2018年12月26日

「ポーランド戦」と「大坂なおみ優勝」から考えた、2018年スポーツシーンのこと│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#22 (2/2)

セリーナの主張も重く受け止めていい

 もう1つは、9月8日にニューヨークのフラッシング・メドウ・コロナ・パークで行われた「大坂なおみ対セリーナ・ウイリアムズ戦」です。大坂なおみが見事、日本人で初めてのグランドスラムを獲った試合ですが、ここでも大きなブーイングが起こりました。

 試合は勢いのある大坂が押し気味でした。格下相手に思うようにいかないセリーナは試合途中、キレてラケットを叩きつけます。審判から警告を受けるものの、うまく軌道修正できない彼女は、再びものすごい勢いでラケットを叩きつけました。ラケットは無残な形に壊れ、今度は警告では済まずにポイントを取られてしまいます。

 ますます気が収まらなくなったセリーナは、執拗に審判に抗議をします。抗議というより、なじったといわれても仕方がないほどの悪態でした。挙句に、大会関係者がコートに出てきて、ポイントどころか罰則として1ゲームを取られ、あっけなく大坂が勝ったのでした。

 そんな経緯があったせいで、優勝セレモニーでは観客から大ブーイング。大坂は優勝スピーチで「私が勝って申し訳ない。みんなが誰を応援していたかは知っている」と涙ながらに語り、とても優勝をした(それも初めて!)選手には見えませんでした。見ているこちらも胸が痛くなりました。やっと正気を取り戻したセリーナが会場を諌めたほどです。

 こうやって書き出してみると、単にセリーナが感情のコントロールができなくなっただけ、と思われるかもしれません。確かに、彼女はこれまでも度々試合中にキレて問題を起こしています。線審に「ぶっ殺す!」的な暴言を履いて反則負けになったこともありました。テニスの反則負けなんて、この時以外見たことないです。

 しかし、大坂戦に関しての彼女の「ラケットを叩きつけたのが男子選手だったらこんなペナルティを受けていない」という主張を、もうちょっと重く受け止めてもいいのではないかと私は思います。錦織圭だってノバク・ジョコビッチだって、時々ラケットを放り投げたり叩きつけたりしています。もちろんそれ自体は非難されなくてはいけない行為ですが、女子選手に対して「より厳しく警告をしている」と思われないようにする義務が審判にはあるはずです。

 この大会では、フランスの女子選手が試合中にウエアの前後ろを間違えて着ていることに気がつき、コートでそれを直したら、規則違反に当たると警告されています。男子選手はベンチで上半身裸になって着替えるのは当たり前なのに。これが性差別になるのではと物議をかもしたばかりでした。審判側や大会側は、女子選手により行儀の良さを求めていないという意思を見せるべきではないでしょうか。

 勝ち負けというはっきりした結末のあるスポーツを通して、いろいろなこと考えた一年でした。来年はどんな試合を見られるのでしょうか。

[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。『甘糟りり子の「鎌倉暮らしの鎌倉ごはん」』(ヒトサラマガジン)も連載中。河出書房新社より新著『鎌倉の家』が刊行。

<Text:甘糟りり子/Photo:Getty Images>

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