インタビュー
2019年10月8日

ソフトボールでは怒られてばかり、短距離も遅い。だから持久走大会だけは絶対に負けたくなかった。陸上・柏原竜二(前編)|子どもの頃こんな習い事してました #26 (1/2)

 スポーツ界の第一線で活躍しているアスリートに、幼少期の習い事について訊く連載。自身の経験を振り返っていただき、当時の習い事がどのようにその後のプレーに活かされたか、今の自分にどう影響しているかを伺います。

 第26回は、箱根駅伝の「山の神」として知られる元長距離走選手の柏原竜二さん。小学生のころはソフトボールチームに所属。しかし怒られてばかりでまったく楽しくなかったそうです。ソフトボールよりゲームが好き。そんな子どもの頃について伺いました。

「やめてやる!」とグローブを叩きつけたことも

――子どものころの習い事を教えてください。

習い事というほどではないけど、小学校5、6年のときに、地元の福島県いわき市でお盆のときに踊る「じゃんがら念仏踊り」を夏場にちょっとやっていましたが、それ以外には習い事をしたことがありません。

今思えば習っておけばよかったというものはたくさんあります。その一つがそろばん。計算が苦手なので、算数の成績はいつもアヒル(笑)。よく1にならなかったなというくらい。だからそろばんはやっておけばよかったな、と。今はスマホで計算できる時代ですけど、数字を見てパッと計算できる人はカッコいいなと思いますし、会社でも計算能力が求められることは多い。日常生活でも買い物とか交通費とか暗算が必要な場面は多いですよね。

――小学校のころはソフトボールチームに入っていたそうですね。

はい。3年生から6年生まで入っていました。うちは6人兄妹で、双子の兄を含めて兄4人がみんなソフトボールをやっていたんです。よく例えとして出すんですが、ハリー・ポッターのロン・ウィーズリーと同じ。ソフトボールをやって当然、やらざるをえない家系なんです(笑)。チームの監督やメンバーにも「またウィーズリー家が入った」という感じで見られていました。

まったくうまくなかったし、おもしろくなかったですね。最後のほうはちょっとおもしろくなった気もしましたが、基本的には楽しくなかったです。練習は月・水・金、日曜日はだいたい試合。週3日も練習していればうまくなると思うんですけど、ちっとも上達しなかった。本当に興味がなかったんでしょうね。エラーしたら怒られ、試合で負けたら「おまえのせいだ」と非難され、なにが楽しいんだろうと思っていました。

プロ野球が好きでテレビで試合をよく観ていたし、トレーディングカードを集めていたけど、自分がやると「なんで怒られるんだろう」「なんでこんなきついノックを受けなきゃならないんだろう」と、そればかり。5年生か6年生のときに「やめてやる!」とグローブを叩きつけたこともあったんですが、チームの人数が少ないのでやめさせてもらえなかった。泣く泣く4年間続けました。

――守備はどこでしたか。

レフト、センター、ライトもやったし、ファースト、セカンド、サードも……。よく言うとユーティリティプレーヤー、悪く言うとたらい回し。空いているところを守らされていました。監督は「どこで使ったらいいんだろう」「こいつはどこで輝くのか」、と迷っていたのだと思います。結局どこでも輝かなかった。

兄たちは上手いんです。みんな器用。双子の兄もそつなくなんでもできる。できるからこそ飽きてるように見えるときもありました。だから逆に僕はできなくてよかったと思っています。できなきゃできないで、1つのことにしがみつくしかないから。唯一、兄ちゃんたちに勝てる分野は陸上だけ。僕も器用だったら、たぶん陸上はやってないし、どれもそこそこで器用貧乏になったかもしれない。

持久走では6年間1位、だけどほめられない

――お兄さんたちと比べられることはありましたか。

親からはなかったけど、周りからは毎日のように比べられていました。「兄ちゃんはこうなのにおまえは……」と。中学に行っても双子の兄が隣のクラスにいたので比べられる。だから、兄と同じ野球部ではなく陸上部を選んだというところもあります。

――走ることはずっと得意だった?

小学校6年間、持久走大会で負けたことがなかった。ただ、1学年1クラス20人前後、男子が10人くらいの小さい学校だったので、井の中の蛙でしたね。走っているときは苦しいけれど負けたくない一心。短距離は遅いし他のスポーツも苦手なので「持久走だけは負けないぞ、絶対に1位を取るぞ」と思っていました。

――6年間1位だとさぞほめられたのではないでしょうか。

まったくほめられない。中学のとき親は陸上の試合を見に来てくれていたので、興味関心がないわけではなかったと思うんですけど、応援はしても必要以上のことは何も言わない。「誰が速い」とか「この選手に勝った、負けた」ということも言わない。いい意味で、よくわかってなかったんでしょうね。それにうちはなにぶん6人兄妹なので、1人の子にのめりこむお金や時間の余裕がない。すべてが6等分なんです。

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