2021年1月15日

友人のコロナ感染、そしてオリンピックのゆくえ│連載「甘糟りり子のカサノバ日記」#58

 アラフォーでランニングを始めてフルマラソン完走の経験を持ち、ゴルフ、テニス、ヨガ、筋トレまで嗜む、大のスポーツ好きにして“雑食系”を自負する作家の甘糟りり子さんによる本連載。

 2度目の緊急事態宣言が発令されるなか、議論が続く東京オリンピック・パラリンピック開催の是非。ごく親しい友人の陽性が判明したという甘糟さんが問いかけます。

今夏、コロナがすっかり過去のものになっているとは思えない

 1年と1ヶ月ほど前、2019年の暮れですが、この連載の取材で新国立競技場の内覧会に行きました。あの時は誰もはまさかこんな事態になるとは思っていませんでしたよね。もっともっと昔のことというか、あの日のあの場所がもはやどこか遠い別の世界のことのような気がします。

 果たして、こんな世の中になった今、2021年の夏にオリンピックはできるのだろうか。前よりも切実にそれを考えるようになったのは、年明け早々、友人がコロナに感染していたことがわかってからです。

 友人は発熱はなかったのですが、味覚と嗅覚がなくなって自主的にキットを手に入れて検査したところ、陽性だったそうです。友人とはサニーサイドアップの次原悦子さん。Twitterで検査からの一部始終を公表しています。賛否両論あるようですが、上場企業の経営者の立場で勇気ある行動だと私は思います。

 いつもエネルギーに満ちて元気な彼女ですが、若者ではありません。心配性の私はネガティブなことばかり考えてしまいました。それまでも知り合いが感染した情報がありましたが、近しい人では感染者はおりませんでした。まあ、今になって思うのは、感染しても黙っている選択をした人もいたかもしれない。そろそろ近い人にも感染者が出そうだなあと思っていたところ、いきなり仲の良い友人で驚きました。

 この日からニュースが違って聞こえました。東京の陽性者数が発表されると、このうちの1人が彼女なんだなあなんて思ったりして。コロナはすぐ隣まで来ていると痛感しました。悦子さんはもちろん感染対策はきちんとしていたし、定期的に抗原検査は受けていました。いつ誰がかかってもおかしくない。

 陽性判明はお正月、緊急事態宣言の前のことです。私は12月18日に彼女とお茶を飲んで、おしゃべりをしました。濃厚接触者には当たりませんが、念のため人と会う予定は全てキャンセルして、鎌倉の総合病院でのPCR検査をネットで予約しました。もちろん自費です。22,000円は正直高いなあというのが実感。続いて同居する母の予約をしようとしたら、アドレスの関係で手間取ってしまい、もう数日後しか空いていませんでした。

 悦子さんは軽症のため、まずは自宅で自主隔離でした。保険所と話した結果がこちらに送られてくると、発症した日程から彼女から私への感染の可能性はないとのことでした。その時点で私にも母にも何の症状もありません。迷いましたが、病院に電話をしてキャンセルしました。総合病院での検査の機会はもっと差し迫った人のためにあるべきだと思いましたし、病院に行くのも怖いからです。そして、もちろん2人で44,000円という値段もプレッシャーでした。

 悦子さんは途中からホテルでの療養に切り替わり、先日、無事完治して自宅に戻りました。私は、LINEで励ますぐらいしかできませんでしたけれど、一安心です。一連の様子をTwitterでつぶやいていたので、のぞいてみてください。ホテルでの様子はなかなかリアルで、万が一自分が感染した際には知っておきたいことがいろいろありました。

 芸能人やスポーツ選手の感染の報道が相次いでいます。緊急事態宣言は2月7日以降も続くのではないでしょうか。このような状況で政治家がオリンピックは必ずやると宣言してしまうのは怖いです。

 選手や選手候補の方たちはどう思っているのか、聞いてみたい。怖いとか本音はいいにくいでしょうけれども。とはいえ、選手と一括りにしてしまうのはよくないかもしれません。怖いと感じる人もいれば、怖さより勝負をしたい気持ちが強い人がいるのは当たり前です。

 私は、今年の夏、コロナがすっかり過去のものになっているとは思えない。そして、夏に開催するには春にはもう具体的な準備が必要です。あっという間に春は来るでしょう。世界各国ではまだロックダウンが相次いでいます。夏に日本へ選手を派遣できない国も出てくるでしょう。そんな状況で開催されたとして、それは「オリンピック・パラリンピック」と呼んでいいものなのだろうか。

 再延期という選択はないのでしょうか。

 オリンピック・パラリンピックより大切なのは命であり、暮らしです。

[プロフィール]
甘糟りり子(あまかす・りりこ)
神奈川県生まれ、鎌倉在住。作家。ファッション誌、女性誌、週刊誌などで執筆。アラフォーでランニングを始め、フルマラソンも完走するなど、大のスポーツ好きで、他にもゴルフ、テニス、ヨガなどを嗜む。『産む、産まない、産めない』『産まなくても、産めなくても』『エストロゲン』『逢えない夜を、数えてみても』のほか、ロンドンマラソンへのチャレンジを綴った『42歳の42.195km ―ロードトゥロンドン』(幻冬舎※のちに『マラソン・ウーマン』として文庫化)など、著書多数。GQ JAPANで小説『空と海のあわいに』も連載中。近著に『鎌倉の家』(河出書房新社)『産まなくても、産めなくても』文庫版(講談社)

《新刊のお知らせ》

幼少期から鎌倉で育ち、今なお住み続ける甘糟りり子さんが、愛し、慈しみ、ともに過ごしてきたともいえる、鎌倉の珠玉の美味を語るエッセイ集『鎌倉だから、おいしい。』(集英社)が発売中。

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<Text:甘糟りり子/Photo:Getty Images>