インタビュー
2017年6月27日

運動を始めて変わった人との向き合い方。ネットやゲーム三昧からアスリートになった投資家・小野裕史(後編)

 運動ゼロからマラソンを始めて砂漠マラソンでチーム世界一を獲得し、今度はエンデュランス馬術競技に挑戦している小野裕史さん。その競技背景、そしてトップビジネスマンとして感じる“運動することで得られたもの”について、前回お話を伺いました。後編となる今回は競技から視点を変え、“人生”におけるスポーツの影響について掘り下げます。

運動によってマインドが変化し、人との新たな繋がりが生まれた

−−テレビゲームをキッカケにマラソンを始めたとのことですが、運動を始める前は、どのような生活だったのでしょうか?

とにかくインドアが大好きで、ネットやゲーム三昧でしたね。仕事もインターネット関連ですし、「起きている間は、ひたすらモニターの前にいたい」なんていう生活でした。ちなみに、ジャンクフードも大好物でしたよ。

−−今からは想像できませんね。そこから運動が習慣化したことで、日々の過ごし方や思考などに変化はありましたか?

どれだけ限られた時間の中でも、「どうやって運動するための時間を生み出すか」と考えるようになりました。そして目標に近づくためには、どのような食生活にすべきか。新たなゴールができたことで「できるかできないか」ではなく、「どうやったらできるか」という考え方に変わりましたね。つまり、ゴールに近づくための方法論ありきで考えるマインドが習慣になったんです。

−−そういた変化の中で、小野さんの人生そのものには、どのような影響が及んできたのでしょうか?

何より運動を始めたことで、劇的に人との縁が広まりましたね。実はもともと人見知りですし、たくさんの人と会うのは苦手な方なんですよ。しかしランニングも乗馬も、これまでまったく接点のなかった人とたくさん繋がりました。さらにそれが楽しくなって、もっと活動を広げて、またどんどん縁が芽生えていくんですよ。

以前、『ビールを1杯いただければ、どこへでもお話しに行きます』という勝手なプロジェクトを行いました。その際は23都道府県を回ったんですが、どの都道府県で飲んでも友達に会えるんですよ。これって、とても幸せなことですよね。

また、仲間と一緒に『Iomare martillo』というトライアスロンチームを作ったんですが、そこでも新しい人との縁が広がり続けています。実は砂漠マラソンで世界一になった際のチームメンバーも、このチームの仲間なんです。

《関連記事》
・運動経験ゼロだった投資家・小野裕史。砂漠マラソン世界一を経て、“馬のマラソン”で五輪を目指すワケ(前編)

運動がなければ、きっと自分のことばかり考えていた

−−確かに競技を通じて出会う人って、仕事や出身などバラバラですもんね。では、「もし運動していなかったら」と考えたとき、今の自分と人生観にどんな違いがあると思いますか?

おそらく運動していなかったら、自分ばっかりの人間だったと思います。何かうまくいけば自分の手柄。逆にうまくいかなければ、他人を憎んだり羨んだり……。たとえ仕事がうまくいっていたとしても、つまらない人間だったかもしれません。

自然や生き物の中でチャレンジしていくと、当然ながらうまくいかないことがたくさん訪れます。しかしそれらを受け入れると、上手くいったときは周囲への感謝に変わるんです。チャレンジを続けていくと、例えば近くにいた見知らぬ人からふと応援の一言を受け、ビックリするほどの勇気をもらうなんていうことも。当たり前に、周りの人への感謝が深まります。

−−感謝の気持ち、とっても素晴らしいことですね。これまで、たくさんの人々との出会いがあったのだと思います。その中で、特に人生を変えてくれた人物がいれば教えてください。

影響を受けた人はたくさんいますが、特定の誰かと言うより、それらの人たちへの向き合い方が変わったと思います。もともと、自分にとってメリットがある人しか興味を持ってなかった人間でしたから。

しかしマラソンなどのチャレンジを経て、どこで、誰の一言に救われてゴールにたどり着けるか分からないということが日常になると、普段から人との向き合い方が変わってきたなと感じるんです。自分の感覚なので、周りから見たら「全然変わってないよ!」なんて言われてしまうかもしれませんけどね。

−−今の人生において、運動することはどのような役割を持っていると感じますか?

これまでのチャレンジ全てに言えることですが、もっとも大事なことは、常に新たな目標を作って向かっていたこと。その過程で、新たな出会いや気づきがあったのだと思います。でも、まさか乗馬に挑戦することになり、馬から勇気をもらうことになるなんて想像もしていませんでしたけどね。

そんな運動は、私にとって自分の生き方の充実度、あるいは熱中度を知るためのバロメーターでしょうか。もちろん、常に何かに熱中して生きているなんて、なかなかないことです。しかし自分に甘えていたり、あるいはいい加減な生き方をしていたりするのは、運動に限らず多くのことに打ち込めてないときなのだと思います。

やってみたいことは、迷わずチャレンジを!

−−なるほど。熱中できる何かがあるって、人生全体において非常に意味のあることなんですね。それでは最後に、読者へメッセージをお願いします!

とにかく言いたいことは、「難しいことを考えず、やってみたいことは悪ノリでもやっちゃえ!」ってことでしょうか。仕事がどうとかいろいろ考えると、結局は何も変わりません。いくら失敗しても、命を落とすようなことなんてなかなかありませんよ。でも、もし「自分はもう死ぬんだ」というときに後悔したって遅いですからね。

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[プロフィール]
小野裕史(おの・ひろふみ)
インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナー。運動ゼロからテレビゲームをキッカケにマラソンを開始。北極や南極、ジャングルなど世界各地の過酷なマラソン大会に挑戦し、2013年にはチリのアタカマ砂漠で行われた250kmレース「Atacama Crossing 2013」に仲間と3人でチームを組み出場、チーム戦で世界一を獲得。その後、エンデュランス馬術競技への挑戦をスタート。2017年5月に国際大会「Biltmore Challenge 160km」を完走。オリンピック出場を目指し、日々トレーニングに取り組んでいる

[筆者プロフィール]
三河 賢文(みかわ・まさふみ)
“走る”フリーライターとして、スポーツ分野を中心とした取材・執筆・編集を実施。自身もマラソンやトライアスロン競技に取り組むほか、学生時代の競技経験を活かし、中学校の陸上部で技術指導も担う。またトレーニングサービス『WILD MOVE』を主宰し、子ども向けの運動教室、ランナー向けのパーソナルトレーニングなども行っている。3児の子持ち。ナレッジ・リンクス(株)代表
【HP】http://www.run-writer.com

<Text:三河賢文>