インタビュー
2017年6月13日

100kmで感じるのは過酷さ? 楽しさ? 世界4位のウルトラマラソンランナー能城秀雄が走り続ける理由

 近年、国内でも大会数が増えつつあるウルトラマラソン。42.195kmを超えるマラソン大会の総称ですが、特に多いのが100kmマラソンです。私もよくウルトラマラソンを走っていますが、一般の方から見れば「どうしてそんなに走れるの?」と疑問さえ湧くかもしれません。

 そんな過酷とも言えるウルトラマラソン。だからこそ、ウルトラマラソンランナーの“走ること”への情熱や思いは、人一倍の強さがあるのではないでしょうか。今回は100kmマラソンの2014 年世界選手権で第4位という実績を持つ、能城秀雄さんにお話を伺いました。なぜウルトラランナーとなり、どんな思いで走り続けているのか。一般ランナーにとっても役立つヒントやトレーニング方法などについても聞いていますので、ぜひ参考にしてみてください。

能城さんがウルトラマラソンランナーになるまで

 能城さんはもともと、大学で陸上競技部に所属していました。フルマラソンを主としてトレーニングを重ねており、当時の記録は2時間27分。大学卒後は大学院に進学しましたが、そこでウルトラマラソンとの出会いが訪れます。

「部活動の監督がウルトラマラソンの大会に出場していたんです。その監督から勧められて、2000年に初めてサロマ湖100kmウルトラマラソンに出場。正直に言って、本当は出たくありませんでした。しかし実際に走ってみると、その開放感に魅了されたんです」

 初めてのウルトラマラソンは、沿道で応援する方々に手を振りながら走ったという能城さん。その際、初の100kmにも関わらず、7時間15分というタイムで6位に入賞したと言います。

「入賞できたことは、とてもうれしかったですね。でも、そこですぐに100kmへ転向しようとは思いませんでした。一番のキッカケは、翌年に出場した2回目のサロマ湖。ここで日本代表に選ばれ、100kmという競技で世界に挑戦するようになったんです」

 2回目の出場で日本代表。まさに監督の勧めが大きな転機となり、能城さんの才能が開花した瞬間ではないでしょうか。その後、ワールドチャンピオンシップが開催された2002年大会を除いて、サロマ湖100kmウルトラマラソンはすべて出場されているとのこと。2003年には台湾で行われた世界大会で6位という成績をおさめ、世界で戦えるという実感を胸に、ウルトラマラソンランナーとして本気で取り組むようになったそうです。

トレーニングに打ち込める環境

 そんな能城さんは住友不動産エスフォルタ社に所属。同社は平成28年度に東京都スポーツ推進企業として認定されており、所属するアスリート社員の活動を強くバックアップしています。
これに対して能城さんは、住友不動産グループ初のPR大使に任命されるなど、その実績を活かし会社へ貢献されているとのこと。企業とアスリートとが、互いに支え合う素晴らしい形といえるのではないでしょうか。能城さんは葛飾区総合スポーツセンターにおいて副館長業務を務め、定期的に講師として『マラソン教室』を開催しています。

 そうした会社側のバックアップに恵まれ、現在は柔軟にトレーニングの時間も確保できているとのこと。ほぼ毎日走っているという能城さんは、最近、トレイルランニングにも挑戦しているようです。

「ウェイトトレーニングで鍛えられるアウターの筋肉ではなく、インナーマッスルを鍛えるためトレイルランニングに挑戦しています。同時に山を走ることには、筋持久力の向上も期待できると思っているんです」

 その他、千葉県にある東京大学検見川総合運動場や稲毛海浜公園、青葉の森など、目的に応じてさまざまな場所でのトレーニングを実践されている能城さん。その意気込みについて、「今までの自分を超える走りを手に入れ、優勝争いに絡みたい」と力強く語ってくれました。

 100kmに出場する選手は、その年齢層が少しずつ下がってきたとのこと。しかし、そうした若手ランナーの追随を危機とは捉えておらず、実直に自らの走りと向き合って競技に取り組んでいるようです。

ウルトラマラソンの楽しさと挑戦者へのメッセージ

 最後に、これからウルトラマラソンへ挑戦を考えている方々に向けて、能城さんからメッセージをいただきました。

「ウルトラマラソンはフルマラソンと比べ、ゆっくりしたペースでも走りきることができます。給水所に寄ったり、仲間と話しながら走ったり、あるいは景色を眺めながらでも良いんです。完走までのプロセスを考えるのも、ウルトラマラソンの楽しみではないでしょうか」

 もちろん、いきなり100kmに挑戦するのは難しいでしょう。そのため、まずはフルマラソンから始め、次に60kmなど段階を踏んでいくのがオススメのようです。具体的なトレーニングとしては、まず14時間という長時間、何かしら動き続けてみること。そしてゆっくりとしたペースで長く走り、ペースコントロール力を磨くが、ウルトラマラソン攻略に有効だと言います。さらにウルトラマラソンでは、トレーニング以外にも必要な準備があるようです。

「ウルトラマラソンは運動時間が長く、天候変化も読めません。だからこそ、ウェアやシューズをはじめとした準備は入念に行うことが大切です。また、飲み物やサプリメントを摂取する場合には、必ずトレーニングの段階から試しておきましょう。自分に合わないものを本番でいきなり使用すると、むしろマイナスになりかねません。そして、ぜひ取り組んで頂きたいのがセルフケア。私が講師を務めるマラソン教室でも重視してお伝えしていますが、脚へのダメージを取り除くことで、高いパフォーマンスを発揮できるようにしてください。怪我の予防にもなりますし、セルフケアが難しければプロの治療を受けるのもオススメです」

 具体的なセルフケアとしては、足裏マッサージやストレッチポール、ストレッチマット、筋膜リリースなどを挙げられていました。いつも走ってシャワーを浴びて終わり……という方は、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。

 世界を目指して走り続ける能城さん。今後は競技者としてのみならず、ウルトラマラソンの魅力をより広く知ってもらうため、後継者や指導者の育成にも取り組んでいきたいと語ってくれました。今年のサロマ湖ウルトラマラソンは、まもなく6月25日(日)に開催。能城さんがどのような走りを見せてくれるのか、ぜひご注目ください。

[プロフィール]
能城秀雄(のうじょう・ひでお)
1976年生、千葉県出身。住友不動産エスフォルタ所属、住友不動産グループPR大使。葛飾区総合スポーツセンターで副館長を務めるほか、「マラソン教室」で講師を担当。過去、日本代表として100 ㎞ウルトラマラソン世界大会に6回出場。2014年カタール大会で日本最高位の個人 4 位。100 ㎞(400mトラック)アジア記録保持者。100km自己ベストは6時間35分52秒(2012年 サロマ湖)

[筆者プロフィール]
三河賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表
【HP】http://www.run-writer.com

<Text&Photo:三河賢文>