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2017年9月22日

「近所に金メダリストが引っ越して来たら……」。小林まこと先生が語る『JJM 女子柔道部物語』が生まれた奇跡(後編)│熱血!スポーツ漫画制作秘話 #1 (3/3)

そこまで大げさじゃないし、あくまでもこの作品は娯楽作品なので(笑)。俺が言ってるのは漫画のおもしろさの真実だったり、人生の教訓っていう部分ですかね? あの頃は、柔道が活気があった時代。バルセロナは小川(直也)、吉田(秀彦)、古賀(稔彦)、そして何と言っても女子の田村亮子。大スターだよね、田村は。でも田村はバルセロナもアトランタも金メダルが取れなかった。アトランタで女子で初めて金メダルを取ったのは、田村じゃなくて、この人、恵本だったんです。

--アトランタの金メダルと言えば、野村忠宏さんも当時は同じように田村じゃなくて……の人でしたよね。

野村はそのあともメダルを取り続けてTVにも出て、サービス精神旺盛だけど、恵本さんはその辺ゼロだから(笑)。表舞台から姿を消して、俺すら忘れてたんですから。ただ、アトランタで女子の金メダリストは恵本一人というのは純然たる事実なんですよ。なんで田村ではなく恵本だったのかというところが、この作品を通して見えてくる気がしています。

--なので、タイトルに“柔道部物語”という単語は入っているものの、前作の続編ではなく、全く新しい別の作品という認識ですよね。

そうですね。前作は高校卒業で終わってますけど、今回はその先まで描かれますし。社会人編にいってからまたおもしろくなるんじゃないかと思います。どういう大会があって、どうやって代表に選考されるのかとか、実業団というかプロというか、その辺の話は知らない人が多いですよね。世界選手権の代表じゃなくて、そこに紙一重で選ばれなかった2番手3番手の人のドラマとかはすごいと思うんですよ。その後の人生がそれですごく違ってくるんですから。そういう部分も描いていけたらいいよね。

柔道が起こした奇跡

--引退されたはずなのに、かつてないほどの熱量が必要な作品を手がけてしまっているように思えます。

でもこの作品に関しては、本当に俺はなにも努力してないからね(笑)。近所に金メダリストが引っ越してきて、そんな手付かずのお宝が目の前にあったら、それを育てるのは使命ですよ。それにすごくうまくできてるなって思うのが、引退直前に初めて原作のある作品(『瞼の母』)を描いたんですよ。それまで編集から直せって言われても直したことがない俺が、原作の長谷川伸の考えに共感して描いて……。結果的にその経験が今回の作品作りに活かせてるんですよね。恵本さんの思いに沿って、一緒に仕事してるんだもん。それがおもしろくてしょうがないよね。

--そのめぐり合わせもすべては『柔道部物語』から始まっているかと思いますが、小林先生にとって柔道とはどのようなものでしょうか?

俺にとっては「奇跡の出会い」ですね。自分が漫画家になったということより、柔道部に入ったことのほうが奇跡だと思ってますし(笑)。でもこの出会いがなかったらと思うと、ゾッとしますよ。柔道部に入ったからこういう作風、嘘を描けない漫画家になったし、柔道をやらないで漫画ばかり描いてたら、現実味のない漫画家になっていたかもしれない。そして『柔道部物語』のような作品を描くこともきっとなかったろうし、そうしたら今回のような出会いも当然なかったですし。いま柔道だけは悔いが山ほど残ってるんですよ。恵本さんたちの話を聞いていると余計羨ましくなって、できもしないこともああやってこうしてって、妄想じゃないけど考えるようになりましたよ(笑)。いい歳してそういう気持ちにさせてくれるのも、やっぱり柔道なんですよね。

[撮影協力]
講談社 ヤングマガジン編集部・イブニング編集部
©小林まこと/講談社

[作品紹介]
『柔道部物語』(全11巻)
高校に入学したばかりで何も知らない三五十五(さんご・じゅうご)は、先輩たちの甘い言葉に乗せられて柔道部に入部。ところが、入部したとたん先輩たちの態度が豹変。シゴキはあるわ、坊主頭にさせられるわ、もちろん女の子との交流会なんて真っ赤なウソ。でも、一度やると決めた柔道だ。強くなってみせるぞ――!! 読み出したら止まらない!! 珠玉の本格柔道コメディ。

『JJM 女子柔道部物語』(1〜2巻。『イブニング』にて好評連載中)
『柔道部物語』から25年、小林まことが再び“本格柔道漫画”を描く! 原作はアトランタオリンピック女子柔道61kg級で、日本女子柔道界に初めての金メダルをもたらした恵本裕子!! 雪の旭川を舞台に、白帯の女子高生が世界の頂点を目指す!

・講談社コミックプラス
http://kc.kodansha.co.jp/

[プロフィール]
小林まこと(こばやし・まこと)
1958年生まれ。1978年、「週刊少年マガジン」から『格闘三兄弟』でデビュー。その後すぐに『1・2の三四郎』の連載を開始し、第5回講談社漫画賞少年部門を23歳で受賞。その後、「モーニング」に連載した『ホワッツマイケル』が社会現象となり大ヒット、第10回講談社漫画賞一般部門を受賞する。また、「ヤングマガジン」で連載した『柔道部物語』は全国の柔道部員のバイブルになった。その他『I am マッコイ』『1・2の三四郎2』『へば! ハローちゃん』『ちちょんまんち』『格闘探偵団』『青春少年マガジン1978~1983』『瞼の母』など、著作多数。2016年8月、「イブニング」17号より『JJM女子柔道部物語』連載開始

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<Text:関口裕一+アート・サプライ/Photo:有坂政晴(STUH)>

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