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「女性は長距離ランニングに向いている」。膨大な市民ランナーのデータから分かったこと

 アメリカ・テネシー州で恒例のウルトラマラソンレース「BIG'S BACKYARD ULTRA(ビックスバックヤードウルトラ)」が2020年10月17日、開催されました。今年で10回目となったこのレースは、数あるウルトラマラソンの中でもユニークな形式で知られています。

ウルトラマラソン「BIG'S BACKYARD ULTRA」のルール

 ランナーは一斉にスタートし、6.7kmの周回コースを1時間以内に1周しなくていけません。残りの時間は休みをとり、ちょうど1時間後に2周目がスタート。このサイクルを繰り返し、1時間以内に1周できなくなった時点でそのランナーは失格となります。そして、最後まで残ったランナーが優勝者になるのです。

 1時間に6.7kmというのは、普通の市民ランナーでもゆっくりとしたジョギングペースで走れる距離でしょう。しかし、それを睡眠も取らずに数日間に渡って繰り返すとなると、話はまったく別の次元になります。

大会は2年連続で女性ランナーが総合優勝

 新型コロナウイルス感染拡大の影響により、今年はアメリカ国内ランナーのみが現地コースに集合。他国のランナーはバーチャルで参加するという形になりました。アメリカ部門で優勝したのが、コートニー・ダウルターさんという35歳の女性ランナーです。彼女はこのコースを68周走り抜き、合計距離は288.33マイル(456km)の大会レコード・タイ記録で総合優勝を果たしました。これは「女子の部」での優勝や記録ではありません。もともと、この大会には表彰者に男女の区別はないのです。ちなみに昨年の優勝者は、マギー・グテルルさんという女性ランナーでした。

 
 
 
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 ダウルターさんは、2017年にも「Moab240MileEnduranceRun(モアブ240マイルエンデュランスラン)」というレースで2位の男性に約10時間の大差をつけて優勝しています。このレースの公式距離は238マイル(約383km)で、数あるウルトラマラソンのレースの中でも最長の部類に入るものです。

 ウルトラマラソンは、男女が同じ条件で競技を行う数少ないスポーツです。近年になって、ダウルターさんのような女性ランナーが男性を抑えて優勝する事例が増えてきました。

距離が長くなれば長くなるほど男女間のタイム差が小さくなる

 女性より男性の方が身体的に強い。このことが、今までは何の疑問もなく信じられてきました。ところが、少なくとも耐久力に関してはそうではないのかもしれません。ウルトラマラソンのデータ分析で有名なサイト『RunRepeat.com』が、それを裏づけるとても興味深い調査結果を発表しています。(*1)

 記事によると、走る距離が長くなれば長くなるほど、男女間のタイム差が小さくなるのだそうです。過去23年間に行われた15000以上のレース結果を分析した結果、5kmレースでは男性が女性より17.9%も速いのですが、フルマラソン(42.196km)レースになるとその差は11.1%に縮まります。100マイル(160km)レースでは男女間の差はわずか0.25%。そして195マイル(約314km)以上のレースでは、女性の方が0.6%だけ男性より速くなるのだとか。

 つまり、ダウルターさんのようなトップアスリートだけに限ったことではなく、超長距離を走るレースでは男女の差はほとんどなくなる、あるいは女性の方が優位に立つ傾向が、膨大な市民ランナーのデータからも読み取れるということです。

女性はペースを維持する能力に優れている

 体力的には劣るはずの女性が、超長距離レースでは男性を凌駕する。その理由として、女性の方が体内に貯蔵する脂肪の量が多く、一方で筋肉量が少ないため、長時間の運動をする際にエネルギーを効率的に使用できるのだとする説があります。2007年から2009年にかけてのシカゴ・マラソンのレース結果を分析した研究(*2)では、女性の方が男性よりカロリーを消費するペースが遅く、特に気温が高い状態でペースを維持することに生理学的に有利だと結論づけています。

 さらにはスポーツ心理学的なアプローチから、女性は男性より長時間を一定のペースを保って運動することに適していると結論づけた研究も。そのうちのひとつ、2011年にアメリカで行われた14のマラソンレース結果を分析した研究(*3)では、レースを前半と後半に分け、それらのタイム増減を男女ごとに比較しました。すると、男性は平均してレース後半にペースを15.6%落とすのに比べ、女性のそれは11.7%に留まったそうです。

 また、別の心理学研究(*4)では、男性は女性に比べると走る前に予想タイムを実力以上に見積もる傾向があり(つまり自惚れが強い?)、さらには長時間を一定のペースを保って運動することに耐えられない(つまり飽きっぽい?)ので、レース前半を飛ばしすぎて後半に大失速する男性ランナーが多いとの結論を述べています。

男女ともにレース後半は失速するが、女性は落ち幅が少ない

 前述の『RunRepeat.com』が発表した最新の記事(*5)では、男性も女性もレース後半に失速する人の割合はほぼ92%で変わりはないものの、男性の落ち幅は平均して女性より大きいことを指摘。逆にレース後半の方が速くなる、いわゆる「ネガティブ・スプリット」を実践しているランナーは男女とも7%程度しかいませんが、この場合は男性の方がタイムを大幅に短縮しているのだそうです。

 つまり純粋にデータから見ても、女性は男性よりイーブンペースを守ることに長けており、その特性は距離が長いほど効力を発揮すると思われます。

「男女ごとに分けて順位をつける」がなくなる日も近い?

 近年、ウルトラマラソンの人気は世界的に高まってきています。日本国内でも「サロマ湖100kmウルトラマラソン」や「チャレンジ富士五湖ウルトラマラソン」をはじめ、海外でも知られた有名なレースが数多く開催されています。ウルトラマラソンの参加ランナー数では、まだ女性より男性の方が圧倒的に多いのが現状です。しかし今後は、ますます女性ランナーが増えていくでしょう。男女間の記録差も縮まっていき、あるいは逆転することもあるかもしれません。

 そもそも、ウルトラマラソンで男女ごとに分けて順位をつけることさえ、無意味になる日もさほど遠くはないかもしれないのです。

こちらもおすすめ:超長距離を走る“ウルトラランナー”の興味深い心理。なぜ走る?モチベーションは?

参考文献:
*1.TheStateofUltraRunning2020.
https://runrepeat.com/state-of-ultra-running

*2.Effectsofheatstressandsexonpacinginmarathonrunners.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24149746/

*3.Menaremorelikelythanwomentoslowinthemarathon.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24983344/

*4.Genderdifferencesinmarathonpacingandperformanceprediction.
https://content.iospress.com/articles/journal-of-sports-analytics/jsa0008

*5.WomenAreBetterRunnersThanMen[2020Analysis].
https://runrepeat.com/women-are-better-runners-than-men-2020

[筆者プロフィール]
角谷剛(かくたに・ごう)
アメリカ・カリフォルニア在住。IT関連の会社員生活を25年送った後、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。米国公認ストレングス・コンディショニング・スペシャリスト(CSCS)、CrossFit Level 1 公認トレーナーの資格を持つほか、現在はカリフォルニア州アーバイン市TVT高校でクロスカントリー部監督を務める。また、カリフォルニア州コンコルディア大学にて、コーチング及びスポーツ経営学の修士を取得している。著書に『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』(デザインエッグ社)がある。
【公式Facebook】https://www.facebook.com/WriterKakutani

<Text:角谷剛/Photo: Getty Images>

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