ポジティブ=メンタルが強いではない!ビジネスにも活きる“本番に強いメンタル”の作り方(前編) (2/2)
緊張がパフォーマンスの低下に直結してしまう人は、「緊張する=失敗する」と捉えてしまっている場合が多いので、緊張を無理に打ち消そうとしてしまう傾向が強いんです。けれどそれで実際に打ち消せる割合は、たった3~10%と言われています。
――そんなに低いんですか!?
そうなんです。「緊張=悪いこと」と思い込んでしまっていると、「こんな自分じゃダメだ!リラックスしよう!」と考え始めますよね。人間の脳は「緊張する」という感情の指令と同時に「こうでなきゃダメだ」という思考の指令が一度に出せてしまうんです。この感情と思考が一致しない状態がストレス状態です。そうすると、脳にストレスを貯めたまま行動(プレー)しないといけなくなる。これがパフォーマンスを大きく下げる原因になるんです。身体は脳からの指令で動くので、コントローラーが故障しているような状態ですね。そうなると普段できることができない、ということが起こってしまいます。
――なるほど……。いつもできていることが本番で急にできなくなってしまう現象が起きるのにはそういった要因があったんですね。
ですからまず大事なのは、自分の感情としっかり向き合うことなんです。ネガティブな感情も受け入れて、緊張を打ち消そうとするのではなくあえて緊張したままの状態でプレーすることで「何だ、緊張していてもできるじゃん」という経験値を積むことができます。この「緊張したまま行動する」というトレーニングを積み重ねることで、徐々に緊張した状態でもいつも通りの力を発揮することができるようになります。
――その経験を積むのに一番効果的な場はやはり実戦ですよね?誰しも緊張するような大舞台で普段通りにプレーできればまさにその「緊張していてもできる」という確信が持てると思いますし、それ以降は「緊張=ネガティブな感情」ではなくなる気がします。実戦経験を重ねる以外にはどのような強化方法がありますか?
本番で最も感じたくない感情は何かというのをチェックしてもらうようにしています。ネガティブな感情の中にも、「緊張して焦りたくない」とか、「ミスしてイライラしたり恥ずかしい思いをしたくない」とか、いろいろな種類の感情がありますよね。例えば、恥ずかしい思いをしたくないという選手には、事前準備としては恥ずかしい経験をたくさんしてもらいます。競技と関係なくても大丈夫です。例えば、今気になっている人を食事に誘ってみるとかですね。恥ずかしいという感情がある中で、食事に誘うという行動をするんです。
――そうか。「どんな感情を持っていても行動を起こせる」のがメンタルの強い選手でしたもんね。
そうです。恥ずかしいという感情を持っている中でも食事に誘うという具体的な行動を起こせるようにするわけです。そうした経験値を積み重ねていくことで、自分の中から湧き出てくる“恥ずかしい”という感情を押し殺さず、むしろ上手に付き合えるようになります。これを繰り返すことで、自分の感情から逃げずにきちんと向き合えるメンタルができ上がっていくんです。
――試合で恥ずかしい思いをしたくないと思うなら、その恥ずかしいという感情から逃げてはいけないのですね。
嫌な感情から逃げないというのはすごく大事です。以前担当したビジネスマンの方で、プレゼンが上手くなりたいという人がいました。「いつも緊張してしまって言いたいことがうまく伝えられない」と。その人がいつも本番に向けてどういう心の準備をしていたかというと、「不安になりたくないから直前までプレゼンのことは考えないようにしていた」と言うんですね。気持ちは分かりますが、そうすると不安を持ったまま行動するという経験値を全くつけないまま本番を迎えることになってしまうので、それではなかなか上手くいきません。先ほど話した、不安という感情を感じているのに不安を考えないようにしようという思考が働き、ストレス状態に陥ってしまう状態でした。
よくお風呂の温度で例えるのですが、普段40℃のお湯に入っている人が1週間後に45℃のお湯に入らなければならないとしましょう。その場合、前日まで40℃のお湯に入っていたら、当日いきなり45℃のお湯に入るのは難しいですよね。けれど40℃から1度ずつ追い炊きして慣らしていけば、当日45℃のお湯に入れると思うんです。本番に向けて段階的に準備をしていくという点では、身体の準備と全く同じなんです。
――例えプレッシャーのかかる試合が待ち受けていたとしても、そこから目を背けたまま本番を迎えると大変なことになるんですね。
スポーツ選手でもプレッシャーが嫌だと感じている選手たちは「まだ試合は先なので」とプレッシャーを避けるような発言をする傾向が強いと思います。それとは対照的に、私が担当したラグビーのニュージーランドや南アフリカの代表の大舞台で活躍してきた選手たちは「今回の試合はすごくプレッシャーが掛かっている」「とてもナーバスになっているよ」と平気で口にしていました。一見プレッシャーに弱そうな発言にも聞こえますが、実際には試合の何日も前から自分の感情ときちんと向き合い続けていて、当日にはしっかりと試合のプレッシャーを受け入れる準備がされていました。自分の感情をしっかりと直視しているからこそ出る言葉でした。
後編:トラブル時の感情も準備しておく!ビジネスにも活きる“本番に強いメンタル”の作り方(後編)】
清水利生(しみず・としき)
1985年7月17日生まれ、山梨県出身。強豪・山梨県立韮崎高校サッカー部出身の元プロフットサル選手。現役時代はフウガドールすみだ、デウソン神戸(Fリーグ)でプレー。自身がOKラインメンタルトレーニングを受けていたことをきっかけに、引退後メンタルトレーナーに転身。現在は株式会社43Lab代表取締役として、さまざまなトップアスリートのメンタルトレーナーを務めている
【公式サイト】https://www.recollect.co.jp/
<Text:福田悠/Photo:@kazuend>