痛みを意識して描いている。たぶん漫画家の中で一番殴られてるんじゃないかな。板垣恵介『グラップラー刃牙』(後編)│熱血!スポーツ漫画制作秘話 #4 (3/4)
強さを追い求めてッッ!
― 刃牙シリーズには実在の人物をモデルにしたキャラクターも多く登場し、最強とは何かという答えを求めて戦いを繰り広げていますが、現実の格闘技界で先生が今注目されている格闘家を挙げていただけますでしょか?
ここ何年かで言ったら、ボクシングの山中慎介。あの左一本のスタイルで、相手の倒れ方がすごかった、死んじゃうんじゃないかっていうくらいすごかった。そのあとに(井上)尚弥と村田(諒太)が出てきたよね。海外ではゲンナジー・ゴロフキンとワシル・ロマチェンコ。
総合は最近目にする機会が減っちゃったんだけど、コナー・マクレガーはオモシロい。フロイド・メイウェザー・ジュニアとやって100億だよ。すごいよ。もうやらないよ、ほかの試合(笑)。メイウェザーもこのあと総合でリマッチはやらないでしょ。3分も持たない。クリンチするまで。あとはぐちゃぐちゃ。軽量の堀口でも勝てるよ。
― 確かにようやく堀口選手たちがでてきてくれましたけど、日本では総合は一時期かなり下火になってしまいましたからね。昔は魅力的な選手が多かったですが。
ボブ・サップとか出てきたとき、おもしろかったよね。フィジカルが強いのに、素敵なことにハートが弱いじゃない(笑)。ミルコ(ミルコ・クロコップ)のパンチを食らった後のあの心の折れ方とか最高だよ! 眼窩底骨折なんか、ボクシングの4回戦の選手でも経験する。それでも終わってから気付くくらいのもので、あそこまで大げさに痛がってわかりやすく心が折れるっていうのはね。お前ファイトマネーいくらもらってんだよって話だよ(笑)。
― たしかに、4回戦の選手の何百倍ももらってそうですもんね。
あとブロック・レスナーね。あいつもUFCでボディ食らったらすぐ腰引けちゃってさ。ヒョードルとかはそんなことなかったよ。180cmくらいしかなかったのに、人殺したことあるんじゃないかっていう表情でパウンドしてさ。あれは怖かったなー。ミルコとやったときも、スタンドでどんどん前に出てきてさ、ミルコが後ずさりするくらいの圧力かけて。俺も才能があったらああいう風に生きたいよ(笑)。
― 先生は今だに、強さに対しての憧れがあるんですね。
もちろんあるよ! 今も。もし実現できるっていうんだったら、お金の力で解決できるんだったら、地上の人間で俺が最強だと思える、そんな気持ちを味わって楽しんでみたいもん。KID(山本“KID”徳郁)が強かったとき、試合が終わって控え室に戻る通路で仲間に「やっぱ俺強ぇぇ!」って言いながら歩いてるの、いいなーって思ってたもん。俺もやってみたいよ(笑)。
― 先生の60歳を過ぎて、そのエネルギーというか向上心というか、まだぜんぜん枯れてない感じがすごくいいです。
小さい頃から強くなりたい、成り上がりたいという向上心をもって生きてきて、思っていたよりもずいぶん上がれた。あとは何が大切かというその価値観の問題になるけど、俺はまだまだもっと売れたいし稼ぎたいし、モテはやされたいし。まだまだ渇きはあるし、いまの若い作家さんよりも俺も方が貪欲だなと思う。
実際、俺の年齢で一線で現役やっているって絶滅危惧種になってて、今の立場は相当おいしいんだよ(笑)。この年齢でやれるのか!? っていう前例のないことをやれるかもしれないチャンスがいま来ている。そこで勝負できたら絶対に褒められる。そんなことばかり考えながらやってますよ。