寺田明日香「10年ぶりの世界陸上は図太く行きます」。日本新記録樹立の要因は“3つの改善”[特別インタビュー] (2/3)
「6月の日本選手権後、踏み切りの位置がほかの選手とほぼ同じ位置だとわかりました。自分の強みは足の速さなので、それを全面に活かしてみようと思い、ほかの選手よりも早い位置で踏み切り、次へ走り出せるように調整したんです。2か月間ハードルを越える感覚を身体に染み込ませるために、ハードルから遠い位置で踏み切る練習をしました。初めは慣れなくて違和感がありましたね」
ハードルから遠い位置で踏み切るのは、自分の今までの感覚を変えなくてはいけないのでたやすくはありません。それでも自分の強みを最大限に活かそうと跳ぶ位置の調整をしたといいます。
そして、3つめは“集中”の仕方を変えたこと。日本選手権では、無理に集中しようと思っていたといいます。集中することに力が入りすぎて身体が固くなってしまったとも。
「第一次陸上選手時代のときからずっと、レースのときは周りが見えないように“頑張って”集中していたんですけど、そこまでしなくてもいいんじゃないかなと考えるようになりました。“自然体”のほうが今の私にはいいんじゃないかと。だから、無理やり高い集中を作るのはやめました」
「前までは、昔の自分にとらわれがちだったけど、結婚や出産、ラグビーを経た“今”の自分は、考え方も身体の使い方も昔の自分とは違うと切り替えることにしたんです」
身体も経験値も昔とは違う今の状態にあった集中の仕方をすればいいんだと気づいたそうです。たしかに今回のレース直前の寺田選手は、表情がやわらかく感じました。
「集中に入るのは、『On Your Marks. Set』とコールされてからです。そのときも極度に集中するというより、走っているときに周りと自分の動きも考えられているぐらい、いい集中をしています」
寺田選手が持つ“自然体”の魅力。妻となり母となって得た精神的な強さをレースにも出せるようになったことが勝因なのかもしれません。
心強い「一緒に走ってくれる人たち」の存在
日本新記録を更新したあとは、SNSにもコメントがたくさん寄せられ、ファンをはじめとする応援してくれる方々からの温かい祝福の声がうれしかったといいます。
でもやっぱり日本新記録後に一番大きな反応をくれたのは夫の峻一さんと愛娘の果緒ちゃんです。
「世界陸上に向けて、夫にはいろいろ支えてもらっています。夫が一番はりきっている気がしますね……(笑)。娘の果緒は、テレビに映った自分を見て、『果緒だー!』と喜んでいましたね。しかもレース直後には周りに対して『私のママだよ』と誇らしげにしていましたが、家へ帰るといつも通りの扱いになってました(笑)」
すぐそばで応援し続けてくれる家族の微笑ましいエピソード。そしてもうひとり、寺田選手を指導する高野大樹コーチからも「“とりあえず”、おめでとう! スタートやハードリングに関しては日本選手権から比べるとスムーズになったけど、まだまだ課題はある。とにかく足をもっと速くしなきゃね(笑)」と、寺田選手の成長を喜びつつもその先を彼女と一緒に目指すコーチならではの愛のこもった言葉が贈られたそうです。同じ方向を向いて一緒に進んでいることを感じた印象的な言葉でした。
「陸上復帰前後から支え続けてくれている“チームあすか”のメンバーたちも、とくに舞い上がっている様子もなく、彼らからも『おめでとうございます』だけでした(笑)」
彼らはもうすでにタイムを縮めるためにどうすればいいのかを考えているのだといいます。2020年を見据えるメンバーの言葉は寺田選手にとって心強いものに違いありません。
ファンやチームあすかのメンバーを始めとする、“一緒に走ってくれる人”が増えたという今、第一次陸上選手時代の自分へアドバイスをするとしたら、どんなことを伝えたいか訊いてみました。