』からスタートした格闘技漫画のレジェンド、板垣恵介先生が登場。会社員から自衛隊へ、そして漫画家への転身。自身の経験を踏まえ、リアルな格闘漫画を描き続ける板垣恵介先生の野望ともとれる欲望は、男のロマンにあったのです。また個性豊かなキャラクターたちと、現役格闘家たちにリアルと言わしめる描写はどう生み出されたのかをうかがいました。

強さに憧れてッッ!

― 板垣先生は少年時代、どのような子どもだったのでしょうか?

絵を描くのは小さい頃からすごく好きだったよ。父親の仕事が製紙工場だったので、家にはいつもザラ紙が1000枚単位であったから、いっつも描いていたよ。子どもの頃は体を動かすのも好きじゃなかったし、足もそんなに速くないし、家でいつも絵を描いているインドアな子だったよ。当時から漫画も読んでいて、好きだったのは梶原一騎さんのデビュー作、『チャンピオン太*1』。ほかにも格闘系の漫画が好きだったな。

― 身体を動かすのは好きじゃなかったのに、格闘技系の漫画に興味があったんですね。

俺には5歳離れた兄がいるんだけど、子どもの頃は体力も頭脳も差があってまったく逆らえない。家の中でヒエラルキーは一番下で、下手すりゃおやつも奪われちゃう(笑)。それが悔しくて、強くなりたい、偉くなりたい、重んじられるような何かになりたいという気持ちを持つようになったんだろうな。俺は力道山や大鵬、ファイティング原田をリアルタイムで見ていた世代だから、自然に彼らに憧れていたんだ。

― 強くなりたいという純粋な思いが板垣少年を突き動かす原動力だったわけですね。

高校時代に少林寺拳法を始めたのも、強くなりたいから。ゼロから始めたからすごく上達していったし、実際に高校時代は学校の体力測定でも校内で一番だった。何をやっても俺がいちばん強かったね。それを卒業と同時に辞めて就職するんだけど、なんかもったいないじゃない。それで夜走ったり自分で鍛えたりはしていたんだよ。

― せっかく強くなったのに、ここで何もしなくなるのはもったいないと(笑)。

それで、仕事の昼休みに他のみんなは昼寝しているところで腕立て伏せしていたんだよ。そしたら先輩から「そんな暇あったら商品の名前でも覚えろ!」って言われてさ。「みんな寝てるじゃねーかよ! なんでそんな事言われなきゃいけないんだよ」と思ってさ。

― 寝ている人は何も言われないのに。

それが悔しくて納得がいかないくて、昼休みに腕立てして褒められる場所に行こうと思って、自衛隊に入隊したんだよ。やっぱりエネルギーもあり余っていたし、自衛隊なら出世できるなとも思ったし。

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