軽量で吸水性が高く、即乾性。UVカットもできる「スポーツ手ぬぐい」って? (2/3)
新しさと伝統の間で巻き起こる葛藤
アウトドアやスポーツ分野へのアプローチを考えた森野さん。とはいえ、ただ単純に従来の手ぬぐいを同分野へ打ち出したのではありません。手ぬぐいの持つ本来の機能を踏まえ、利用者のニーズに対して新たな手ぬぐいのカタチを考えたそうです。
「手ぬぐいは優れた機能を持ちますが、そのままアウトドアやスポーツシーンで需要を広げられるとは思っていません。やはり、ニーズに沿った変化が求められます。たとえば通常の手ぬぐいは綿100%ですが、「スポーツ手ぬぐい」には素材としてバンブーレーヨンを含みました。これは抗菌作用を持ち、汗を拭き、かつ清潔感を保つうえで大きなメリットを発揮します」
ニーズに応じて、より求められる製品を。そのために、従来の手ぬぐいとは一線を画す工夫がたくさん盛り込まれています。しかし工夫を重ねる中でも、手ぬぐいを愛すればこその葛藤がありました。
「とはいえ、何でも変えればいいというわけではありません。たとえば手ぬぐいの端はきりっぱなしになっていますが、なぜかご存知でしょうか? 実は、水の乾きを早くするためなんです。しかし今のユーザーが、端のほつれたものを使うかどうか。いくら機能性が高くても、新規ユーザーにはなかなか受け入れられないでしょう。このきりっぱなしは、残すべきかどうか非常に悩みました。結果的には端を縫い、ほつれのない製品となっています。いいところは残しつつ、変えるべきところを変える。この判断は、製品を完成させるうえでとても難しかったですね」
しかし端のほつれをなくすため、生地を重ねて縫えば厚みができ、そこに汗が溜まって匂いの原因になります。とはいえ、いわゆる“かがり縫い”では、ほつれた糸が縫い糸の間から出てきてしまう。そうなれば、糸がでないほどの密度で縫うしかありません。この縫い方もまた特殊であり、なんとか対応できる工場を見つけて実現したのだそうです。
「そのほか、吸水性にもこだわりました。通常の柔軟剤を使うと、仕上がりも柔らかいままで使い心地はいいものの、油がベースなので水を弾いてしまうんです。そのため、『スポーツ手ぬぐい』では“吸水柔軟加工”を行っています。椿油が給水を邪魔しないことを知り、これを使って吸水を妨げない柔軟加工を実現しました」
協力工場と取り組み、ab・soft(アブソフト)加工という吸水柔軟加工を開発したのです。
どうすれば、もっと新たなニーズに応えられる製品になるのか。しかも前提として、“手ぬぐい”という従来の伝統を保つことも求められます。森野さんによれば、「モノとしてどうするのがベストなのか?」と常に試行錯誤を重ね、これがもっとも製品完成までの難しいポイントだったのだといいます。