正解はない、親は子どもをよく見てどれくらいなら耐えられるのかを判断すべき 元プロ野球選手・五十嵐亮太(後編)|子どもの頃こんな習い事してました #34 (2/2)
――野球はしなかったのでしょうか。
息子は野球を見るのは大好きなんですが、合う合わないがあるんでしょうね。キャッチボールをしても全然楽しそうじゃない。だったらやりたいことを続けたほうがいい。僕の場合、子どものころに本当に好きなものと巡り合って、それを続けて仕事にできた。そういうものはなかなか見つかるものではないですよね。
――習い事において厳しく言ってること、これだけは守ってほしいことはありますか。
やっぱりたまにサボりたい時があるけれども、簡単にはサボらせないです。だけど、「そこまでいうなら無理する必要もないかな」と休ませることもある。これはもう本人の表情や目を見て話して判断するしかない。親が練習させないと自分からはやらないということもあるかもしれないけど、子どもに「練習させられてる」と感じさせないように、自分から「練習したい」と思うような環境を作った方がその子のためになると思います。
でもわかんないね、ピアノなどの芸術系は、しんどい思いして練習させられたのがよかった、うまくいったという人もいるし。それは子どもの性格や、どれくらい親が子どもと向き合えるかによる。正解は本当にない。
今はどんな時も現役のときほどのプレッシャーはありません
――引退後、スキーを始めて、バイクの免許も取得したそうですが、これから始めたいこと、習ってみたいことはありますか。
絵のお仕事をいただいているので軽く絵を描きながら、楽な感じでやりたいことをやるスタンスです。今は現役の頃のようなどうしようもないほどのプレッシャーを感じることはないので、楽しいです。例えば生放送出演でも、マウンドに上がる直前の心理状況を考えたら、そこまでのプレッシャーはないから全然いける。「この試合は落とせない」という緊迫した場面の経験はやはり大きい。
そういうプレッシャーがないのは寂しさでもあるけれども、あったらあったで自分の気持ちをコントロールできないことも多々あるので、そういった意味で言うと今は穏やかに力を抜いた状態で日々過ごしています。
――今後、指導者になることはありますか。
こればっかりはお話をいただけるかいただけないかというところなんで。意識してなくはないですが、今のところはないかな。今はチームから離れたところで野球解説をさせてもらって、他の引退した方の話を聞いて、今まで気づかなかったところが見えて勉強になっているので。野球にはずっと携わっていきたいと思っているので、指導者になることを見据えつつも、今の生活をもうちょっと楽しみたい。
「敬遠」は逃げるのではなく一時退散、それでいい
――前編で「野球人生を謳歌できた」とおっしゃってましたが、引退してからも楽しそうですね。
もちろん楽しいことばかりじゃないけど、楽しい話のほうがいいじゃないですか(笑)。今は落ち着いてきたけど、引退して1年目は自分はどういった方向に行くのかと探りながらの時期でした。現役の時もハッピーとそうじゃない時間、どっちが長かったかといったら、「ハッピーのほうが長かった」とはなかなか言えないです。特にアメリカにいるときは苦しい時間の方が長く、もうダメだ、このままいったらクビになっちゃうっていうこともあった。メンタル的にコントロールできなくて眠れず、「今日の朝の光、妙に嫌だな」と思ったこともあります。
――そうした苦しい時期をどのように乗り越えたのでしょうか。
とにかく立ち上がって、立ち続けて、次どうするかを考えて探す。もちろん他の人からいろんな話を聞くこともあります。自分が投げたいと思うボールを投げられなかったら、投げ方を変えるなどいろんなことに挑戦しなきゃいけない。挑戦したらしたで、他がダメになる場合もある。
野球選手は常に探っているんです。いつも同じスタンスでは絶対に生きていけないから、そのシーズンの中で何がはまるか必死で探す。それを見つけたときが野球選手としての喜びですよ。「これハマった!」「これであと1~2年持つかな」って。
ひたすら探してもみつからないのに、突然降ってくることもあるんです。でもそれは夢中になって真剣にやってる人にしか来ない。そうして苦しい時間を乗り越えることが、生きてる中での⋯⋯なんていうのかな、大切な経験として生きてくる。苦しいけれどもうまくいくために必要な時間だと思う。
――五十嵐さんでも苦しんでそれを懸命になって乗り越えてきたというのは、野球少年たちの励みや刺激になると思います。
ただね、小学生や中学生くらいだと、苦しいときに、今いる環境がすべてだと思っちゃうじゃないですか。そうじゃないっていうのはわかってもらいたい。環境は変えられるし、逃げるのも策だと思うんです。逃げるのは無理だと思っても逃げられるから。ピンチになったら逃げる。
プロでもそんなことはたくさんある。野球でいったら敬遠もそう。無理に勝負する必要ない。あれは逃げるんじゃなくて一時退散なんです。「また戻ってくるから待っとけ」というスタンスで、常に向き合い続けなくてもちょっと距離を置いてみればいい。
やはりその判断は親。子どもを見てどれくらい苦しいのか、どれくらいなら耐えられるのかを見る。体へのトレーニングと一緒です。ケガのない程度に刺激を入れないと強くならないけれども、刺激を入れすぎるとケガをする。そのあたりの見極めが大事だと思います。
[プロフィール]
五十嵐亮太(いがらし・りょうた)
1979年生まれ、北海道出身。1997年、敬愛学園高校からドラフト2位でヤクルトスワローズに入団。最優秀救援投手や、優秀バッテリー賞を古田敦也と獲得するなど、名実ともにヤクルトスワローズの守護神となる。2010年シーズンから2012年シーズンまでMLBでプレーし、通算5勝をあげる。 2013年より福岡ソフトバンクホークスに移籍。 2019年から古巣・ヤクルトスワローズに在籍。 2020年シーズンを持って引退。引退後は野球解説ほか、多方面で活躍している。
<Text:安楽由紀子/Edit:丸山美紀(アート・サプライ)/Photo:小島マサヒロ>