自己愛性パーソナリティ症の人にしてはいけないこと[心療内科医監修] (1/2)
一緒にいるとなぜか自分ばかりが悪者にされているような気がする。気を使って褒めても事実を伝えても、関係がこじれてしまう。
身近にそんな人がいると困ってしまいますよね。その背景には、自己愛性パーソナリティ症が関係していることがあります。
良かれと思って取った対応が裏目に出て、激しい怒りを買ってしまうことも少なくありません。では、具体的にどんな対応を避けるべきなのでしょうか。してはいけない対応や、振り回されずに自分を守るための接し方を順番に見ていきましょう。
監修は、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科出雲いいじまクリニック 院長の飯島慶郎先生です。
「パーソナリティ症」とは?
自己愛性パーソナリティ症の話に入る前に、「パーソナリティ症」という言葉そのものを押さえておきましょう。
▶先に自己愛性パーソナリティ症の人にしてはいけないことを読む
多くの病気には、始まりと終わりがあります。
風邪は治ります。うつ病も症状が現れて治療を受け、回復するという経過をたどります。病気は本人の「一部」であり、本人とは別のものとして治療の対象になります。
パーソナリティ症は、そこが違います。
一時的な症状ではなく「持続する傾向」
パーソナリティとは、ものの見方や感じ方、人との関わり方に表れるその人らしい一貫した傾向のことです。
この傾向が一般的な基準と比べて大きく偏り、青年期から長く続いていて本人や周囲(あるいはその双方)が深く困っている。こうした状態を、パーソナリティ症と呼びます。
問題の中心は一時的な症状ではなく、長年培われた「人との関わり方や受け止め方のパターン」にあるのです。
本人にとっては「いつもの自分」
このため、パーソナリティ症には他の病気と異なる特徴があります。第一の特徴は本人にとっては「いつもの自分」であるため、病気だという実感を持ちにくい点です。困っているのは周囲だけで、本人は自覚していない場面も少なくありません。
第二の特徴は、パーソナリティの傾向そのものを直接変える特効薬がない点です。生活習慣の工夫や心理療法を通じて、長い時間をかけて向き合っていく取り組みになります。
「人格障害」から「パーソナリティ症」へ
この状態は、かつて「人格障害」と呼ばれていました。しかし「人格」という日本語には、その人の値打ちや道徳性を丸ごと指す響きがあります。
「人格に障害がある」と言われると、人としての価値そのものに欠陥があるかのように受け止められかねません。そのため2000年代に入りまず英語表記を用いた「パーソナリティ障害」へと呼称が改められました。

さらに日本精神神経学会の指針を受け、米国精神医学会の診断マニュアル(DSM-5-TR)日本語版が2023年に刊行された際、「障害」という訳語が正式に「症」へと改められました。
一方、WHOの国際疾病分類(ICD-11)では、パーソナリティ症を個別の種類に分ける方式そのものを見直しました。そのため、ICD-11には「自己愛性」という独立した診断名は存在しません。この状態をどう位置づけるかについては、専門家の間でも現在進行形で議論が続いています。
それでも精神医学の臨床では、パーソナリティの特定の偏りを捉える枠組みとして、今なお重要な意味を持っています。
ではその代表例とされる自己愛性パーソナリティ症とは、具体的にどのような状態を指すのでしょうか。
自己愛性パーソナリティ症とは
「自分は特別な存在」という感覚の持続
自己愛性パーソナリティ症とは人との関わり方や自己認識に特定の偏りが続く状態です。「自分は特別な存在だ」という誇大な感覚や、過剰な称賛を求める気持ち、他者への共感の乏しさが長期間にわたって持続します。
特徴としては、たとえば以下などが挙げられます。
- 自分の重要性を実際以上に評価する
- 限りない成功や賞賛への空想にとらわれる
- 特別扱いされて当然だと感じる
- 他者への共感が乏しい など
精神医学の診断基準(DSM-5)では、定められた9つの特徴のうち5つ以上が長期間にわたって見られることが条件とされています。
日常の言動の断片が少し当てはまる程度では、この診断には至りません。診断できるのは専門家だけです。身近な人の言動だけを見て安易にラベルを貼らないようにしましょう。
「ナルキッソス」が病名になるまで
自己愛は、英語でナルシシズム(narcissism)といいます。その語源となったのは、ギリシャ神話の美青年ナルキッソスです。
古代ローマの詩人オウィディウスが伝える物語では彼が生まれたとき、予言者は「もし己を知ることがなければ」長く生きるだろうと告げました。
ナルキッソスは言い寄る者をことごとく退け、やがて泉に映った自分の姿に恋をして、そこから離れられずに命を落とします。自分に見とれることと、自分を知ることは、別のことだった。二千年前の物語は、そう伝えています。

この名が医学の言葉になったのは19世紀の終わりです。フロイトは自己愛を、誰もが通る正常な発達の段階として位置づけました。
「自己愛性パーソナリティ障害」という病名を初めて用いたのは、1968年の精神分析家ハインツ・コフート。米国の診断基準に正式に採用されたのは1980年のことです。精神医学の歴史の中では、比較的新しい病名だといえます。
原因と治療
では、なぜ自己愛性パーソナリティ症になってしまうのか。
実は、はっきりとした単一の原因は特定されていません。遺伝的な要因に加えて養育環境が影響している可能性を指摘する説もあります。ただ、いずれも仮説の域を出ていません。
特定の育て方だけが原因だと決めつけられるものではなく、育て方や環境のせいだと単純に結びつけて考えないようにしましょう。
治療には、精神分析的な精神療法や、考え方のクセに働きかける心理療法などが用いられます。
冒頭で述べたとおりパーソナリティそのものを直接治す薬はありません。うつや強い不安が併存している場合には、それらの症状を和らげる目的で薬が処方されることがあります。
ただし、変化が起こるには本人の自覚が要ります。本人が「自分に問題があるかもしれない」と気づき、自ら助けを求めない限り、変化は起こりにくいとされています。
人間関係や仕事でのつまずきをきっかけに本人が向き合い始めるケースもあります。周囲がどれだけ働きかけても、本人の意思がなければ治療は始まらないという点は、知っておきたいポイントです。
自己愛性パーソナリティ症の特徴的な言動
身近に自己愛性パーソナリティ症の傾向がある人がいる場合、日頃のコミュニケーションの中で特有の言動に戸惑うことがあります。具体的にはどのような話し方や態度が見られやすいのでしょうか。
日常に現れやすい話し方の傾向
次のような話し方の傾向が見られることがあります。
- 自分の実績や能力を、実際以上に語る
- 「普通の人とは違う」など、自分を特別視する言い回し
- 「〜して当然だ」など、相手に一方的な対応を求める言い方
- うまくいかないことを、他人や状況のせいにする
こうした言動は、自分の価値を大きく見せ、傷つきやすい自尊心を守ろうとする心の働きから生じやすいと考えられています。
ただしこれらの言い回しは誰にでも見られることがあり、言動の断片だけで診断や決めつけができるものではありません。あくまで参考として捉えることが大切です。
歴史上の人物像を心理学者が分析
「あの歴史上の独裁者は自己愛性パーソナリティ症だったのでは」という話を、耳にしたことがあるかもしれません。その強烈な言動の記録から、心理学者が人物像の分析を試みた例は実際に存在します。
第二次世界大戦中、アメリカの情報機関OSS(CIAの前身)は、心理学者らにヒトラーの人物分析を依頼しました。心理学者ヘンリー・A・マレーは、侮辱や傷つきに強く反応する「対抗的自己愛」という概念でヒトラーを分析し、敗戦時には自殺する可能性も予測していました。
戦後には、精神分析家エーリッヒ・フロムが、ヒトラーやスターリンらを例に挙げながら「悪性の自己愛」という概念を提唱。その後、攻撃性などを伴う極端な自己愛を説明する概念として発展していきました。

湾岸危機のころには、アメリカの精神科医・政治心理学者ジェロルド・ポストが、サダム・フセインの心理的プロフィールを作成し、米議会でも報告しています。ポストはサダムについて「悪性の自己愛」という概念を用いて論じています。
ただし、これらはいずれも本人を直接診察したうえでの診断ではありません。言動や経歴、資料などから人物像を推測した「分析」であり、医学的な診断とは区別する必要があります。
外から見える言動の断片だけで当てはめられない
アメリカ精神医学会(APA)には、精神科医が直接診察しておらず、適切な許可も得ていない公人について、専門家として精神状態などの見解を公表することを倫理上不適切とする「ゴールドウォーター・ルール」があります。
きっかけは1964年の米大統領選でした。メディア誌が1万人を超える精神科医に共和党候補バリー・ゴールドウォーター氏の「大統領としての心理的適性」を尋ね、その回答を掲載。ゴールドウォーター氏が名誉毀損で提訴し、出版社側の責任が認められました。その後、APAは1973年にこの問題を踏まえた倫理規定を導入しました。
日常の話し方の傾向も歴史に記録された強烈な言動も、すべて外から観察できる一面にすぎません。歴史上の人物であれ身近な人であれ、外から見える言動の断片だけで診断名を当てはめることはできません。
この境界線は、私たちが常に心に留めておきたい大切な原則です。
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