インタビュー
2018年7月23日

情けが通用しない山で手に入れた覚悟。“冒険家弁護士”福永活也さんが語る登山(後編) (1/3)

 弁護士として史上初の“7大陸最高峰の登頂”を目指す、“冒険家弁護士”の福永活也さん。七大陸最高峰のうち6つを制覇し、残りは北米大陸最高峰デナリのみ。そんな福永さんは弁護士業務以外にもレストランやモデル事務所、人狼ゲーム店舗などの経営、TV出演、「JAPAN MENSA」会員……など活躍の幅は多方面に渡っています。後編では福永さんに登山が仕事と生き方にどんな影響を与えているのかを伺いました。

死を覚悟しつつ「しゃあない」精神で登山する

――福永さんが思う「山の魅力」とは?

情けが通用しないところです。自己完結、自己責任という覚悟を絶対に持たなくてはいけないところが自分を内から高ぶらせてくれますし、「自分自身を含めてあらゆる環境・状況をすべて受け入れ、そこからどうしたらいいのか考えて動く」のが魅力だと思います。今僕らが生きている“人間が支配する世界”では情けが通じる。たとえば、会社だったら、風邪をひいていたら多分、早退しても許してくれるし、マラソンでも途中で怪我をして歩けませんとなっても簡単に棄権できる。

でも山では、体調が悪くなったからといって「100mまけてください」とは絶対に通じない、8000m以上で歩けませんとなったら、本当に死にかねない。体重70㎏ある僕を運んで誰かが下山するなんて不可能ですし、ヘリでの救出も不可能。本当に、その場で酸素切れで死んでしまうか、少なくとも重度の凍傷は覚悟しなければいけない。だから山に入るときは「絶対に自分でやりきる!何かあったら死ぬんだ」という覚悟を持っていないといけない。人間が支配する世界ではなく、自然が支配する世界では、情けが通用しない。そこが僕にとってはおもしろいところです。

――福永さんって、もしかして辛いことが好きなんですか(笑)?

昔から恐怖や客観的なストレスを自分に与えて、そこから気持ちを落ち着かせていくという過程を楽しんでいるような子だったので、緊張状態が解かれて冷静になっていく感覚や、そのように自分の感情を自己コントロールできているという感覚に一種のエクスタシーを感じるところはあるかもしれません。

▲エベレストからの眺め

――冷静さを持つことは、自然と向き合うときに大切な要素ですね。他にも、登山で大切なスピリットがあるとすれば?

「しゃあない(仕方ない)」精神ですかね。たとえば、僕はエベレストで喉や肺を痛めて気管支炎のような状態で咳をし続けていたり、亜鉛欠乏症で食事がうまく食べにくくなったりしてしまったのですが、それも想定の範囲内だったので全く焦りませんでした。エベレストに挑戦しているんだから、それぐらい「しゃあない」と。登山って、いかに想定の範囲を広げるかが重要なんですよ。自然なんか自分の思い通りにならないことだらけなんだから、いろんなことを想定しておいてそれに対処できるようにしておく。対処できないことは我慢する。たいていのことは我慢でなんとかなるんです。どんなことでも驚かず、そういうこともあるわな「しゃあない」と思ってしまう。覚悟の範囲を広げることができれば、起こる出来事がその中に納まっている限り、何も動揺することはなくなります。

これは山に限った話ではなく、地上での普段の生活でも同じだと思います。暑い時に「暑い!」って騒いでいる人がいるけど、「暑いものはしゃあないやん」と思うしかないんですよ。物事をそのまま受け入れるということは、山だけでなく、日常生活においても、それこそビジネスにおいても、大切なことだと思います。

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