インタビュー
2017年6月28日

【実は私、スポーツマンなんです。#1】何事も続けることに意味がある。14年間続けるランニングへの想い。ファンコミュニケーションズ柳澤安慶氏

 スポーツを趣味以上の存在としてとらえ、プロアスリートのごとくストイックに取り組むビジネスパーソンが増えています。多忙のなか、なぜそこまでスポーツに打ち込むのか? 楽しむため? 鍛えるため? 健康維持のため? それともモチベーションアップのため?

 その謎に迫るべく、仕事とスポーツを上手に両立させている企業代表や各界の著名人に、スポーツとの関わり方や、スポーツがもたらすビジネスへの影響について訊く本企画。第1回は、成功報酬型広告サービスの草分け的存在として広く知られる、ファンコミュニケーションズ代表取締役社長の柳澤安慶氏に、長く親しまれているランニングとの関係性について伺いました。

ランニング人生を変えたホノルルマラソンとの出会い

―― 柳澤さんはランニング好きということですが、どのくらいの頻度で走っているのでしょうか。

 基本的には毎日走っています。毎朝5時半に起きて、少し仕事をした後に10㎞ジョギングするのが常です。走ることが生活の一部になっている感じです。とはいえ、これからの東京の暑い季節はちょっと厳しいですよね。そんなときはジムに行って、トレッドミルで走ります。雪が降るような寒い日もジムですね。朝から仕事が入ったときや、よほど体調が悪い時以外は走っていますね。

―― 何をきっかけにランニングを始めたのでしょうか。

 最初のきっかけは体質改善というか、健康のためでした。14年程前の話になるのですが、当時はかなり体重が増えてしまって、何をするにも息が切れていた。たとえば、子どもと遊んでいるだけなのに、割としんどく感じてしまうことが多くなってきました。何か運動しないとマズいと思い、まずウォーキングを始めました。最初はまったく走るどころじゃなくて2、3ヶ月は、体重を落とすことを目標にして毎日4㎞ほど歩き、少しずつランニングに変えていきました。

 しかし、走り始めると誰でも体験すると思いますが、やっぱり膝を痛めてしまって。その後しばらく走ることができず、一旦走る習慣を止めてしまったんです。すると再び走り始めるのがなかなか難しくてどうにもモチベーションが上がらないんですね。そこで意を決して、ホノルルマラソンに出てみようと家族に宣言したんです。子どもとかに宣言しちゃうとお父さん嘘つきになっちゃうからどうしても走らざるをえなくなる。それで再び走り始めました。

―― なぜホノルルマラソンを選んだのでしょうか。

 やはり、モチベーションアップを考えてですね。ホノルルなら走るだけでなく、ハワイへ行く楽しみもあるわけですから。まあ家族がついて来てくれそうという理由もありましたが(笑)

 そしてホノルルマラソンに出ると決めてから毎日10㎞走ったり、ジムでトレーニングをしたりと準備を重ねて本番に臨みました。しかし、結果は散々でした。途中で膝が痛くなるわ、おじいちゃんや小学生にバンバン抜かれるわで、なんとか完走こそしたものの目標タイムの5時間を切ることはできずに、散々な初レースでした。

 その後、3回ホノルルマラソンに挑戦しているのですが、毎回目標を変えて参加しました。初出場で失敗してしまったので、とにかく2回目は5時間を切ることを目標にして臨んだ結果、一度も歩くことなく完走できたのです。そして3回目は、4時間を切るというより高い目標を掲げ、こちらも無事達成して、この時は子どもたちも尊敬のまなざしで見ていました(笑)

 4時間を切った次のレースでは、目標タイムを3時間に設定したのですが、那覇マラソンで3時間23分という記録を出したくらいで、その後はなかなかタイムが伸びず、故障などもあり、残念ながらサブスリーの称号は手に入っていません。記録を出すことを目標にするには、とにかく走りこむ距離が大切で、マラソンっていうのは正直なスポーツで、練習量以上の記録は絶対出ないものです。3時間切りを達成するには、食事管理やトレーニングを徹底しないと無理ですね。

仕事とマラソンのほど良い関係

―― ほかの大会にも挑戦しているのですか。

 那覇マラソンはもう5、6回、沖縄マラソンや東京マラソンにも出ていますが、総数はそれほど多くないです。年に1回出場する程度ですし、なにより今はレースに出るより、単に好きだから走るというようになってきています。

 会社でも「走る会」というランニングサークルをやっていて、みんなで楽しみながら駅伝に出たり、ランニング会を開いたりしていますが、はじめは社員の健康のためにもランニングを普及させるぞとか思ってやっていたんです。社員を誘って私の実家のある長野県佐久市まで170キロを走ったこともあります。今ではまあ好きな人が走ればいいやということで、走った後の飲み会中心にやっていますね(笑)

▲2016年「多摩川リバーサイド駅伝in川崎」に出場したときの柳澤さん

―― 走ることって仕事に役立つものなんでしょうか。

 そうですね。走る時間って一人になれる時間でもあるんですよね。電話もメールも追いかけてこないですから。走るときは基本的にスマホを持たないようにしています。ポケモンGOをやっている時だけは持って走りますけど(笑)。1人の時間ってやっぱり考える時間でもあるわけですよね。仕事のこと考えたり、家族のこと考えたり。

 すると時々、ふといいアイディアが浮かんだりするんですよね。「あれ? なんで今までこのことに気づかなかったんだろうか?」って感じで。それと、何かの決断に迫られているとき、走りながら決めることもよくあります。ランニングって足を止めなければ必ず前に進むものじゃないですか? だから発想もポジティブになる、未来を見て考えられるような気がします。私にとって走ることは仕事にも役立っていると思います。

―― 走ることと、働くことはどこかシンパシーを感じるということですね。

 まさにそうです。私にとって走ることと経営することってすごく似ているように感じます。経営ってストイックに我慢しないといけいことも多いし、何より成長するために走り続けないといけない。今日上手くいかなくても明日はまたチャレンジしなければいけない。

 そういうことが、一歩一歩足を出すことで前に進めるランニングとすごく似ていると思います。周りから見ていると、なんかバカだなあ、毎日走ってという感じに見えるかもしれませんが、それをコツコツ続けると、マラソンレースでとんでもない記録が出るというようなところも経営で結果をだすことに似ているかもしれませんよね。

走ることとは一体?

―― なぜ、走ることを14年間も続けられるのでしょうか。

 実を言うと私もなぜ走り続けているのかよくわかりません(笑)。
私の仕事はどちらかというとデスクワークなので本能的に身体を動かすことで心と身体のバランスを取っているのかもしれませんね。あとは手軽という点も大きいです。ジョギングシューズを履くだけで準備OKですから。実際、海外出張や旅行に行くときは、スーツケースにジョギングシューズを忍ばせて、現地でよく走っています。そして何より、昔から何度も続けることへの挫折を味わっているので、続けることへの憧れのようなものがあります。だからこそ、走ることで自分が続けられることを確認したいというようなところもあるのかもしれません。面倒くさい性格ですよね(笑)

 また、走るときに意識していることがあって、それは「明日も走る」ということです。今日できても明日できなきゃ意味がないと思うんです。体調がすごく良くてスピード出しても全然疲れないときや、体調がすぐれないときも、次の日のことを考えて走り方を決めています。仕事においても同じようなことをよく考えています。花火のように瞬間的に評価されることをするのも楽しいかもしれませんが、周りの人間を巻き込んで社会を変えていくためには、時間をかけてコツコツと継続していくことがもっと大切なのだと思います。走ることはそういうことをフィジカルに私に理解させてくれる気がします。

―― 最後に柳澤さんにとって走ることをひとことでいうと。

 ルーチンのひとつですからね。歯を磨くことや食事を取ることと同じです。いわば生活そのものですね。

【プロフィール】
柳澤安慶(やなぎさわ・やすよし)
1964年10月20日生まれ。長野県出身。1999年に株式会社ファンコミュニケーションズを設立。PC・スマホ向けのアフィリエイト広告サービス「A8.net」や、アドネットワークサービス「nend」など、革新的なサービスを多数発表し、どれも高いシェアをキープしている。2014年に東証一部に市場変更

<Text:上野慎治郎(アート・サプライ)/Photo:小島マサヒロ>